メラミン混入牛乳のメラミンはタンパク質含有量のごまかしが目的だったとは

2008年に起きたメラミン混入牛乳事件とは何だったのか?メラミンは窒素(N)が多く、薄めた牛乳のタンパク質含有量をごまかすために入れられました。しかし、メラミンとシアヌル酸は体内で結晶をつくり、結石となって腎不全の原因になりました。

牛乳

食品汚染はなにが危ないのか ‾ニュースを読み解く消費者の科学‾ を読みました。この本には化学的な説明が書かれていました。

古い新聞記事を調べたら、2008年9月20日の朝日新聞の記事が出て来ました。一部引用します。

中国の大手乳業メーカー「伊利」などが製造した牛乳から有害物質メラミンが検出された問題で、丸大食品(大阪府高槻市)は20日、伊利製の牛乳を原料に使っていた5商品を自主回収すると発表した。

メラミン混入の有無については専門検査機関に分析を依頼しており、週内に結果が出る見通し。中国の食品汚染が日本へ拡大する可能性が出てきたことを受け、厚生労働省と農林水産省は同日、乳製品やその加工品を中国から輸入した業者や食品関連の業界団体に、メラミン混入の可能性について点検するよう指示した。(出典

中国国内の被害について記事は見つかりませんでしたが、粉ミルクに混入していたため5万人以上の乳幼児に被害が出たとありました。

この事件を知った時、メラミンって樹脂のことじゃなかったかなとまず思いました。

よく学食や公立図書館の食堂で使われている食器です。昔の学食では、食べた食器をお湯が張られた水槽に自分で浸して行くのが決まりでした。食器をひっくり返した時に「メラミン樹脂」と書かれていたことをなんとなく思い出していました。

しかし、なぜ牛乳にメラミンが混入するのだろうと思いました。食器に使われているくらいですから、牛乳を殺菌するような温度では、牛乳の中に溶け出すとは思えません。

その後、中国では大きな被害があったとニュースで見ましたが、相変わらずなぜなのか分からなかったのですが、そのうちメラミン入り牛乳で被害が出たという記憶だけが残り、それ以外は忘れていました。

この本を読んで、その時の疑問を思い出したのです。

メラミンは意図して入れられていた

メラミン混入は事故ではなく、意図して入れられていたのでした。目的は、タンパク質の含量をごまかすためでした。いやな感じがしました。

学食の食器はメラミン樹脂ですが、メラミンは樹脂になる前の原料です。構造式は下図の通りです。窒素(N)が目につきます。

メラミン

メラミン

この本にはメラミンを混入させた意味、化学的な説明が書かれていました。

タンパク質の不足をごまかす窒素分として

メラミンは構造式を見るとお分かりになる通り、メラミンの分子の中に窒素(N)が6個あります。これが品質検査の時に、タンパク質の代わりになるというのです。

乳製品から別の食品の原料を加工して作る際、どれほどの乳製品を使用するのかはあらかじめ手順書で定められています。

けれど、仮に原料として使う乳製品を減らして、不足する分を水などでまさに水増ししておけば、コスト削減になります。

単純に乳製品を水で薄めると品質検査の時にばれてしまいます。

ところが品質検査では乳製品が所定量含まれていることを示す基準として、乳製品中に含まれるタンパク質の量を測定しているのです。

正しい量の乳製品が添加されていた場合に想定される値に検査結果が近いかどうかを調べます。

中国ではタンパク質の含量といっても実際にタンパク質を測定するのではなく、タンパク質に含まれる窒素の含量を測定することになっていますので、タンパク質の代わりに同じ程度の窒素を添加してやれば品質検査はごまかすことができるわけです。

この事件があって、当然、品質検査は厳しくなり、窒素だけを測定する仕組みは改められたと思います。

食品の「ズル」は、中国に限らず日本でも時々問題になります。

たとえば、乳製品を薄めることは、昔の日本でもあったのではないかと思います。私は覚えていますが、1965年(昭和40年)頃の牛乳は、東京で飲む牛乳と地方で飲む牛乳では濃さが全く違いました。地方で飲む牛乳は濃すぎて飲めませんでした。

しかし、中国で牛乳を水で薄めて、それをごまかすためにメラミンを入れた影響はとても大きなものでした。

メラミンによって腎臓結石や腎疾患が発生

メラミンをどのくらい混入させたのか。本にはこのように書かれています。

厚生労働省が発表した分析結果においても最高で製品1kg当たり40mg近く、耳かきで山盛りになるほどのメラミンが検出されました。

この書き方は、化学を学んで仕事にしている著者にとって「多い」という感覚なのだと思います。しかし、私のような素人には、微量にしか感じられない量です。こういうところが化学反応のおそろしいところです。

