ブドウ糖の構造式の種類とDとL、αとβの区別について

グルコース(ブドウ糖)は、複数のヒドロキシ基(OH)とアルデヒド基(CHO)を持っています。アルデヒド基から一番離れた不斉炭素についているヒドロキシ基(OH)が右に結合していたらD-グルコースです。天然物はD-グルコースが多いです。また、アルデヒド基(CHO)と5番目の炭素についているヒドロキシ基(OH)が結合して閉環し安定します。もともとアルデヒド基にあった炭素(C)に結合するヒドロキシ基(OH)の向きが下向きならα、上向きならβとなります。水溶液中のグルコースは、β-D-グルコースが多いです。

砂糖

グルコース(ブドウ糖)の構造式には、書き方がいくつか種類があります。またα-、β-とかD-とかL-と頭につけられることがあり、ややこしい。どんな規則があって書かれているのか調べてみました。

有機化学 (ベーシック薬学教科書シリーズ 5)には基本的なことがこのように書かれていました。

糖は複数のヒドロキシ基とアルデヒド基かケト基を持つもの

糖の基本です。

糖類の基本単位は単糖類で,3~9個の炭素原子をもつポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンである.(中略)

また,分子内にアルデヒド構造(ホルミル基)がある場合はアルドース(aldose),ケトン構造(ケト基)がある場合はケトース(ketose)とよばれる.

ラインマーカーを引いた分からない用語を調べていきます。

ポリヒドロキシアルデヒド

まず、ポリヒドロキシアルデヒドについて。

ポリは、「複数」という意味です。ヒドロキシは(OH)のこと。そしてアルデヒドは、アルデヒド(CHO)基を持っていること。

ポリヒドロキシケトン

同様に、ポリヒドロキシケトンも、複数のOHがついて、さらにケト基(CO)を持っていることです。これは図を見ていただければよく分かると思います。

糖はアルデヒド基(CHO)かケト基(CO)を持っているのが基本だと覚えておきます。

図は下のものが例として載せられていました。

アルドースとケトース

図には、D-グルコースとD-フルクトースと「D-」がついています。D-以外にはL-があります。どのように違うのでしょう。

D-とL-の区別がある

本には次のように説明されています。

糖類は不斉炭素を複数もつキラルな化合物である.その立体化学を表すにはFisher投影式が便利である.糖類をFisher投影式で表すときには,慣例として酸化数の高い炭素カルボニル炭素)を上にして書く.

このカルボニル基から最も遠い不斉炭素に結合したヒドロキシ基が右側であれば,その糖をD-糖とよぶ.

反対に,カルボニル基から最も遠い不斉炭素に結合したヒドロキシ基が左側にあればL-糖である.(中略)

天然にある糖のほとんどはD-配置である.

不斉炭素

不斉炭素(ふせいたんそ)とは、まず図を見てください。

不斉炭素

炭素には結合する手が4本あります。そこにそれぞれ違うA、E、D、Gが結合しています。A、E、D、Gは具体的なものを指しているのではなく、それぞれが全く別のものだということを示すために適当につけた文字です。

4本の結合する手にすべて違うものが結合していた時、その炭素を不斉炭素と呼びます。

たとえば、炭素に水素(H)が2個結合していたり、ヒドロキシ基(OH)が2個結合していると、それは不斉炭素にはなりません。

キラル

キラルは不斉炭素(C)にA、E、D、Gが結合する物質で、どう回転しても同じにならない異性体のことをいいます。

立体的に感じられるように書きました。真ん中にあるのは「鏡」です。左右の物質は、鏡に写した関係になるのがお分かりになると思います。

このような関係にあるものを鏡像異性体といいます。

キラル

この2つの物質はどのように回転させても決して重なりません。このような分子はキラルといいます。不斉炭素にはかならずキラルになる配置があります。

この図の場合でいえば、どちらかのEとDを入れ替えないと同じ配置になりません。

Fischer投影式

原則はこうです。

すべての結合を実線で表記するが,主鎖を縦に書き,各炭素に結合した原子及び置換基を左右に置く.また,縦線はつねに紙面より奥に折れ曲がり,横線は紙面より手前にでるという表記法である.

