昆虫食って、イナゴの佃煮、蜂の子以外にもたくさんあります。ほとんどの昆虫は食べられるんだとか。カミキリムシの幼虫、テッポウムシはおいしいけど、カブトムシの幼虫はまずくて食べられないそうです。昆虫食べてみますか?
昆虫を食べてわかったことを読みました。画像にアマゾンリンクが貼ってあります。
帯に「自給自足が可能な昆虫食で来たるべき食料危機に備えよう!」と書いてありますが、本を読むと、食料危機のために食べているのではなく、おいしいから食べているのが分かります。
しかも、なんだか読んでいると楽しくなる本です。子供の頃、虫取りカゴと網を買ってもらって、いろんな虫を追いかけ回したことを思い出します。
昆虫食に関しては、若い頃山小屋の小屋番をしていた時に(長野県だったので)、イナゴの佃煮を食べたくらいしか経験がありません。味もあまり記憶に残っていないです。
まずい虫はごくわずか
著者の内山昭一さんによると、まずい虫はほとんどないそうです。
私はこれまで一三〇種類以上の昆虫を食べてきました。その経験から言えることですが、「これはまずくてとても食べられない!」という虫はほんのわずかにすぎません。
たいていは普通の虫の味です。普通の虫の味とは、「ほんのり甘くて何となく植物系の味」といったところでしょうか。
いま、書きながらイナゴの佃煮を食べた時の印象を思い出していたのですが、自分で食べた感想を「草(稲)食っているからこんな味なんだ」といったことを思い出しました。
おいしい昆虫第1位はカミキリムシの幼虫
昆虫はおいしいという話に、テッポウムシの名前がよく出てきます。昔読んだ西丸震哉さんの本にも出て来た記憶があります。甘いらしいです。
テッポウムシ、ゴトウムシ、トッコムシなどさまざまな愛称で親しまれてきた虫がいます。カミキリムシの幼虫です。
日本に生息する昆虫のなかで最高のおいしさといえるでしょう。愛称の多さがそれを物語っています。
カミキリムシの幼虫のおいしさは「マグロのトロ」の味にたとえられます。トロリとした脂肪の甘味が特徴です。
いっぽうマグロの背側を赤身といいますが、カミキリムシの場合は成虫の胸肉がそれに似ています。よく発達した筋肉の旨味が味わえます。
幼虫を好む人が圧倒的に多いのですが、なかにはあっさりとして旨味の濃い成虫が好きという人もいます。(中略)
ところで、カミキリムシの幼虫はなぜおいしいのでしょう。
正解は生木(なまき)を食べているからです。生木を餌にしている昆虫は木の香りがして臭みもなく、おいしいのです。なかでも国産の最高峰シロスジカミキリの幼虫は体長80ミリ前後と大きく、食べ応え満点です。
ヤナギやブナ類などの生木に入り、材部を直線的に上に向かって食い進み、成虫になるのに四、五年かかります(テッポウムシの名前の由来は、樹木の幹の内部を食害し弾丸が貫通した跡のようなトンネル状の穴を開けて前進するため)。
昔は薪割りをして出てきたところを捕れたのですが、今では手に入れるのがなかなか難しくなってきています。
昔、南アルプスの某小屋で薪割りをしているとカミキリムシの幼虫がよく出てきました。確かにその通りです。しかし、材木を採る場合は、製材した板に穴が開いてしまいますからカミキリムシは害虫扱いです。
シロスジカミキリはウイキペディアに記事があったので、リンクを貼っておきます。
カブトムシの幼虫はまずくて食べられない
カミキリムシの幼虫がおいしいなら、丸々太ってもっとボリュームがあるカブトムシの幼虫はさぞかしうまいだろうと思いました。カブトムシは樹液を吸うだけだし。
ところが、これがおいしくない、いや、実にまずくて食べられないのだとか。成虫は樹液を吸うけど、幼虫は腐葉土を食べているからだそうです。
「カブトムシの幼虫は難攻不落。まずくてとても食べられません」と答えるので、みなさんびっくりされます。
カブトムシの幼虫の餌はなんでしょう。彼らは腐葉土を食べて育つ大食漢です。腐葉土臭の強い、太くて黒いフンがいつも消化器官に詰まっています。
解剖してみるとそれがよく分かります。体中がほとんどフンで、硬い殻の内側にいくらか脂肪層がありますが、ここにも臭気がしみこんでいます。
にもかかわらず、食通で知られる発酵学者、小泉武夫さんの「不味い!」を読むと、おいしい虫の第一位がカブトムシ幼虫とあるのに驚きます。
きっと外国産なのでしょう。外国には朽木を食べるカブトムシ幼虫もいるようなので、そのなかのどれかかもしれません。
同書にゴホンツノカブトムシは「土臭いような、枯れた葉のような異様な臭みがしてきて実に不味」とあるのですから、おいしいカブトムシの種名をぜひ書いてほしかったです。
これを読むと、食べているエサによって味がかなり変わることが分かります。
腐葉土(ふようど)って分かりますか?
