この記事では、これから炭水化物抜きダイエットをしようと考えられている方に、極端な糖質制限が続くと体によくないかもしれないことを、窒素の代謝を通して説明します。タンパク質を燃料にしないように他の食べ物とのバランスを取る必要がありそうです。
知人で炭水化物抜きダイエットではなく、持病の症状改善のため糖質制限をした人が2人います。本当に短期間でやせるのでびっくりしました。
炭水化物ダイエットをしようと思う人が増えるのも分かります。
つい先日、宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議を読みました。著者の吉田たかよし先生は、よくテレビに出ている方です。しかし、この本はすごく面白いですよ。
テレビではとても長く話す方だなという印象がありましたが、これだけスケールの大きい知識を持っていると説明せずにはいられないのだろうと思いました。
宇宙生物学とは「地球に限定せず、宇宙全体の広い視野で生命の成り立ちや起源を解明する学問で、アストロバイオロジーとも呼ばれています」と書かれていました。ウイキペディアにも記事があったのでリンクを貼っておきました。
化学を勉強中の高校生が読んでもかなり楽しめる本だと思います。
炭水化物抜きダイエットは、おかずだけたくさん食べる
炭水化物抜きダイエットは、インスリンを働かせないよう炭水化物を食べないのが決まりです。ごはん、パン、砂糖、お菓子、お酒も糖質を含むビールや日本酒はだめ。
すると、毎回、おかずで空腹を満たすことになります。炭水化物抜きの食事は、かなりお腹がすくらしいです。食べなくなると、ごはんはなかなか魅力があるのだとか。経験した人にしか分からないです。
空腹感があると1日で食べる肉や魚の量が増えるでしょう。当然、1日に摂取するタンパク質の量が増えます。
本来、炭水化物は、エネルギーをつくる燃料として使われます。炭水化物なしの生活になると、脂肪を分解してエネルギー源として使います。体についている脂肪や、肉や魚には脂肪が含まれていますからこれらが使われます。
もし、食べ物で燃料が足りなくなると、タンパク質を分解してエネルギー源にしなければならなくなるのですが、これが少々問題になります。
炭水化物と脂肪はきれいに燃える
炭素(C)、水素(H)、酸素(O)からなる炭水化物と脂肪は、体の中で燃やすと、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)になります。
炭水化物はエネルギー源、脂肪はそのエネルギーを貯蔵するための物質ですから、きれいに燃えて当たり前かもしれません。燃えたあとにできる二酸化炭素は吐く息から体外へ出ていきます。また、水は体内で利用されるか尿として出ていきます。
ところが、タンパク質には窒素(N)が入っています。
タンパク質の窒素が問題だ
タンパク質の窒素(N)は、体の中で有毒なアンモニアに変わります。それを肝臓で無毒な尿素にする必要があります。
窒素はアミノ酸のアミノ基にある
タンパク質は、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)の他に必ず窒素(N)を含みます。
タンパク質はアミノ酸がいくつもつながってできていますが、アミノ酸には必ずアミノ基(-NH2)がくっついているからです。下図はもっとも構造が簡単なアミノ酸、グリシンです。アミノ酸にはカルボキシ基(-COOH)とアミノ基(-NH2)が必ずついています。
この本には次のように書かれていました。
しかし、タンパク質だけは、まったく事情が違うのです。
アミノ酸が窒素原子を含むため、窒素原子の代謝物だけは、どうしても吐く息とともに捨てるということができません。(中略)
そこで人体は、いらなくなったアミノ酸の窒素原子を尿素という形に変え、尿に溶かして体外に捨てています。(中略)
実際、私たちの尿を分析すると、平均して98%が水分、2%が尿素で、足し算するとこれだけでほとんど100%になります。
つまり、不要になったアミノ酸の窒素原子を貴重な水に混ぜて捨てているというのが私たちの尿の実態なのです。
少し細かく説明しましょう。
アミノ基はアンモニアから無害な尿素になる
イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版にはこのように書かれていました。
まず、ヒトは体の全タンパク質のうち、1~2%を毎日代謝しているそうです。
細胞内タンパク質の連続的な分解と合成は,全ての生物で起こる.ヒトは毎日,体のタンパク質全体の1~2%以上(主として筋肉タンパク質であるが)を代謝回転している.(中略)
タンパク質分解により遊離されたアミノ酸の約75%は再利用されるが,過剰となったアミノ酸は蓄積されないので,新しいタンパク質にすぐに取り込まれないアミノ酸は速やかに分解される.
吉田先生の本では、尿素とすでに書かれていましたが、尿素になる前にアミノ酸からはアミノ基(-NH2)が外れてアンモニア(NH3)として取り出されます。下図では水に溶けているので、アミノ基(-NH2)に水素イオン(H+)がついてNH3+になっています。
肝臓の尿素回路(オルニチン回路)でアンモニア(NH3)と二酸化炭素から尿素ができます。
α-アミノ酸とα-ケト酸の横に書いている構造式に「R」が入っていますが、これは「基」のことで、この場合、主に炭素(C)、水素(H)、酸素(O)原子からなる集合体のことを意味します。
もっと具体的にいうと、その下のα-ケトグルタル酸とL-グルタミン酸を見て比較していただくと、「R」がどのような構造になっているか想像できると思います。
また、「α-」(アルファ)については、α-ケトグルタル酸の構造式を見てください。一番下のカルボキシ基から数えて、次の炭素をα、その次の炭素をβ、その次をγ・・・と数えていきます。
αの炭素にケト基(C=O)やアミノ基(-NH2)がついているという意味です。
アンモニアは有毒
ところで、アンモニアのにおいは分かりますか?
