ビタミンD発見の歴史

この記事では、ビタミンD発見の歴史は、すでによく知られていたくる病とその予防と治療になるタラ肝油がもとになっています。しかし、実際は、制限食餌という、設計された餌で飼育されていたラットがくる病になり、そこで原因物質がつきとめられてビタミンDと名づけられました。

あん肝

この記事での話題の中心は、タラの肝なのですが、ビタミンDが一番多いのは、アンコウの肝、あん肝ですよ。

ビタミンDについて、働きや、多く含まれる食品や一日の必要量など細かいことは、ビタミンDの過剰摂取はいけないが高摂取は望ましいとかをお読み下さい。

ビタミンDの過剰摂取はいけないが高摂取は望ましいとか
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くる病

くる病について栄養学を拓いた巨人たちにはこのように書かれていました。

栄養学を拓いた巨人たち
栄養学を拓いた巨人たちを読むと、ビタミン研究は、今では考えられないことに、死に至る病だった欠乏症を解決するために進んだことがわかります。

くる病が文献に現れるのは、それよりはるかに時代を下った17世紀のことである。

成長期の子供に起こり、背骨や下肢が曲がり、頭が角ばって大きくなり、歯はぼろぼろに欠け、さらに関節や腹部に腫れなどを起こすのが特徴であり、日照に恵まれない北欧によく見られた。

とくに英国では、1760年代から起こった産業革命により都市の空は煤煙で覆われ、太陽光線のうち紫外線が遮られた。

英国政府がアフリカのボーア戦争で大量の新兵を募集したとき、国民の体格が劣悪になっていることに驚き、徴兵合格基準を大幅に下げねばならなかった。

原因を調査する委員会が結成されて英国民の劣悪な環境、食事条件が明らかになったが、結局、対策は講じられなかった。

実は18世紀にはすでに、スコットランドではタラの肝油を子供に与えるとくる病にならないことが偶然見いだされていたのだが、これは広く知られていなかった。

私が子供の頃、幼稚園から小学校低学年まで、定期的に肝油が販売されていました。カワイの肝油ドロップといったか。調べてみたら、健在でした。

カワイ肝油ドロップの河合製薬株式会社 河合薬業株式会社
みなさまの健康のお手伝い。親しまれ続けるカワイ肝油ドロップの河合製薬株式会社、河合薬業株式会社

ゼリーみたいで、イチゴ風味だったか甘い味がついていたので、「肝油」ってなんだろうと思った記憶はありませんでした。

くる病には肝油と紫外線

19世紀になってフランスの医師トルソーは、くる病の原因は太陽光の不足であることを指摘し、また、くる病は肝油によって治るが、植物油では効果がないことを報告した。

さらに英国のメランビーは、動物脂肪を含まない餌を与えられた子犬はくる病にかかるが、卵黄またはタラ肝油を餌に加えると健康に育つことを観察した。やはり植物油は効果がなかった。

これらの報告に対してグラスゴー大学から、動物脂肪なしでも新鮮な空気と十分な運動によって子犬は健康に育つとの反論がなされ、事態を一時混乱させたが、この条件下では子犬は十分な日光を浴びているはず、という結論に落ち着いた。

事実、ドイツでは、水銀紫外線ランプの照射がくる病の症状を軽減することが報告された。

このようにして、くる病の予防・治療に有効と認められたタラ肝油は、工場で生産されて広く食品として用いられるようになった。

また、紫外線照射もくる病治療に使用されるようになった。

ここまでは、くる病の予防や治療には、日光、特に紫外線に当たることと、タラの肝油を摂ると効果があるという話です。

もちろん、これらはビタミンDに関係ありますが、ビタミンDを発見するにはもっと別な作業が必要になります。

ここで登場するのが、ビタミンAを発見したエルマー・マッカラム(Elmer McCollum)です。

ビタミンDの発見

栄養学の歴史 (KS医学・薬学専門書 ウォルター・グラットザー 講談社 2008)には次のように書かれていました。

カルシウムは抗くる病因子ではなかった

制限食餌という、設計された餌で飼った幼ラットにくる病が発生し、そこから4通りの餌を与える実験が行われました。

マッカラムと助手たちが研究していた制限食餌で飼った幼ラットで骨構造の大きな変化が見られ,くる病に罹った.

