ナス科の野菜は関節リウマチ、関節炎によくない?

ナス科の野菜、ナス、トマト、ピーマン、ジャガイモなどには、グリコアルカロイドと呼ばれるステロイドアルカロイド配糖体が有毒物質として含まれていて、大量に摂ると中毒症状を起こします。しかし、普通に食べていても、関節リウマチや関節炎によくない・・・らしいという話です。

トマト

本棚を整理していたら、奥からずいぶん前に買った本がでてきました。食事で治す本 (上) (ハルキ文庫―〈食べるクスリ〉シリーズ)です。パラパラと読んでいたら、気になる記事があったので、メモしておきます。

関節リウマチ、関節炎にナス科の野菜はよくない?

慢性関節リウマチ、関節炎の対策項でこんな記事がありました。

トマトへの嫌疑

トマトはどうだろうか?トマトをはじめ、なす、じゃがいも、ピーマンなどナス科の野菜は関節炎の症状の引き金になるという悪評が立っている。

これらの野菜を排除すると関節炎の症状がやわらぐ、あるいはなくなると民間療法でもいわれてきたのだが、悪評がひろまったのは、フロリダ大学のノーマン・F・チルダー博士の実験によってである。

チルダー博士自身が深刻な関節の痛みやこわばりを含む歩行困難という障害に陥ったために、食事との関係をよく注意してみたのだ。

そして彼は、トマトを食べた数時間後に関節炎の症状がやってくることに気づいた。昔からトマトとナス科の植物(ソラニンを含んでいる)は家畜のリウマチと結びついているといわれていたので、チルダー博士は一つまた一つとナス科の野菜を排除していった。

すると痛みが消えていったのである。そこで博士は彼と同じ方法で関節炎から救われたという人の証言を集め、それが何千という数になったのでそれを公表し、約一〇パーセントの人の関節炎にはナス科の野菜が結びついていると主張した。

しかし、ナス科の野菜が関節炎の引き金になるという説は、対照をとった科学的な研究に基づいたものではないので、トマトにかけられている汚名に困惑している権威者もいる。

イギリスで行われた研究では、関節炎の症状の引き金となりやすい二〇の食品の一四番目にトマトがランクされていて、この場合は被検者の二二パーセントに反応が起きている。

しかし、他のナス科の野菜はリストにあがっていない。食品と関節炎の関係の権威であるパナッシュ博士は、ナス科の野菜を全部排除することで、関節炎の引き金となるそのなかのどれか一つを偶然排除している人がいるのかもしれない、と推測している。

重要な点 関節炎の苦しみを解決してくれる普遍的な”正しい食事”というものは残念ながらない。すべての人にとってトマトが敵ではないわけで、あなたにとってはどの食品が敵なのか自分で調べていくしかない。

そして、敵が見つかったらそれを排除して、一歩一歩”自分にとっての正しい食事”に近づいていくしかない。

以前、じゃがいもを凍結乾燥させると毒を抜き長期保存が可能になったという記事を書いた時に、じゃがいもの毒は無視できないものだと知りました。

じゃがいもを凍結乾燥させると毒を抜き長期保存が可能になった
じゃがいもは育てやすく生産性が高いので、世界中で栽培されています。しかし、ソラニンやチャコニンという毒になる成分を含みます。アンデスの山岳地帯では古い時代に凍結乾燥させることで毒を抜き長期保存が可能になりました。そして、じゃがいもを主食にす...

芽や皮が緑になったところにだけ毒があるのかと思ったら、濃度の差が大きくあるものの、細胞にまんべんなく存在するのです。初めて知りました。

そのことと、ずっと前にどこかで聞いたことがあったナス科の野菜を食べていると炎症がひどくなるという話がつながって何となく気になっていました。

また本の中でこの話が出てきたので、少し調べてみようと思いました。

ノーマン・F・チルダー博士の実験

ネットでナス科と関節炎の関係を調べていくと、ナイトシェードと関節炎の明白な関連(ノーマン・チルダース,M・S・マーゴルス)という記事がありました。

これこそ、ノーマン・F・チルダー(ス)博士の書かれた論文でした。1993年に雑誌に掲載されたものです。

ナイトシェードは、ナス科植物の総称です。是非、こちらの記事をお読みください。

404 Not Found

マクロビオティック健康相談室食神の管理人さんが、翻訳されたようです。

グリコアルカロイドが含まれている

ナス科の野菜について時間をかけて調べていくと概説的な記事が見つかりました。

公衆衛生 2009年 05月号(医学書院)の特集は「自然毒食中毒」で、その中の「野菜・木の実等による食中毒」にこんなことが書かれていました。

ナス科ナス属植物の葉や未熟果実などには,グリコアルカロイド(glycoalkaloids)と総称されるステロイドアルカロイド配糖体が有毒物質として含まれている。

ジャガイモの花、芽、葉や食用部の皮などに含まれるグリコアルカロイドは,そのほとんどがα-チャコニンおよびα-ソラニンであり,α-チャコニンがα-ソラニンの概ね2倍から3倍量存在している。

