大腸菌O-157は赤痢菌からプラスミドをもらった

病原性大腸菌O157:H7が、ベロ毒素をつくるようになったのは、赤痢菌からプラスミドをもらったことが原因です。プラスミドは、細菌と一部の酵母しか持っていません。

bacteria

O-157による食中毒

O-157が世間一般に広く知られるようになったのは、カイワレ大根が原因とされた1996年の事件でしょう。

カイワレ大根は1980年代の初めくらいに出て来て、少し苦みがありサラダやちょっとしたつけ合わせに使われていました。スプラウトの走りみたいなもので人気がありました。私もよく買っていました。

また、O-157は大腸菌だと報道され、大腸菌で人が亡くなったり多くの人が中毒を起こすようなことがあるのかと思いました。

大腸菌はお腹の中にいる菌だと知っていたので、もっと一般的な菌だと思っていたのです。それがなぜカイワレ大根についていたのだろうと思いました。

1996年のカイワレ大根事件

J-CASTニュースの記事(2014/8/11)野菜からでも「O157」に感染する? 今回は「冷やしキュウリ」が原因というが…に1996年にあったカイワレ大根事件についても書かれていました。

野菜が原因によるO157騒ぎといえば、1996年7月に大阪府堺市で発生した「カイワレ大根」が有名。O157が原因と思われる溶血性尿毒症候群により死亡した10歳と12歳の女子児童ら、死者3人を含む発症者数は7996人にものぼった。

当時の菅直人厚労相がその原因食品を「カイワレ大根」と発表したことで、多くの「カイワレ農家」の破産や自殺などが相次ぎ、社会問題化。菅厚労相がテレビカメラの前でカイワレサラダを頬張るパフォーマンスを見せたことを記憶している人は少なくないだろう。

しかし、このカイワレ大根を生産した施設を立入検査したところ、施設や従業員からはO157は検出されず、結局、原因は特定できなかった。また、風評被害を受けたカイワレ農家らが起こした、国に損害賠償を求める民事裁判では、最高裁で2003年5月に国の敗訴が確定している。

大腸菌はプラスミドを持ちそこにベロ毒素の設計図を書きこんだ

食品汚染はなにが危ないのか ‾ニュースを読み解く消費者の科学‾ を読みました。この本は本当に面白い本です。

食中毒の直接の原因はO157が作り出す「ベロ毒素」と呼ばれる物質によるものです。

ベロ毒素の設計図はプラスミドと呼ばれる特殊な遺伝子の中に存在しています。

細菌は、生存に必須ではなく、かつ臨機応変に遺伝子を変化させた方が生存競争に有利に働く遺伝子は、プラスミドに設計図として載せる性質があります。

プラスミドってなんだ?

プラスミド、初めて聞きました。どんなものなのでしょう?

ウイキペディアにはプラスミドについて次のように書かれていました。

細菌や酵母がプラスミドをもつ

細菌や酵母の細胞質内に存在し、核様態のDNAとは独立して自律的に複製を行う。一般に環状2本鎖構造をとる。

ウイキペディアに図も出ていましたが、真似して描くとこんな感じになります。プラスミドは環状(輪っか)のもので、細菌と酵母の一部にあります。図は細菌を表すものです。酵母はまた構造が違います。

ちなみに、プラスミドはヒトや動植物の細胞にはありません。

プラスミド

普段、「菌」と聞くと細菌や酵母菌のことを思い出して似たようなものだろうと思いますが、この二つはちょっと違うのです。少し寄り道して、違いを説明しましょう。

細菌は細胞核を持たず酵母は細胞核を持つ

中西貴之さんの人を助けるへんな細菌すごい細菌―ココまで進んだ細菌利用という本があります。この中の説明を読むと、二つの違いが分かります。

生物は大きく「動物」「植物」「微生物」の3種類に分けられます。この分類とは別に細胞の構造の違いによって学者は生物を「真核生物」と「原核生物」の二つに分類しています。