腐葉土は、いわゆる山土のことです。登山道を歩き始めると、湿っぽい土のにおいがしてきますが、あのにおいのことです。
イナゴには不飽和脂肪酸が多い
イナゴについての私の記憶は冒頭書いた通りなのですが、この本には少し面白いことが書かれていました。
「昆虫をたべたことはありますか」と質問して「ないです」と答えた人に、「じゃあイナゴは」と重ねて聞きます。
するとたいてい、「そういえばイナゴは食べたなあ」という答えが返ってきます。その理由はイナゴに清浄なイメージがあるからではないでしょうか。
イナゴは稲を食べる。つまり私たちの主食と同じものを食べて育つからです。イナゴは日本人の多くが食べた経験を持つ国民的伝統食といっていいでしょう。
イナゴの調理法は佃煮だけと思っていませんか。いえいえ、そんなことはありません。イナゴだってさまざまな調理法で楽しむことができます。
かつて「陸(おか)えび」と呼ばれたくらいですから、たとえばサックリ揚げれば小エビによく似た風味が楽しめます。
イナゴのセールスポイントは高タンパクで低脂肪であること。タンパク質は乾燥重量の70%もあり、脂肪は5%程度しかありません。しかも、コレステロールを減らす不飽和脂肪酸のリノレン酸を多く含んでいます。
不飽和脂肪酸のリノレン酸といったら、オメガ3のα-リノレン酸のことではないですか。いまやどこのスーパーに行っても、α-リノレン酸がたっぷり入った、えごま油や亜麻仁油が買える時代です。
なぜ、イナゴにα-リノレン酸が多く含まれているのだろうと思いました。まずは食品分析表を探してみました。
イナゴの栄養成分
さすが、イナゴは昔から食べられているだけあります。イナゴの佃煮は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に出てました。残念ながら、イナゴだけでは記載されていません。
醤油や砂糖、塩を使っているのでそのものではないですが、だいたいの傾向が分かります。
タンパク質が多く、脂質は少ないです。高タンパクで低脂肪。今の時代に合っている食品ですね。意外とミネラルやビタミンもあります。脂肪酸組成は、確かにα-リノレン酸が50%程度占めていて多いです。
バッタはカリカリした印象があるのでカルシウムが多いのかなと思いましたが、カルシウムは少ないです。
食品成分 | いなご/つくだ煮 |
エネルギー | 247kcal |
水分 | 33.7g |
たんぱく質 | 26.3g |
脂質 | 1.4g |
炭水化物 | 32.3g |
灰分 | 6.3g |
ナトリウム | 1900mg |
カリウム | 260mg |
カルシウム | 28mg |
マグネシウム | 32mg |
リン | 180mg |
鉄 | 4.7mg |
亜鉛 | 3.2mg |
銅 | 0.77mg |
マンガン | 1.21mg |
β-カロテン当量 | 900μg |
レチノール活性当量 | 75μg |
ビタミンD | 0.3μg |
α-トコフェロール | 2.8mg |
ビタミンK | 7μg |
ビタミンB1 | 0.06mg |
ビタミンB2 | 1mg |
ナイアシン | 1.7mg |
ナイアシン当量 | 6.1mg |
ビタミンB6 | 0.12mg |
ビタミンB12 | 0.1μg |
葉酸 | 54μg |
パントテン酸 | 0.43mg |
ビタミンC | (0) |