日本で流通しているジャガイモでは,メークインやシェリーは他の品種と比較してグリコアルカロイドの含有量が高く,また,サイズが小さいものほど含有量が高い傾向がある。

さらに,ナスの未熟果実や非食部全草には,α-ソラマルギンα-ソラソニンなどが含まれ,トマトの未熟果実や非食部全草には,α-トマチンデヒドロトマチンなどが含まれる。

グリコアルカロイドによる中毒は,主に消化管刺激作用による胃腸障害とコリンエステラーゼ阻害作用による神経毒症状であり,喫食後の30分程度から12時間後には,腹痛,吐き気,嘔吐,下痢,脱力感,めまい,喉の痛みなどの症状を呈し,症状が重い場合には,呼吸困難,昏睡状態から呼吸停止に至ることもある。

過去の事故例より,グリコアルカロイドのヒトに対する中毒量は2~5mg/kg(body weight),致死量は3~6mg/kg(body weight)と計算されている。

これより,ジャガイモ中のグリコアルカロイドの含有量は300mg/kg以上が危険であると考えられ,安全性の上限値は200mg/kgとされる。

典型的な集団中毒例として,保育園や小学校での理科教育の一環として栽培した小振りなジャガイモを皮付きのまま食することにより起きる。

特に,長期間にわたり日の当たる場所で保管していた場合に起こりやすい。

これは,日に当てた状態で長期保存した場合に,ジャガイモ中のグリコアルカロイド量が増加することから説明できる。

また,グリコアルカロイドは水溶性であるため,茹でたりすることで減少するが,加熱だけでは分解が少ないので注意が必要である。

グリコアルカロイドが食後に急性中毒を起こし、胃腸障害と神経毒症状が起きると書かれています。これだけを読むと、関節炎との関係が分かりません。

しかし、ナス科の野菜を食べることは、毒をごく少量とはいえ摂ることになるので、それが関節リウマチや関節炎などの原因、もしくは悪化させる原因になる可能性があると考えればよいのかと思います。

八百屋さんに行くとよく見るメークインにはグリコアルカロイドの含有量が高いこと。小さいじゃがいもは、小いもとして売られていることがありますが、あまり、おすすめではないということです。

これを読むと、小さいお子さんのいるご家庭では気をつけた方がよさそうです。

さて、引用した文に出てきて、ラインマーカーを引いた用語について調べてみます。まずはアルカロイドから。

アルカロイド

アルカロイドは毒にも薬にもなるというものみたいです。

窒素を含む塩基性の植物成分の総称。「アルカロイド」はアルカリに似た化合物という意味である。植物塩基ともいう。

激しい毒性をもつものが多い。モルヒネ,アトロピン,エフェドリン,コカインなどは鎮痛,麻酔などの作用をもち,医薬として重要である。

ケシ,ナス,ウマノアシガタなど,各科の植物中に有機酸塩の形で含まれ,塩の形のときには水に溶けやすいが,酸から遊離させ塩基にすると水に溶けにくく,アルコールのような有機溶媒に溶けるようになる。(出典

ステロイドってなんだ?

ステロイドは、ステロイドホルモンやステロイド剤などよく聞きます。

ステロイドについては、イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版にこのような説明が書かれていました。

イラストレイテッド ハーパー・生化学について
2017年の春にイラストレイテッド ハーパー・生化学原書29版を買ってそれ以来使っています。きっかけは、アセチルCoAからコレステロールが合成される図を見たからです。最新版は2016年刊行の30版です。出版社に敬意を表して先に最新版を表示し

どうやら、独特の構造のことを指すようです。

ステロイドはすべてフェナントレンに似た環状核(A,B,C環)にシクロペンタン環(D環)が結合した構造をもっている.

ステロイド核の炭素原子には図に示すように番号がつけられている.ステロイドの構造式ではとくに断らない限り,六員環ベンゼン核ではなく水素で完全に飽和した炭素六員環であると理解しておくこと.

二重結合はすべて2本線で表示され,メチル側鎖は末端(メチル基)に何もつかない1本の線で示される.

典型的にはメチル側鎖は10,13位に結合し(19,18位炭素になる),17位にも側鎖がついていることが多い(たとえば,コレステロール).

