ポリフェノールは解毒酵素を誘導する

ポリフェノールは、複数のフェノールという意味です。抗酸化作用があることはよく知られていますが、薬物などを解毒するチトクローム(シトクロム)P450酵素の合成も誘導します。

茶

実はおもしろい化学反応を読みました。

有機化学といえばベンゼン環。ベンゼン環の紹介記事でポリフェノールが出てきました。

カテキンはポリフェノール

お茶の渋み成分はカテキンです。カテキンは「3-ヒドロキシフラバン」というベンゼン環を含む基本的な構造に、いくつかの置換基が付加された化合物の総称ですので、ある特定の化合物のことではありません。

お茶に含まれるカテキンは、エピカテキンや、エピカテキンに「-OH」がさらにひとつ付加されたエピガロカテキン、それらに没食子酸という構造が結合(R-O-R’)したエピカテキンガラートとエピガロカテキンガラートの4種類です。

早速、構造式を調べてみました。没食子酸は、「もっしょくしさん」と読みます。

それぞれ1つだけ見るとなんだか分かりませんが、このように並べてみると、分かりやすくなります。

3-ヒドロキシフラバンを基本にして、ヒドロキシ基(-OH)の結合する数が増えたり、没食子酸が結合することで、少しずつ構造が変わるのが分かります。

なお、3-ヒドロキシフラバンは、フラバノールとも呼ばれます。

下図にあるエピカテキンは、カカオポリフェノールの主成分でもあります。

カテキン

ポリフェノールは複数のフェノール

ところで、カテキンはポリフェノールと呼ばれます。ポリは「複数の」という意味です。フェノールは、こんな物質です。

フェノール

上の図を見ると、カテキンは「複数の」フェノールからできていることが分かります。

ポリフェノールは、1990年頃の赤ワインブーム以来、よく知られるようになりました。

1990年代に赤ワインが健康に良いともてはやされたことがありました。その理由として高濃度に含まれるポリフェノールの存在が挙げられ、ポリフェノールブームが起きました。

カテキンは渋み成分ですので、緑茶ではもともとは嫌われ者です。そのため、カテキンが少なくうま味成分であるテアニンが多い玉露が良いお茶、高級なお茶とされてきました。

最近では、わざわざカテキンを高濃度に含ませ渋くした緑茶飲料が、健康に良い飲料としてもてはやされています。

テアニンはこんな構造式です。カテキンとはだいぶ違います。もちろん、形からみて分かる通り、ポリフェノールではありません。

テアニン

カテキンの医薬品的効果としてはまだはっきりしていない点が多いものの、統計的調査の結果として、カテキンには高い血圧を下げる作用、コレステロールを下げる作用、血糖値を下げる作用、細胞を損傷から守る抗酸化作用があるとされています。

ちなみに、お茶の葉の成分ごとに、葉から抽出される最適温度が異なります。

うま味成分のテアニンは60度までの比較的低い温度で抽出され、渋み成分のカテキンは高温で抽出されます。

お茶を入れるときの湯の温度で味が変わるのは、このような化合物の特性によるものです。

カテキンは3-ヒドロキシフラバン、フラバノールを基本構造にしていることが分かりました。他のポリフェノールはどんな構造なんだろうと、思って調べてみました。

ポリフェノールいろいろ

食品ポリフェノールによる核内レセプターの活性化を読みました。

フラボン類について説明が出ていたので、構造式を調べました。

フラボン類(flavones)は水酸基(OH)の位置によって多くの種類があり,いくつかは固有名をもつ.

たとえばケルセチンはタマネギ(35~120mg/100 g)に多く含まれる.アピゲニンはセロリに,バイカレインはアブラナ科植物に,ガランジンはハチミツなどに含まれている.

ここで基本形になるフラボンは、下記の通りですが、カテキンのところで紹介したフラバノールとは違っています。

それぞれヒドロキシ基(-OH)が結合するのは変わりがありません。

フラボノイド

赤ワインのポリフェノールレスベラトロール

ブルーベリーなどの色素、シアニジンや、フレンチパラドックスで有名になった赤ワインのレスベラトロール、ウイスキーのエラグ酸も構造式を書いておきましょう。

アントシアニジン(cyanidinはその一種)は紫色を呈し,ビルベリー(25~500mg/100 g) や黒ブドウ(60~1500mg/100 g)に含まれる.

ポリフェノールは酒類にアルコールや糖質以外の成分としても含まれている.レスベラトロール(resveratrol)は赤ワイン(1~7.5mg/500 mL)に含まれるブドウ果皮由来のスチルベ
ンである.

エラグ酸はウイスキー(1~10mg/100 mL)に含まれ,貯蔵する樽の水溶性タンニンから火による加熱で生成する.エラグ酸はイチゴやザクロにも含まれる.

シアニジン

ポリフェノールの作用

ポリフェノールは抗酸化作用があるとよく知られるようになりました。また、赤ワインのレスベラトロールは、サーチュイン遺伝子を活性化することが知られています。

サーチュイン遺伝子は、長寿命に関係があるとされ、飢餓やカロリー制限によって活性化されることはよく知られています。

植物ポリフェノールの生体調節機能は経験的に知られてきた.ビルベリーはアントシアニジンを多く含み,飛行士の夜間視力増強に用いられたことは知られている.

その作用機序は,視物質の光による酸化がアントシアニジンの抗酸化性により抑制されることにあると考えられている.

この例に限らず,ポリフェノールの生体調節作用は,発がんリスクの低下,血管疾患の予防,抗アレルギー作用など多面的である.