私は地方で育ったので、昔はくみ取り式のトイレの方が圧倒的に多かったです。夏など、アンモニアの刺激臭が目にきて涙がでたものです。
今は、理科や化学の実験でアンモニアを使った時でなければ、においを嗅ぐ機会はないでしょう。かなりの刺激臭です。涙がポロポロでます。
もちろん、アンモニアはからだに有毒です。
腸内細菌によって生成され,その後吸収されて門脈血に入ったアンモニアと,組織によって生成されたアンモニアは,肝臓によって循環血から速やかに除去されて尿素に変換される.(中略)
アンモニアは中枢神経系に有毒なので,肝臓の除去作用は非常に重要である.(中略)
アンモニア中毒の症状には,振戦,不明瞭言語,視力不鮮明,昏睡などがあり,最終的には死に至る.
振戦(しんせん)とは、「ふるえ」のことです。
アンモニアはこのように有毒ですが、尿素は無害な物質です。肝臓で、有害なアンモニアを無害な尿素に変え、腎臓から尿を通して排出しているのです。
宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議には尿素についてこのように書かれています。
腎臓で尿と一緒に捨てているわけですが、エネルギー源としてタンパク質を利用する割合が高まるほど、体内では廃棄物である窒素化合物の代謝のために肝臓と腎臓に余計に負担をかけることになります。
その分だけ、どちらの臓器も老化を早めてしまうわけです。クリーンなエネルギー源だといえる炭水化物とは大違いです。
タンパク質がエネルギー源に使われると、窒素の処理のため、肝臓と腎臓に負担をかけるということのようです。
炭水化物抜きダイエットの影響
さて、炭水化物を抜くことについて、賛否両論、いろいろな話があります。個人差があり、内臓の強さもそれぞれ違いますからこれが正しいとはいえません。
ただ、よくない影響があるかもしれないことは知っておいてよいと思います。
宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議にはこのように書かれていました。重要そうなところは、太字にして強調しておきます。
ウブサラ大学(スウェーデン)のパー・シェーグレン博士らが2010年に発表した論文によれば、924人の男性を対象に10年間にわたって炭水化物抜きダイエットなどの食事法が健康状態に及ぼす影響を調べたところ、パンやパスタをほどんど食べないといったいきすぎた炭水化物抜きダイエットを行うと死亡率が19%も増加していたということです。
とりわけ心筋梗塞で死亡する危険性は深刻で、なんと44%も増加していたと報告しています。
一方、タフツ大学(米国)のホリー・テイラー博士らが2008年に発表した研究によれば、炭水化物を極端に制限した食事を続けるとわずか1週間で脳機能にダメージが及び、記憶力の低下を招いてしまうということです。
さらに、ハーバード大学(米国)のフランク・フー博士らが2010年に発表した研究では、最大で癌が23%増えるという結果が得られています。
また、ワシントン大学(米国・セントルイス)のルイージ・フォンタナ博士らが2006年に発表した研究では、とりわけ乳癌、前立腺癌、大腸癌の危険性が高まることがわかっています。
このようにいきすぎた炭水化物抜きダイエットに健康を損なう危険性があるのは否定しようのない事実です。
ご参考まで。
タンパク質は体のために必要だがエネルギー源として使わないようにする
宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議では、タンパク質を否定しているわけではありません。むしろ、タンパク質の重要性を説明し、特に中高年の場合は、食事のタンパク質比率を高めるようすすめられています。
しかし、炭水化物抜きダイエットという極端な食事方法をして、タンパク質をエネルギー源とすることを避けるよう書かれています。
糖尿病の方はご注意を
特に糖尿病を患っている方へ注意するように書かれています。
患者さんの中には、医師に相談せず、自己判断で極端な炭水化物抜きダイエットを行う人が現れました。
炭水化物を極端に減らし代わりにタンパク質を過剰に燃焼させると、窒素のゴミが体内にたまります。
もし、糖尿病性腎症をすでに発病している方がそのようなことをすれば、窒素のゴミを尿と一緒に捨てることができず、まさに自殺行為です。
また、仮に糖尿病性腎症を発病していないくても、腎臓に過大な負担をかけてしまうと腎機能の低下を加速させてしまいます。
このため、日本糖尿病学会では、極端な炭水化物の制限には危険性があると警鐘をならしているのです。
まとめ
私はタンパク質のとり過ぎの話を聞くと、西丸震哉さんの食べ過ぎて滅びる文明(角川文庫 1985)を思い出します。この本は1985年に買って今でも持っています。
本の中で「飢餓時代に効力を発揮する昆虫食」というタイトルで、著者がニューギニアの原始社会の人たちと一緒に暮らしながらいろいろな昆虫を食べた経験が書かれています。
ただ、この文章の最後に気になることが書かれていました。
ただし、ニューギニアの原始社会で彼らが昆虫から摂取する蛋白質は、私の計算値では一日に九〇グラムにものぼっており、これはかなりの過剰摂取といえる量である。
しかも、昆虫摂取量は圧倒的に男子に多い。彼らの種族内で男は四十歳ぐらいなのに、見た目には七十歳の老人に見えるほどだ。そして短命である。
彼らの短命化の理由のひとつは、昆虫食による異常なほどの蛋白質のとり過ぎではないかとみられる。
昆虫だからといって、動物性蛋白質の過剰摂取は、やはり禁物である。
この話をなぜか30年以上覚えているのです。タンパク質の過剰摂取が、早く老けて短命になるという話が強く印象に残ったのです。きっと。