薬を飲んでいるときグレープフルーツを食べてはいけない理由を調べてみた

この記事では、飲んでいるときはグレープフルーツを食べてはいけない薬があることを知って、薬を代謝する体の仕組みと、シトクロムP450について。グレープフルーツを食べると薬の効き目が強くなってしまう可能性があることについて書きました。

グレープフルーツ

先日実家に行った時、母親が、いま飲んでいる薬はグレープフルーツを食べたらだめだといわれているんだといってました。血圧の薬との飲み合わせが悪いそうです。

体の中の異物「毒」の科学 ふつうの食べものに含まれる危ない物質 を読みました。この本はスラスラ読めませんが、実にていねいに書かれているよい本です。私は1回読んだくらいではほとんど理解できませんでしたけれども。

この本に、なぜグレープフルーツが、薬の効き目に影響するのか詳しく書かれていました。

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なぜ薬を飲んでいるときグレープフルーツを食べたらいけないのか?

答えを最初に書きましょう。

グレープフルーツに含まれるフラノクマリンという物質が、薬を代謝する酵素シトクロムP450の一つ、CYP3A4を阻害するからです。

フラノクマリンは原因となる物質ですが、この記事では取りあげません。薬を代謝する酵素、シトクロムP450について知ることの方がずっと面白くて意味があります。

CYP3A4は酵素シトクロムP450の中の1つです。

グレープフルーツは、原則、これ以外のシトクロムP450を阻害しないので、全ての薬に対して、グレープフルーツがダメだということではありません。

シトクロムP450について書く前に、最初に、薬を飲んだらどのように体から出ていくか確認しておきましょう。これ、シトクロムP450の働きを知るときに重要なのです。

飲んだ薬はどこから出ていくか

薬を飲むと、もちろんしばらくして体から出ていきます。それはどこからでしょう?

薬は尿から出ていく

薬は飲んでしばらくすると、代謝されて尿から出ていきます。薬を飲むとオシッコのにおいや色が明らかに変わりますね。

昔、とくに1970年代だったか、ビタミン剤のアリナミンを飲む人がとても多かったです。私も当時野球をやっていたので、練習でくたびれると夜アリナミンを飲んでいました。

翌朝、オシッコは、真っ黄色になり特有のにおいがしました。他の薬を飲んだときも、アリナミンほど極端に変わらないまでも、変化を感じます。

代謝(分解)された薬は、腎臓から尿に混ぜて捨てているのです。腎臓から尿に捨てられるには、尿はほとんど水ですから、水溶性の物質でなければいけません。

では、薬はもともと水溶性の物質なのかというと、そうではないのです。

薬は脂溶性じゃないと細胞に吸収されにくい

薬を飲むと、おもに腸から吸収されます。そして腸の表皮細胞を通り抜けると、血液中に入ります。

しかし、表皮細胞の表面には細胞膜があります。細胞膜は、リン脂質が脂質二重膜を形成しています。細胞膜は脂質なので、油に溶けやすいものは通しやすいのですが、水溶性のものは通しにくいのです。もちろん、細胞に必要な水は別です。水だけを選択的に通すチャンネルがあります。

たとえば、食塩は水に溶けますが、油には溶けません。細胞膜が水溶性のものを通しにくいのはこのことと同じ理屈です。

一般的に細胞に取り込まれやすいのは、脂溶性の物質です。そうすると、薬をつくる時は、脂溶性にした方が、細胞に吸収されやすいことになります。

しかし、薬が体から出ていくときは、水溶性になっていて、腎臓から尿に混ぜて捨てられていました。

脂溶性の薬を代謝して水溶性に変える働きをもつものが、シトクロムP450です。

シトクロムP450

シトクロムP450について、本にはこのように書かれていました。

肝細胞の滑面小胞体に存在する薬物代謝酵素であるシトクロムP450(P450と略)は、酸素を活性化して酸素原子や水酸基を導入する官能基導入反応(第1相反応ともいう)を行う。

水酸基があれば、これにつづく抱合反応によって、水酸基に水溶性の分子を結合させて水溶性に変えることで、尿中に捨てることができる。

解毒はおもに肝臓で行われます。

シトクロムP450は、薬物代謝酵素と書かれていますが、もともと自然界には化学的な薬物はありません。「解毒」する酵素だと考えてください。体の中に入ってきた異物を代謝して、体の外に出すための酵素です。

水酸基は(-OH)のことです。脂溶性の物質に水酸基(-OH)がつくと、水に溶けやすくなります。抱合反応とは、水酸基に水溶性の分子を結合させてさらに水溶性を上げる反応だと考えることにしましょう。

ご興味があれば、ウイキペディアの薬物代謝に抱合反応が詳しく説明されています。

シトクロムP450は酵素です。タンパク質なので分子が大きく、構造式は書けません。画像がありましたが、勝手に持ってくることはできないので、下の日本蛋白質構造データバンクのリンク先をご覧下さい。