Fischer投影式の例として、もう一度上で載せた図を持って来ます。この、素人目には魚の骨のような書き方がFischer投影式です。ちなみに、次の説明でも使うので、すべての炭素(C)を表示しました。

アルドースとケトース

図だけ見ると平面的に感じますが、説明にあったように、主鎖である縦方向は紙面より奥に折れ曲がっていて、左右にある水素(H)やヒドロキシ基(OH)は紙面より手前(こちら側)に飛び出していると思ってください。

酸化数の高い炭素を上にするとは

慣例として酸化数の高い炭素(カルボニル炭素)を上にして書く.

まず「慣例」だと書いてあります。この配置は絶対的な配置ではないということ。

しかし、似たようなものを並べれば、比較が容易にできます。

酸化数の計算

酸化数の計算は簡単です。高校生向けの化学の参考書、理解しやすい化学Ⅰ・Ⅱ(文英堂 2004)に書かれていました。年数が経ち、教育課程が変わっているのでしょう。リンクを貼る古本もないようです。

酸化数とは、1個の原子の酸化の程度を表した数値。

  1. 単体中の原子の酸化数はゼロとする。
  2. 単原子イオンの酸化数はイオンの価数に等しくする。
    Mg2+・・・+2 Al3+・・・+3 Cl・・・-1
  3. 化合物中の水素原子の酸化数は+1、酸素原子は-2として、他の原子の酸化数を決める。そのとき、化合物を構成する原子の酸化数の総和はゼロとする。

Hは(+1)、Oは(-2)、OHは(-2+1=-1)で計算します。求めるのは炭素(C)の酸化数です。

実際に、D-グルコースでやってみました。確かにアルデヒド基(CHO)の炭素の酸化数が+1になり、一番大きいです。

グルコースの炭素の酸化数

カルボニル基

カルボニル基は(C=O)と表されます。

この記事で出てくるカルボニル基がついた化合物は、アルデヒドとケトンです。こんな形をしています。Rは特定の物質ではなく、炭素と水素からできた炭化水素だと思っていただければよいです。

カルボニル

上で使った図を見ると分かりやすいと思います。

アルドースとケトース

カルボニル基から一番遠い不斉炭素はどれ?

やっとD-、L-を区別するところまで来ました。

カルボニル基から最も遠い不斉炭素に結合したヒドロキシ基が右側であれば,その糖をD-糖とよぶ.

さて、今度は、D-グルコースだけ取りあげ、見やすいように少し大きくしました。

不斉炭素は、上で説明した通りです。4本の手に結合しているものが全部違う炭素が、不斉炭素と呼ばれるのです。

炭素に番号をふりました。炭素に4本の手があるのは、2~5の番号をつけた炭素です。中心となる炭素を黒く塗って、それ以外のものを別な色に塗っています。

グルコースの不斉炭素

図の一番左にあるD-グルコースについて考えます。

不斉炭素が4個ある

2番目の炭素(2と数字を右下にふってある)を黒く塗っています。この炭素(C)について考えます。4本の手に結合しているのはそれぞれ以下のものです。

  1. アルデヒド基(CHO)・・・赤色
  2. 水素(H)・・・緑色
  3. ヒドロキシ基(OH)・・・青色
  4. C4H9O4で表されるもの・・・灰色

4本の手にはそれぞれ別のものが結合していて、2番目の炭素は不斉炭素だと分かります。

では、それ以外の炭素はどうでしょう?