六員環とベンゼン核

六員環とは、環状に結合している原子が6つあるものを指します。(出典

下に六員環で有名なベンゼンとシクロヘキサンの図を描きました。

見比べてください。ベンゼンには炭素の二重結合が3個あります。一方、シクロヘキサンはすべて単結合で、炭素には水素が2個ずつ結合し、水素で完全に飽和しています。

ベンゼンとシクロヘキサン

ベンゼンの別名、シクロヘキサトリエンの「トリエン」とは、二重結合が3個あるという意味です。トリ(tri)って3です。

ステロイド核の構造

ステロイド核の構造は、下図の通りです。番号がついているのは、炭素です。

ハーパー生化学に書かれていたように、炭素(C)と水素(H)によってこの構造は構成されていますが、省略されています。もちろん、すべて書くことはできますが、こちらの方が見やすい。

18、19番が突き出た直線の上に書かれていますが、ここには、メチル基(CH3)があります。書くのが省略されているだけです

ステロイド核

配糖体

配糖体とは、糖がグリコシド結合により様々な原子団と結合した化合物の総称のことです。(出典)グリコシド結合は、糖と別の有機化合物とが脱水縮合して結合すること。(出典

たとえば、砂糖(ショ糖)はブドウ糖と果糖がグリコシド結合したものです。

グリコシド結合

さて、ここからは、実際のグリコアルカロイドを見ながら説明していきましょう。

グリコアルカロイドとは、ステロイドアルカロイド配糖体のことでした。ステロイドアルカロイドは、ステロイド骨格を有するアルカロイドのことです。(出典

これから構造式を紹介しますが、覚える必要はありません。

では、なぜ構造式を書くのか?

グリコアルカロイドが、ステロイド骨格を持ち、いくつかの糖がグリコシド結合した配糖体になっていることを形を眺めて知るためです。

形を知ると、他のものを見た時に「あれ、これ前に見たのと似ているな」なんて思うようになります。

α-チャコニンとα-ソラニン

ジャガイモに含まれるα-チャコニンとα-ソラニンの構造式は下図です。ステロイド核に炭素の二重結合が1個あったり、窒素(N)を含む環がさらに2つつながっていますが、たしかに基本構造のステロイド核があります。

窒素(N)はアルカロイドに必要なものです。

その反対側に、環状のものが3個つながっています。これらは糖です。糖は青く、ステロイド核は赤くしました。

あれっ、上の糖の構造式となんかちがうではないか?

その通りです。同じ糖なのですが、書き方がいくつかあります。ブドウ糖の構造式の種類とDとL、αとβの区別についてを読んでみてください。

ブドウ糖の構造式の種類とDとL、αとβの区別について
グルコース(ブドウ糖)は、複数のヒドロキシ基(OH)とアルデヒド基(CHO)を持っています。アルデヒド基から一番離れた不斉炭素についているヒドロキシ基(OH)が右に結合していたらD-グルコースです。天然物はD-グルコースが多いです。また、ア...

下の糖は、くさび形表記で書かれています。

チャコニンとソラニン

糖の構造式の書き方はいくつかありますが、一般には上の方がよく出てきます。

しかし、今回、グリコアルカロイドを調べた時に出てきたのが、図の下の書き方だったので、載せておきます。くさび形表記といわれます。

ガラクトースとラムノースとグルコース

くさびには破線(点線のような線)と太い実線があります。これは立体的な位置関係を示していて、画面を平面に見たてると、破線は平面より下、つまり向こう側に折れていて、実線は平面より上、こちら側に向かって折れ曲がっています。

上と下は同じものですが、下のものには水素(H)が書かれていません。水素(H)は結合しているのが当たり前とされていて、それ以外のもの、ヒドロキシル基(OH)や酸素(O)は必ず書かなければいけません。

水素(H)は省略してもよいのです。

α-チャコニンとα-ソラニンを見ていただければ、糖同士も、ステロイド核を基本にした糖以外の部分、アグリコンとの結合もグリコシド結合であることがわかります。図の中にあるL-Rhaは、L-ラムノース。D-GalはD-ガラクトース。D-GluはD-グルコースです。

α-ソラマルギンとα-ソラソニン

さらに、ナスに含まれているソラマルギンとα-ソラソニンもアグリコンに微妙な違いがありますが、とてもよく似ています。

ソラマルギンとソラソニン

トマチンとデヒドロトマチン

トマトに含まれているトマチンとデヒドロトマチンは糖の数が4個になりましたが、アグリコンはナスと同じです。

トマチンとデヒドロトマチン

デヒドロトマチンの形がなかなか探すことができず、やっと見つけたこちらを参考にしました。(出典

まとめ

暑い日に、ビールを飲みながら、冷やしたトマトにちょっと塩をふって食べると酸味が立ってとてもおいしいです。ついでに、ポテトサラダがあるともっと嬉しいです。また、夏のぬか漬けにはナスが欠かせません・・・。

全部だめなんですか。困ったなあと思いました。

トマトソースでパスタを食べるようになったのはいつ?を書いた時も、16世紀にイタリアにトマトが入ってきたものの、ナス科の毒性植物との類似から、最初はほとんど受け入れられず、その後もしばらくは観賞用だった話を読みました。

長く食べられているので、品種改良によって毒になるものは作られなくなっているんだろうと思っていたのですが、やはりナス科には少々問題があると思った方がよいのかな。

タイトルとURLをコピーしました