脂肪酸総量 | 0.55g |
飽和脂肪酸 | 0.11g |
一価不飽和脂肪酸 | 0.12g |
多価不飽和脂肪酸 | 0.32g |
n-3系多価不飽和脂肪酸 | 0.24g |
n-6系多価不飽和脂肪酸 | 0.08g |
16:0パルミチン酸 | 44mg |
18:0ステアリン酸 | 55mg |
18:2n-6リノール酸 | 77mg |
18:3n-3α-リノレン酸 | 240mg |
食物繊維総量 | (0) |
※日本食品標準成分表2015年版(七訂)から引用 |
脂質のうち、たしかにオメガ3のα-リノレン酸が多いです。しかし、脂質全体が100gあたり1.4gしかないので、残念ながらほとんど意味がありません。イナゴを食べたらオメガ3の脂肪酸が摂れるなんていえません。
α-リノレン酸は、イナゴが体内で合成したのではなく、食べもの(稲の葉)由来だと思います。
つまるところ、イナゴの特徴は、脂質がほとんどない、高タンパク低脂肪の食品だということです。
著者の内山昭一さん
著者の内山昭一さんのサイトがあります。
サイトを見ると、定期的に昆虫食のイベントが行われています。
これは阿佐ヶ谷にあるよるのひるねで2013年に行われた「昆虫食のひるべ」の様子です。第5章、東京のめくるめく虫食いの宴に書かれていました。
最初に回ってきたのはイラガの幼虫。サナギになる直前の休眠状態のものなんだとか。ウズラの卵のような、まだら模様の小さな繭に収まっている。
渡してくれたのはノボルさんという背の高いやせた男性。黒地に桜の刺繍の入った派手なセーターを着ている。その繭は「森で」見つけたんだそう。繭を歯で割って、中の幼虫を生のまま食べる。
繭に守られていたので、寄生虫がついている可能性は低い。繊細で、ナッツのような風味があって、ほのかに甘い。可愛い殻の中で眠る、柔らかい小さな宝物。
そのころ、桃色の着物にクモの巣柄の帯を締めたサチコさんとその友人が、店の隅のほうで「変わり栗きんとん」をつくっていた。
栗きんとんは新年のごちそうで、普通はサツマイモと栗の甘露煮を使う。ふたりはサツマイモの皮をむいて刻み、電気コンロに鍋をのせてゆでている。それからサチコさんが取りかかったのが、青い皿に山と盛られたタガメ。
料理用バサミで硬い外骨格を巧みに切りひらいて、香りのいい肉を取りだしていく。次に煮えたサツマイモをつぶし、みりん少々とタガメの肉を混ぜ込む。
それを食べやすい大きさに丸めて、上には栗の代わりにツムギアリの卵を飾った。できあがったものを小さな紙カップに入れて、お盆に並べる。私は待ちきれず、すかさずひとつ失敬した。
間違いない。今までに食べた虫料理のなかで一番美味しい!ほんのりタガメのエキスが香るみりん風味のサツマイモと、口の中で弾ける軽くてさわやかなアリの卵。
まさに極上の組みあわせで、もうすっかり夢見心地。掛け値なしに美味しくて、掛け値なしにエキゾチック。
時々出てくる虫の名前を抜かせば、とてもおいしい料理を食べていたんだろうなと思う書き方です。
まとめ
この本(内山さんの本です)を最初に手に取ってパラパラやったとき、面白そうだなと思ったのですが、実際に読んでみて本当に面白かったです。
この記事で紹介した以外にもたくさん昆虫が出てきます。タガメ、ゴキブリ、スズメバチ・・・などなど。
最初は食べたいなんて思わないで読み始めたのですが、読み終わる頃には、テッポウムシは食べてみたいな、なんて思うようになりました。