化学反応について感覚がない一般人は、大したことがないのではないかと思ってしまいます。

メラミンは本来毒性が低いはずだった

しかし、メラミンについて、ウイキペディアにはこのように書かれています。

メラミンのラットでの経口投与による半数致死量 (LD50) は 1–3 g/kg と調べられており、メラミン自体の急性毒性は比較的低い。(出典

ヒトの場合、体重60kgの人なら、60~180g食べると食べた人の半分がなくなる致死量です。微量では影響が出そうにありません。

ところが、話はもう少し複雑です。

メラミンとシアヌル酸の混合物が体内で結晶を作った

メラニンを作る時に途中でシアヌル酸という物質ができます。メラニンとシアヌル酸が混ざっていると結晶ができてしまうのです。

それが腎臓や尿路で結石となってしまったのです。

メラミンを工場で作る際に、不要であるのに勝手に出来てしまうシアヌル酸を含んだまま食品原料に添加されてしまったからです。

シアヌル酸自体の毒性も人間では体重60kgの大人が500g近くも食べなければ死なないような比較的毒性の低い物質ですが、メラミンとシアヌル酸は尿の中で簡単に反応し、メラミンシアヌレートと呼ばれる物質の結晶が作り出されます。

この結晶はメラミンとシアヌル酸が網目状に結合したもので水に溶けないため、腎臓や尿路のあちこちに詰まってしまい、それが原因で腎不全を引き起こしたものと考えられています。

メラニンの製造法

メラミンを製造するときにシアヌル酸ができると書かれていたので、製造法を調べてみました。メラミンという論文に図が出ていました。尿素から作られるようです。

途中でシアヌル酸ができます。メラミンをほぼ純度100%で取り出さないと混ざってしまうのでしょう。もっとも、食品に混ぜようなんて考える人はいませんけれども。

メラミン生成

メラミンシアヌレート

シアヌル酸とメラミンが反応してできるメラミンシアヌレートについても反応を調べました。水素結合という弱い結合だそうです。

キリヤ化学のメラミンとメラニン?に載せられていた図を真似して描きました。

メラミンシアヌレート

メラミンの毒性が書き換えられた

メラミンの事件は、粉ミルクに混入された事件の前年、アメリカで中国産の原料を使って造られたペットフードを食べさせられたイヌやネコがばたばた死んでしまう事件がありました。

これは、タンパク質である小麦グルテンにメラミンが混ぜられていたのです。死因は尿路結石を伴った腎不全でした。

このため実験が行われ、メラミンの毒性について数字が改められました。

ネコに両物質を体重1kg当たり32mgずつ、わずか2日間与えただけで腎障害が発生することなどが確認されました。

人間の大人に換算すると2gにも満たない量となり、メラミン単独に比べておよそ100倍も毒性が強くなることになります。

これらの実験データを元に、米国食品医薬品局(FDA)では、仮にメラミンとシアヌル酸を一生摂取し続ける人生を想定した場合、1日にどれほどまでならこれらの物質を摂取しても影響がないかを予測した結果を体重1kg当たり0.063mgと算出しました。

大人の男性(体重60kg)の場合、1日に4mgとなります。これは耳かきの上に粉末がちょこんと乗っかる程度の量でしかありません。

実験データがまだ少なく、この本が書かれた時点ではメラミンの真の危険性は未だ謎であると結ばれています。

メラミンからメラミン樹脂ができる反応

私は前に書いた通り、この事件のニュースでメラミンと聞いた時、メラミン樹脂を思い出しました。多分同じように思った方は多かったのではないかと思います。

メラミンとメラミン樹脂の違い、メラミンからメラミン樹脂をつくる反応も調べました。キリヤ化学のメラミンとメラニン?に詳しく説明されていました。

メラミン樹脂はメラミンとホルムアルデヒドとから直接製品とするのではなく、両方をアルカリ条件下で縮合させたメチロールメラミンを作り、それを加工品原料とします。

メチロールメラミンは加熱すると重縮合を起こし、網目状に架橋することで熱硬化樹脂となります。

メラミン樹脂

まとめ

現在は情報過多時代なので、ニュースは一時的に話題になってもすぐに過去のものになってしまいます。

この事件に関しても、ニュースになっていた時は、食器になるメラミン樹脂との関係からなぜ牛乳にそんなものを混ぜたんだろうと思っていたのですが、そのまま忘れていました。

しかし、このように解説してくれる本を読むと、問題の本質が分かります。水で薄めた分のタンパク質をごまかすためにメラミンが混ぜられたのです。

本のおかげで、メラミンとメラミン樹脂、メラミンとシアヌル酸の結晶であるメラミンシアヌレートについて知ることが出来ました。

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