ビタミンB1(チアミン)がどのように働いているか

ビタミンB1(チアミン)は、ピルビン酸がクエン酸回路に入るためにアセチルCoAに変化する時、チアミン二リン酸となって、ピルビン酸からアセチル基を最初に運ぶ、運び屋になります。

ビタミンB1が欠乏すると、アセチルCoAになるための反応の最初からつまずいてしまいます。

 

ビタミンB1が働く仕組みを知りたいと思った

ビタミンB1について、以前、ビタミンB1は糖からエネルギーを作るのに関わるという記事を書いています。

ビタミンB1は糖からエネルギーを作るのに関わる
この記事では、ビタミンB1について、ビタミンB1とはどのようなものか。不足するとどうなるか。脚気とはどんな病気なのか。過剰摂取はあるか。多く含まれている食品にはどんなものがあるか。一日の摂取量などについて調べてみました。 ビタミンB1はブ...

この中で、ビタミンB1は糖代謝に必要で、欠乏するとエネルギーが作れなくなり、ひどいときには脚気になると知りました。

最近は、食べものを紹介する記事や番組でも、『○○はビタミンB1が豊富で疲労回復に役立ちます』など効果をアピールする説明が多いです。

しかし、どんな仕組みでそんな効果が得られるのかな?と疑問に思うと、急にハードルが高くなります。なかなか調べられません。

今回はかなりがんばって調べてみましたよ。

ビタミンB1はチアミン

イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版にはこのように説明されていました。

イラストレイテッド ハーパー・生化学について
2017年の春にイラストレイテッド ハーパー・生化学原書29版を買ってそれ以来使っています。きっかけは、アセチルCoAからコレステロールが合成される図を見たからです。最新版は2016年刊行の30版です。出版社に敬意を表して先に最新版を表示し

チアミンはエネルギー産生代謝,とくに糖質の代謝において中心的役割を果たしている.

チアミン二リン酸は酸化的脱炭酸反応を触媒する3つの酵素複合体の補酵素である.

すなわち,糖質代謝におけるピルビン酸デヒドロゲナーゼ,クエン酸回路におけるα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ,およびロイシン,イソロイシン,バリンの代謝に関与する分岐ケト酸デヒドロゲナーゼである.

ビタミンB1はチアミンと呼ばれています。こちらの方が一般的らしいので、この記事でもチアミンと書きます。しかし、ビタミンB1のことですからね。

チアミンは、上で書かれているように、クエン酸回路に入る手前の反応、クエン酸回路の中での反応にも関係し、さらに、必須アミノ酸であるロイシン、イソロイシン、バリンの代謝にも関係しているようです。

この記事では、クエン酸回路に入る手前の反応、ピルビン酸がアセチルCoAに変わる、ピルビン酸デヒドロゲナーゼについて書きます。

チアミンはチアミン二リン酸として使われる

チアミンは、体の中でチアミン二リン酸に変化して使われます。反応式を書くとそれぞれの構造式が小さくなって見づらくなるので、最初に紹介しておきます。

チアミンの構造式はこの通り。

チアミン

チアミン二リン酸は、後ろにリン酸が2個つきます。

チアミン二リン酸

チアミンからチアミン二リン酸へ

チアミンは、ATP(アデノシン三リン酸)からリン酸を2個もらって、チアミン二リン酸に変化します。

一方、ATP(アデノシン三リン酸)はリン酸を2個渡したので、AMP(アデノシン一リン酸)になります。

チアミン

チアミン二リン酸は、クエン酸回路の入口で、ピルビン酸がアセチルCoAになるときの反応に関係します。

解糖系で生じたピルビン酸を脱炭酸してアセチルCoAに変換するピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(EC 1.2.4.1、EC 1.8.1.4、EC 2.3.1.12三酵素の複合体)の反応に関与する。(出典

イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版に書かれていたように、チアミン二リン酸は酸化的脱炭酸反応を触媒する3つの酵素複合体、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の補酵素として働きます。

補酵素の意味は、『運搬役』だと思っていてください。じき、分かります。

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体

ピルビン酸デヒドロゲナーゼについてこのような説明がありました。

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体とは、ピルビン酸をアセチルCoAに変換(ピルビン酸脱炭酸反応と呼ばれる)する3つの酵素の複合体である。

アセチルCoAはクエン酸回路に送られて細胞呼吸に使われており、この複合体は解糖系とクエン酸回路とを繋げている。

また、ピルビン酸脱炭酸反応は、ピルビン酸の酸化を必要とするためピルビン酸デヒドロゲナーゼ反応としても知られる。(出典

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体で行われる反応の全体は簡単なものです。ピルビン酸から脱炭酸して、補酵素A(CoA)を結合させます。