餌にカルシウム標品ビタミンA標品または動物タンパク質を加えると和らげることができた.

これには動物の餌の大部分である穀物のタンパク質にはあまり含まれていないアミノ酸を含んでいた.

次いでマッカラムはバター脂肪を試みた.これによってビタミンA欠乏で起きる眼病の眼球乾燥症を予防できたが骨の変化は予防できなかった.

しかしカルシウムとバター脂肪である程度正常な発育がみられた.タラ肝油は眼球乾燥症とくる病の両方から守ることができた.

したがってカルシウムはくる病を予防するのに使われるがそれ自身は抗くる病因子ではあり得なかった.

少しわかりにくいので整理します。

まずバター脂肪にはビタミンAが含まれています。そしてビタミンAは、眼によいといわれますが、眼球乾燥症に効果があることを知っておいて下さい。

幼ラットに対して、くる病を起こすことがわかっている制限された餌に、次のような物質を加えて与えました。

  • カルシウム+ビタミンAまたはカルシウム+動物タンパク質・・・くる病になったが症状が軽くなった。
  • バター脂肪・・・眼球乾燥症を予防できたが、くる病になった。
  • カルシウム+バター脂肪・・・ある程度正常な発育。
  • タラ肝油・・・眼球乾燥症もくる病も予防できた。

上から3番目までの結果から考えると、餌にカルシウムを加えると、くる病が軽くなったり、ある程度正常な発育ができています。すると、カルシウムがくる病を防ぐと考えたくなります。

しかし、4番目のタラ肝油にはカルシウムが入っていません。タラ肝油によってくる病が予防できたので、カルシウムはくる病に罹ることを防ぐ、抗くる病因子だと考えることはできなくなりました。

続きます。

ビタミンAを酸化させたあとに残ったもの

ここから先は、眼乾燥症を防ぐビタミンAを取り除く作業を行いました。タラ肝油は眼球乾燥症もくる病も予防できたので、ビタミンAが入っていたら取り除き、くる病にだけ効果がある物質が残るのか調べたのです。

すでにくる病と食物リン酸との関係が示されており,適当な割合のリン酸とカルシウムの予防効果は明らかであった.

有用な観察がホプキンスによってなされた.すなわちビタミンAは空気中の酸素によって容易に酸化されて活性が失われた.バター脂肪に酸素ガスを通すとビタミンA活性は同様に失われた.

タラ肝油を同様に処理すると活性は残った.酸化されたタラ肝油に眼乾燥症を防ぐ効果は無く、くる病に有効なことを示すのはマッカラムに任された.

したがってタラ肝油と乳製品には2種の活性物質があり,そのうちの1つはくる病に特異的なものであった.

マッカラムはこれをビタミンDと名づけた.

この文章もわかりにくい。著者の言わんとしていることは分かりますので、整理します。これは原文がきっとよくないのだと思います。

眼球乾燥症に効果があるビタミンAは、酸素ガスを通すと容易に酸化されてビタミンA活性が失われます。

  • バター脂肪に酸素ガスを通すとビタミンA活性が失われた。眼球乾燥症を防げなくなった。
  • タラ肝油に酸素ガスを通すとビタミンA活性が失われた。眼球乾燥症を防げなくなった。
  • しかし、タラ肝油に酸素ガスを通した後も、くる病を防ぐ活性は残った。
  • くる病を防ぐ物質は、ビタミンAとは別ものだと分かった。
  • ビタミンDと名づけられた。

こうしてビタミンDが発見されました。

まとめ

マッカラムのキャリアは、牝牛を3つのグループに分け、それぞれ小麦、カラス麦、トウモロコシを与えて飼育する実験から始まっています。

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牝牛を放牧して、好き勝手に牧草を食べさせれば、本能で食べますから病気になることはあまりないと思います。

制限食餌という、設計された餌を与えるのは、人間の都合で、より安価で、より早く健康に育つような餌を探しているのだと思います。

しかし、途中で必要なビタミンを欠いた現象が起きることから、改めて貴重なビタミンの存在が分かるという話ですね。

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