同じように色分けしてあります。見比べてください。2番目の炭素と同様、3番目の炭素も4番目も5番目も不斉炭素だと分かります。

このうち、カルボニル基であるアルデヒド基(CHO)から一番遠い不斉炭素は、5番目の炭素です。

カルボニル基から一番遠い不斉炭素にヒドロキシ基(OH)が右に結合していれば「D-」

不斉炭素の性質として、たとえば、5番目の炭素に結合している水素(H)とヒドロキシ基(OH)の位置を入れ替えたものは、どのように回転させても、もとのグルコースと重なることはありません。

つまり、構成しているものは同じでも、別のものとして書く必要が出てきます。

この時、不斉炭素に結合しているヒドロキシ基(OH)が右側にあれば、D-グルコースと呼びます。

また、ヒドロキシ基(OH)が左側にあれば、L-グルコースと呼びます。

これで、糖のD-とL-の区別について知ることができました。

ところで、Fischer投影式ではグルコース(ブドウ糖)は直線的な構造式で表されましたが、よく見る構造式では、環状になっています。

どうして、直線的だったり閉じて環状になったりするのでしょう?

糖はなぜ環構造になるのか?

また、有機化学 (ベーシック薬学教科書シリーズ 5)に戻ります。

1分子のカルボニル化合物とアルコール1分子が反応して(注:ヘミアセタールを)生成する.ヘミアセタールはアセタールを生成するうえでの中間生成物であり,一般にはヘミアセタールを経てアセタールへの変換が進行する.

ヘミアセタールの構造をもつ安定な分子はあまり多くないが,同一分子中にアルデヒドとアルコールをもつ化合物は分子内ヘミアセタールを形成し,安定に存在する場合がある.

たとえば,自然界に広く存在する糖であるグルコースは,非環状のヒドロキシアルデヒドと環状のヘミアセタールの平衡混合物として存在する.

なお,糖の環状ヘミアセタール構造には1位の立体化学の異なる二つの立体異性体(α-アノマーとβ-アノマー)が存在する.

また、順番にラインマーカーを引いたところを説明していきます。

カルボニル化合物は、この記事では、上でも書いたようにアルデヒドとケトンのことです。

アルコールとは?

アルコールは、お酒がその代表ですが、お酒のアルコールは、エタノール(C2H5OH)のことです。もちろん、その他にもあり、アルコールはもっと一般化することができます。

単結合している炭素にヒドロキシ基(-OH)がついている化合物を総称してアルコール(R-OH)類という.RはCH3やC2H5などのアルキル基を示す.

ヘミアセタール

本にはヘミアセタールについてこんなことも書かれていました。

ヘミとはギリシャ語で「半分」を意味する.アルコールはさらにもう1分子が反応してアセタールが生成するために,1分子のアルコールが反応して得られるものをヘミアセタールという.

下図に出てくる反応している物質はケトンとアルコールです。

ヘミアセタールの生成

糖はアルデヒドとアルコールを持つので反応して安定する

さらに環状ヘミアセタールが生成される簡単な説明図もでていました。これはもちろん、「同一分子中にアルデヒドとアルコールをもつ化合物」のことを説明しているのです。

環状ヘミアセタール

長い道のりでしたが、ようやくグルコースがどのように環状になるのかこれから説明します。

D-グルコースを例にして詳しく見ていきます。

Fisher投影式で表されたD-グルコースをくさび形表記するとAとなる.構造式AのC4―C5結合を回転させると,構造式Bに書き直せる.

少しめんどくさいですが、下図のAとBを見比べて来て下さい。

くさび形表記のD-グルコースAが、4番目の炭素(C)と5番目の炭素(C)の間で図に書いたように回転します。すると、ヒドロキシル基(OH)がアルデヒド基(CHO)に接近します。

構造式BコンホーメーションB1B2になったときにC5位のヒドロキシル基がアルデヒドを攻撃して閉環し,六員環のヘミアセタールを形成する.

このような六員環の糖のことを,酸素を含む六員環の名称(ピラン)にちなんでピラノース(pyranose)とよぶ.

たとえば,D-グルコースが六員環のヘミアセタールを形成したものは,D-グルコピラノースとよばれる.