トルエンの代謝

本の中で、P450による反応と抱合反応の1例として、トルエンの代謝について説明されていました。こんな風に説明していただけると、分かりやすくなるのでありがたいです。

トルエンはシンナーのことです。印刷業界では溶媒としてよく使われるそうです。私は自転車が趣味なので、パンクを自分で直しますが、現在、お店で買えるゴム糊はトルエンが入っていないタイプだけです。もちろん、シンナー遊び対策のためです。

トルエンの代謝は、トルエンがベンジルアルコールになり、安息香酸(あんそくこうさん)から馬尿酸に変化します。下に反応の経過を描いて載せました。

P450によって酸化

トルエンは、P450によってメチル基(-CH3)が酸化され、ベンジルアルコールになります。メチル基の水素が1個水酸基(-OH)に置き換わります。

次は、アルコールデヒドロゲナーゼによってアルコールから脱水素してアルデヒド(-CHO)になり、さらにアルデヒドデヒドロゲナーゼによって脱水素してカルボキシル基(-COOH)がついたカルボン酸になります。これが安息香酸です。

グリシンが抱合反応

次に、安息香酸のカルボキシル基(-COOH)に最も単純な構造で水によく溶けるアミノ酸、グリシンが抱合反応して馬尿酸に変化します。馬尿酸が尿から捨てられる最終物質です。

安息香酸と馬尿酸とグリシンを見比べると、安息香酸のカルボキシル基とグリシンが脱水(H2O)して結合しているのが分かります。

トルエンの代謝

トルエンの代謝

それぞれ溶解度を比較してみる

実際のところ水にどのくらい溶けるのか、それぞれ調べてみました。トルエンからベンジルアルコールになると、ずいぶん溶けるようになりましたが、その後アルコールから脱水素する酸化によってできた安息香酸では、少し溶けにくくなります。

しかし、最終物質の馬尿酸は、温水によく溶けるとしか書かれていないので、数字で表すことができないくらいよく溶けるのでしょう。

これで、シトクロムP450とその後の抱合反応の意味がよく分かりました。本当に水に溶けやすくするための反応でした。

物質名 溶解度
トルエン 0.047 g/100ml (20–25 °C)
ベンジルアルコール 4.29 g/100 ml (20 ºC)
安息香酸 可溶 (温水)
0.34 g/100ml (25 °C)
馬尿酸 温水によく溶ける

ちなみに、尿中の馬尿酸濃度は、印刷業界で働く人のトルエン曝露量(さらされている量)を調べるために使われているそうです。

さて、これで、シトクロムP450の働きについて理解することができました。酸素か水酸基を結合させて、水に溶けやすくするのです。

CYP3A4は50以上あるP450の中の1つ

ところで、冒頭の「なぜ薬を飲んでいるときグレープフルーツを食べたらいけないのか?」の答には、CYP3A4というのが出てきました。

グレープフルーツに含まれるフラノクマリンという物質が、薬を代謝する酵素シトクロムP450の一つ、CYP3A4を阻害するからです。

CYP3A4の読み方は、「シップさんえいよん」だそうです。

CYPは、Cytochrome(シトクロム)P450から3文字とった略称です。そのあとの3A4は、遺伝子の類似性をもとに、アラビア数字でファミリーを、次のアルファベットでサブファミリーを、さらに次のアラビア数字で固有名を示しているそうです。

詳しいことは、ウイキペディアのシトクロムP450に書かれています。

ここで大切なのは、シトクロムP450には分類番号があるくらい種類がたくさんあるということです。

高校の時に、酵素には基質特異性があると習ったことを思い出しました。

ヒトのもつP450には、50以上の種類が存在する。

通常の酵素は、酵素と反応する分子である基質の構造を、カギとカギ穴がぴったり合うような正確さで認識して結合し、化学反応を行う。

しかし、本来は体内に存在しない生体異物の場合は、きわめて多種多様な構造をもつ。そのため、解毒の一翼を担うP450は、多くの構造を認識する結合部位を備えておく必要性から、これほど多くの酵素が発達してきたと考えられている。

グレープフルーツを食べてCYP3A4が阻害されるとどうなるか?