動物と植物は全て真核生物ですが、微生物にはミジンコなどの「原生動物」、海藻などの「藻類」、キノコやカビの「菌類」のように真核生物に分類されるものと、私たちがひとまとめに「バクテリア」と呼ぶことの多い乳酸菌や大腸菌など、学術的に「古細菌」「真正細菌」に分類される原核生物が含まれます。

このような生物の分類の中で、最も種類が豊富で、最も変化に富んで、最も不思議で、最も面白い生き物が、「古細菌」と「真正細菌」をひとまとめにした「細菌」です。

生物の分類の図が出ていました。

原核細胞は、細胞核やミトコンドリアなどの細胞内小器官が殆どないことが特徴です。DNAは核の中にしまわれず、むき出しで細胞内に存在します。

細菌は、下図の古細菌と真正細菌を表すことばです。
酵母は、下図で書かれた菌類に分類されます。キノコやカビの仲間です。

細菌はDNAがむき出しですが、酵母は細胞核と植物のように細胞壁をもちます。

そして、それ以外の生物はプラスミドを持ちません。

分類

生存に必須でない遺伝情報はプラスミドに置かれる

さて、やっと話が戻って来ました。大腸菌O-157がベロ毒素をつくるようになったのは、プラスミドにその設計図が書かれていたからでした。

大腸菌も生物ですから、生存していくのに重要な遺伝情報はとても大切です。それと環境に対応するための情報は分けて保存するようになっています。

細菌にとって遺伝子は非常に重要なものなので、そう簡単に変化してしまっては生存に支障が出るかもしれません。

そこで細菌は遺伝子を、生きていくために絶対必要なものと、そうではないものの2種類に分別し、別々に細胞の中に置くことにしました。

生存に必須でなく、加工に失敗しても影響の少ない遺伝子は「プラスミド」と呼ばれ、DNAの輪っかとなって独立して存在しています。(中略)

プラスミドには、周辺環境の激変に対応するために臨機応変に変異させなければならない遺伝情報が、数十種類記録されています。

細菌は、このプラスミドを個体間で受け渡しすることができます。ある細菌が有利な変異に成功した場合、その遺伝子が含まれたプラスミドを別の細菌に渡せば、その細菌も同じ能力を持てるのです。

これを遺伝子の「水平伝達」といいます。

核心部分がでてきました。

プラスミドは生存より優先度の低い遺伝情報をためる場所です。しかも、プラスミドは受け渡し可能で、別な細菌からもらうことができ、その能力を持てるのです。

ある種の大腸菌は、他の菌からベロ毒素をつくる遺伝情報が書きこまれたプラスミドをもらってベロ毒素をつくるようになったのです。

赤痢菌からプラスミドをもらった

ふたたび、食品汚染はなにが危ないのか ‾ニュースを読み解く消費者の科学‾ に戻ります。特定の大腸菌O157:H7だけが強い毒性を持つのは、赤痢菌からプラスミドをもらっていたからでした。

大腸菌にはさまざまな種類があるにもかかわらず、O157:H7だけが特徴的に強い毒性を持っているのは、O157が大昔に赤痢菌と出会い、赤痢菌からメアド(注:この前段で携帯電話の赤外線通信を使うと簡単にメールアドレスをやりとりできる話があった)の代わりにプラスミドをもらったところ、そこにベロ毒素の遺伝情報が書かれていたためであることがわかっています。

このようにして設計図を赤痢菌からもらったO157は、ベロ毒素を細胞の中で大量に作り出すようになりました。

菌が生きている間はO157の細胞の中に封じ込められているベロ毒素ですが、菌が死ぬなどして細胞が壊れると、大腸の中に放出されてしまいます。

放出されたベロ毒素は大腸細胞に侵入し大腸細胞を殺します。

まとめ

大腸菌は一般的な細菌でお腹の中にもいることはよく知られています。なぜ強い毒性を持つのがいるんだろうと思っていたのですが、赤痢菌からのプラスミドによる「水平伝達」によるものだったというのが面白いと思いました。

しかし、地球上にたくさんいる(だろう)有害な菌が、毒をつくる遺伝情報をプラスミドを使って拡散しまくっていると考えると、ちょっと恐ろしいですね。

映画や小説で出てきそうです。

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