また,この閉環によって新しく不斉炭素が1位に生じるが,この1位をアノマー位とよぶ.

D-グルコースの場合,1位のヒドロキシ基が図の表記で”下向き”のものをα-アノマー(α-anomer),”上向き”のものをβ-アノマー(β-anomer)と区別してよぶ.

コンホーメーション

コンホーメーションとは立体配座のことです。ウイキペディアにこのように書かれていました。

単結合についての回転や孤立電子対を持つ原子についての立体反転によって相互に変換可能な空間的な原子の配置のことである。(出典

この場合は、下図B1B2を見比べていただければわかりますよ。

B1とB2、それぞれのアルデヒド基(CHO)の炭素(C)に二重結合している酸素(O)の位置と水素(H)の位置が変わっています。炭素(C)を中心に酸素(O)と水素(H)が回転すると考えればよいですね。

  • B1は、酸素(O)が破線なので向こう側へ折れ曲がり、水素(H)が実線のくさびなので、こっち側に向かって出ています。
  • B2は、酸素(O)が実線なのでこちら側へ向かって出ていて、水素(H)が破線なので向こう側へ曲がっています。

アノマー位

ヒドロキシル基(OH)がアルデヒド基(CHO)と結合した部分は閉じます。アルデヒド基にある炭素(C)の反応する4本の手には、それぞれ別のものが結合しているので、不斉炭素となります。

それまでは、酸素(O)が炭素(C)の反応する手を2本使っていたので不斉炭素ではありませんでした。

この1位のことをアノマー位と呼びます。

  • ヒドロキシル基(OH)が下向き、つまり破線で向こう側に向かっているのをα-アノマーと呼ぶ。
  • ヒドロキシル基(OH)が上向き、つまり実線でこちら側に向かっているのをβ-アノマーと呼ぶ。

ピラノース

グルコースの構造式の書き方はいろいろあります。

イス型配座

イス型配座という書き方があります。今回初めて書いたので、少し大きくして載せておきます。

ヒドロキシル基(OH)が下向きのα-D-グルコース(グルコピラノース)はわかりやすいですが、β-D-グルコース(グルコピラノース)のヒドロキシル基(OH)は斜め上に向かっています。

イス型配座

ハース投影式

これが一番馴染みがあるグルコースの構造式です。

ハース投影式

フィッシャー投影式

Fisher投影式でも六員環のD-グルコースを表すことができます。

最初に何種類かグルコースの構造式を見ると、「なんでこんな書き方をするのか?」と疑問ばかり浮かぶのですが、順番に学んでいくと理解できるようになってきます。

水溶液ではα-D-グルコースとβ-D-グルコースは36:64の比で平衡

α-D-グルコースとβ-D-グルコースは水溶液中ではそれぞれ一定の比で存在し、平衡すると書かれていました。結晶ではほとんどがα-だけど、水に溶かすと60%以上、β-になる。確かに、グルコースの構造式として、β-D-グルコースを見ることが多いです。

結晶中のD-グルコースはほとんどがα-アノマーとして存在している.一方,水溶液中ではヘミアセタールの環が開いた鎖状構造を経てα-アノマーとβ-アノマーの間で相互変換し,α-アノマーとβ-アノマーの比が36:64の平衡状態にある.

まとめ

糖はアルデヒド基かケト基を持っています。

それらカルボニル基を一番上に書くフィッシャー投影式で、カルボニル基から一番遠い不斉炭素に結合しているヒドロキシ基(OH)が右にあればD-、左にあればL-がつきます。

さらに、これはグルコース(ブドウ糖)の場合ですが、5位のヒドロキシ基(OH)が1位のアルデヒド基と結合して閉環します。

その時に、アルデヒド基にある炭素(C)も不斉炭素になりますが、この1位をアノマー位とよびます。この時、ヒドロキシ基(OH)が下向きであれば、α-となり、上向きであれば、β-となります。

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