これらの疾患の主要因は活性酸素分子種であると考えられており,ポリフェノールはその抗酸化能をもって予防的に働いていると説明されてきた.

一方で,動物性脂肪の摂取量が高いにもかかわらず血管系疾患の頻度が低いフランス人の矛盾(フレンチパラドックス)に見られるように,一部のポリフェノールが代謝に影響を与え,長期的に何らかの健康に良い効果を表しているのは事実である.

フレンチパラドックスの食品要因としては赤ワイン中のレスベラトロールが挙げられている.

レスベラトロールは抗酸化活性をもつだけでなく,サーチュインと呼ばれるタンパク質脱アセチル化酵素に働きかけ,代謝を制御していることが報告されている.

具体的にどのように抗酸化するのか、知りたいところですが、この論文では分かりませんでした。

核内レセプターを活性化し、生体不要物の排出、解毒に関係している

ポリフェノールは、細胞核の中の核内レセプターにリガンドとして結合し、遺伝子を制御する働きがあるそうです。

具体的な核内レセプターとして、CAR(構成的アンドロスタンレセプター)について説明されていました。

個々の名前について注意を払う必要はありません。流れが分かればよいと思います。

チトクローム(シトクロム)p450酵素を誘導する

CARはチトクローム(シトクロム)p450酵素(CYP2B)を誘導する転写因子として同定されました。チトクローム(シトクロム)P450酵素については、以前、薬を飲んでいるときグレープフルーツを食べてはいけない理由を調べてみたという記事を書くときに詳しく調べました。

薬を飲んでいるときグレープフルーツを食べてはいけない理由を調べてみた
薬によっては、飲んでいるときにグレープフルーツを食べてはいけないものがあります。その理由は、グレープフルーツが薬を解毒・代謝するシトクロムP450を阻害するからです。薬の効き目が強くなって「効き過ぎる」可能性があるのです。弱くなるのではなく...

チトクローム(シトクロム)P450は、薬物代謝酵素、解毒酵素のことです。体の中に入って来た不要なもの、毒になるものを速やかに解毒しておしっこから出すための酵素です。

つまり、ポリフェノールが、核内レセプターCARに結合し、チトクロームP450酵素を合成するための遺伝子を活性化し、細胞内で、チトクロームP450酵素を合成させているのです。

もちろん、チトクロームP450酵素の合成が活発に行われれば、解毒が促進されます。本文ではこのように書かれていました。

CARはプレグナンXレセプター(PXR)とともに,主に生体外の化学物質やビリルビンなどの不要代謝物で活性化され,CYPs, 糖付加酵素,硫酸付加酵素,薬剤輸送体などの遺伝子を活性化することにより,生体不要物の活性化,水溶化,排出,すなわち解毒を促進している.

また、この時の、ポリフェノールについて特徴があるようです。

カテキン類とフラボン類、そしてレスベラトロール

まずカテキン類については,没食子酸エステルで比較的高いCARの活性化能が見られた.

カテキン類の異性体の間で活性化能の違いは見られなかった.フラボン類については5, 7位に水酸基をもつものが比較的強いCARの活性化能を有していた.

特にクリシン(5,7-OH), バイカレイン(5,6,7-OH), ガランジン(3,5,7-OH)の活性化能は強い.

没食子酸エステルとは、上で構造式を書きましたが、エピカテキンガラートとエピガロカテキンガラートのことです。

フラボン類も上で図示しましたが、クリシンは書いていなかったので、それも含めてもう一度書きましょう。

フラボン

さらに赤ワインのレスベラトロールも同じ働きを持ちます。

興味深いことに,CARは赤ワインの有効成分であるレスベラトロール(trans-resveratrol)でも活性化される.

ポリフェノールのサプリメントには少しご注意を

ポリフェノールは体によいものだと広く知られています。サプリメントもいろいろ販売されています。何となくたくさん飲むとよいのかなと思います。

しかし、体はポリフェノールを速やかに排出する仕組みを持っています。

植物は,動物のためではなく,自分の都合でポリフェノールを産生しているのである.

それに対応するように,一般に人体内に摂取されたポリフェノールは上述した解毒経路により,速やかに排出される傾向にある.

たとえば,緑茶500 mL分に相当する525 mgのカテキン類を摂取した人の最大血中濃度は4.4 μMで,ワイン1.6 L分に相当する25 mgのレスベラトロールを摂取した場合の最大血中濃度は0.03 μMである.

いずれもほぼ一日で最低の濃度にまで排出される.カテキンの最大値はCARを活性化しうるが,レスベラトロールの最大値は活性化濃度に届かない.

本文に載せられているグラフを読むと、カテキン類は10μM、レスベラトロールは5μMの濃度でないと効果がでないようです。

μMは、マイクロモーラーと読み、10−6 mol/Lのことです。

ポリフェノールをどんどん排出するのが体の仕組みですから、飲み過ぎのデメリットもあると考えていた方がよいと思います。

普通の食品から入って来る量よりはるかに多い量を簡単に飲めてしまうサプリメントには、少しご注意下さい。

まとめ

ポリフェノールは抗酸化作用を持つことはよく知られていますが、どのように抗酸化力を発揮しているのか、調べ方がよくないのかなかなか分かりません。

改めて調べたいと思います。

また、ポリフェノールは体によい影響を与えることは広く知られていますが、速やかに体の外に出ていくことを考えると、摂りすぎのデメリットもありそうです。

普段食べる食品から摂っている分には心配はないと思いますが、サプリメントなどで大量に摂る時は、少し注意した方がよさそうに思いました。

私がサプリメントが嫌いなせいかもしれませんけれど。

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