さて、やっとグレープフルーツと薬の関係に話が戻ります。でも、きっとここまで読んでくださった方なら想像がつくと思います。

グレープフルーツを食べてシトクロムP450の1つCYP3A4が阻害されると、酵素CYP3A4が働かなくなります。

薬が濃くなって効き過ぎる

すると、CYP3A4によって代謝(分解)されるはずだった薬が分解されなくなります。薬は時間とともに分解される前提で、1回の分量や1日の分量が処方されます。

ところが、分解されないと、ずっと効くことになります。いや、それどころか、分解されずに次のが入って来たら濃くなって効き過ぎることになります。

これは注意しなければいけないですね。グレープフルーツと同様の働きを持つ柑橘類はいくつかあります。

グレープフルーツと同様の働きをする柑橘類

晩白柚(ばんぺいゆ)、土佐文旦、平戸文旦、スィーティー、サワーオレンジ(ダイダイ)、夏みかん、ポンカン、いよかん、絹皮(きぬかわ)、金柑、八朔(出典

P450は誘導される

薬は飲み続けると効かなくなるとよくいわれます。P450は、薬が体の中に入ってくることによって増えていくようです。

P450は多くの医薬品や食品に由来する生体異物を酸化するが、逆にP450が化学物質によって誘導されることもよく知られている。

誘導とは、ある化学物質(誘導剤という)が特定のタンパク質の遺伝子発現を活性化することで、そのタンパク質の量が増加する現象を指す。

たとえば、同じ睡眠薬を使っていると徐々に効き目が薄れてくるのは、その薬を酸化するP450の量が増えて、当初に比べ、短時間で分解されるようになるためである。

この事実は、私たちの体に、50種類以上のP450の中から、摂取した化学物質を酸化する特定のP450の量が増加する機構が備わっていることを意味している。

これだけを読むと、体が薬の刺激に適応しているのだろうと思うのですが、誘導によって効かせたい薬が効きにくくなることがあります。

CYP3A4が先に誘導されているとCYP3A4で代謝される薬は効きにくくなる

ハーブのエキスを飲んでいたらP450のCYP3A4が誘導されていて、飲んだ薬が効きにくくなってしまう話です。

医薬品との関係では、抗うつ作用をもつとされるセントジョンズワート(西洋オトギリ草)の成分がCYP3A4を誘導して量が増加する。

すると、CYP3A4によって分解されるインジナビルがCYP3A4の増加分だけ速く分解されて血中濃度が低下し、その効果が低下することがわかっている。

インジナビルは抗HIVの薬です。セントジョンズワートもインジナビルも代謝にはCYP3A4が関与していたんですね。

原理的には、CYP3A4で代謝されるすべての医薬品の効果が低下するので注意が必要です。いまネットで調べてみましたが、セントジョンズワートはサプリメントとしてかなり安い値段から販売されています。

これを飲み続けると、場合によって薬が効きにくくなるかもしれません。ご注意ください。

本にはCYP3A4について基質と誘導剤がでていました。基質は、CYP3A4によって代謝される薬。誘導剤は、CYP3A4を増やすものです。

誘導剤を使っていて、次に基質となる薬を使っても効果が低下してしまいます。薬品について、どんな目的のために飲む薬なのかと商品名について調べたので説明のところに書きました。

CYP3A4に対して基質と誘導剤になる薬
薬品名 説明
基質 インジナビル 抗HIV薬。商品名はクリキシバン。
イミブラミン 抗うつ薬。トフラニール、イミドール。
エチニルエストラジオール 経口避妊薬。
エリスロマイシン 抗生物質。エリスロシン。
カルバマゼピン 抗てんかん薬。テグレトール。
ジアゼパム 抗不安薬、抗けいれん薬。セルシン、ホリゾン。
シクロスポリン 抗生物質。サンディミュン、ネオーラル。
ジギトキシン 強心配糖体。
テルフェナジン 抗アレルギー薬。セルダン、トリルダン。
ニフェジピン等 血管拡張薬。アダラート。
誘導剤 カルバマゼピン 抗てんかん薬。テグレトール。
西洋オトギリ草 うつ病への処置法。セント・ジョーンズ・ワート
フェノバルビタール 抗てんかん薬。
リファンピシン等 抗生物質。リファジン。

グレープフルーツと飲み合わせのよくない薬

グレープフルーツと飲み合わせがよくない薬は、CYP3A4が阻害されて、効き目が強くなってしまう可能性がある薬です。

上の表に母が飲んでいる薬が出てこなかったので、ネットで調べてみました。土谷総合病院のサイトにあったグレープフルーツと薬の飲み合わせに詳しく書かれていました。詳細はこちらの記事をお読みください。病院の薬剤部の記事ですから正確です。

土谷総合病院薬剤部 くすりの窓:今回のテーマは「グレープフルーツと薬の飲み合わせ」です

まとめ

最初、グレープフルーツを食べたらいけない薬があるのは、効かなくなるからだろうと思っていました。

しかし、逆に、グレープフルーツを食べたら代謝が阻害されるので、濃度が濃くなる、薬が効き過ぎる可能性があるというのですからこわいなと思いました。

最近は、調剤薬局で薬をもらう時丁寧な説明書きを一緒にもらいます。注意事項が書かれていますからよく読むようにしましょう。

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