デヒドロゲナーゼとは、脱水素酵素という意味です。CoA-SHからNAD+に水素が受け渡されています。

Pyruvate dehydrogenase complex01

ところがこれだけだと、チアミン二リン酸がこの反応にどのように関わったのか分かりません。

そこで、EC 1.2.4.1、EC 1.8.1.4、EC 2.3.1.12という、3つの酵素による反応がどのようなものなのか調べていきます。

EC番号を頼りに反応を調べる

上で引用した文の中に、たとえば『EC 1.2.4.1』という番号が書かれています。これはEC番号といって、酵素につけられた番号です。

EC番号(酵素番号、Enzyme Commission numbers)は酵素を整理すべく反応形式に従ってECに続く4組の数字で表したもの。

国際生化学連合(現在の国際生化学分子生物学連合)の酵素委員会によって1961年に作られた。(出典

EC番号で検索すると、酵素の名前を調べることができ、さらに、その酵素がかかわる反応も調べることができます。

KEGGについて

EC番号を検索するとKEGGのページがたくさん出て来ます。

KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes
KEGG はゲノムの情報から高次生命システムの機能と有用性を解読するためのバイオインフォマティクスリソースです

ウイキペディアで調べてみると、京都大学発のデータベースなのでした。

KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes:”京都遺伝子ゲノム百科事典”の意味)はバイオインフォマティクス研究用のデータベース。遺伝子、タンパク質、また代謝やシグナル伝達などの分子間ネットワークに関する情報を統合したデータベースである。

1995年に京都大学化学研究所の金久實教授らによるプロジェクトとして発足して整備が続けられ、ウェブ上で公開されている。(出典

ネット時代だからこそできることですね。紙ではとてもとても難しいことだと思います。すごい時代なんだなと思います。

クエン酸回路(TCA回路)の経路図を見ると、ピルビン酸からアセチルCoAまで、このように書かれていました。(出典

ピルビン酸がアセチルCoAに変わるまで、EC 1.2.4.1とEC 2.3.1.12が直接関わり、EC 1.8.1.4は、リポアミド-Eを供給するために関わっているようです。

from pyruvate to acetyl CoA

さらに細胞の分子生物学第4版を読むと、このような説明が書かれていました。ちなみに、最新版は第6版が出ています。

ピルビン酸脱水素酵素複合体が行う反応。この複合体は,ミトコンドリアのマトリックス中でピルビン酸をアセチルCoAに変換し,同時にNADHも生成する。

A,B,Cは3種類の酵素で,Aはピルビン酸脱炭酸酵素(Pyruvate decarboxylase),Bはリポアミド還元酵素-アセチル基転移酵素(lipoamide reductase-transacetylase),Cはジヒドロリポ酸脱水素酵素(dhydrolipoyl dehydrogenase)である。

3種類の酵素はここに示すような連鎖関係にある。

真似して図を描きました。

ピルビン酸脱水素酵素複合体

この図を見ると分かりやすいですね。

順番に見ていきましょう。

EC 1.2.4.1

ピルビン酸を脱炭酸してアセチルCoAに変換するピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の反応のうち、EC 1.2.4.1を調べてみました。

すると、このような反応図が出てきました。(出典

この酵素は、ピルビン酸脱炭酸酵素(Pyruvate decarboxylase)です。

Lipoamide-E02

 

ピルビン酸から脱炭酸しています。脱炭酸した残りの(CH3-C=O)は、アセチル基といいます。

アセチル基は、リポアミド-Eに渡され、S-アセチルジヒドロリポアミド-Eとなります。

チアミン二リン酸はアセチル基の運び屋

ところで、この反応の時に、チアミン二リン酸が関係しているのです。(出典

チアミン二リン酸が、ピルビン酸からアセチル基を受け取り、2-(αヒドロキシエチル)チアミン二リン酸になります。

Pyruvate + Thiamin diphosphate

次に2-(αヒドロキシエチル)チアミン二リン酸からリポアミド-Eにアセチル基を渡してS-アセチルジヒドロリポアミド-Eになり、2-(αヒドロキシエチル)チアミン二リン酸は、チアミン二リン酸に戻ります。(出典

2-(alpha-Hydroxyethyl)thiamine diphosphate

 

ピルビン酸から実際にアセチル基を受け渡す役割をしているのが、チアミン二リン酸だったのです。

チアミン(ビタミンB1)はここで働いていました。

ビタミンB1はミトコンドリアでチアミン二リン酸になり、アセチル基の運び屋になる。

次に、S-アセチルジヒドロリポアミド-Eからアセチル基が補酵素Aに渡されます。

EC 2.3.1.12

この反応は、リポアミド還元酵素-アセチル基転移酵素(lipoamide reductase-transacetylase)によるものです。(出典

その反応は、下の図に描いた通りです。(出典

S-アセチルジヒドロリポアミド-Eが持っていたアセチル基を補酵素A(CoA)に渡し、ジヒドロリポアミド-Eになります。アセチル基を切り離した後に水素が結合しただけです。

補酵素A(CoA)はアセチル基を受け取りアセチルCoAになります。アセチルCoAは、クエン酸回路の中に入ります。

補酵素A(CoA)は、構造がやや複雑ですが、アセチル基を運ぶ運び屋で自身は何も変化しないので、HS-CoAなどと書かれることが多いです。下に構造式を描いておきました。

 

CoA + S-acetyldihydrolipoyllysine

次は、ジヒドロリポアミド-Eが変化します。

EC 1.8.1.4

EC 1.8.1.4は、ジヒドロリポ酸脱水素酵素(dhydrolipoyl dehydrogenase)です。英語をカタカナ読みすると、ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼです。

ジヒドロリポアミド-Eが水素を2個離して、リポアミド-Eになる反応です。(出典

このとき、NAD+が水素を受け取り、還元されてNADHになります。

NAD++2e+2H+ → NADH + H+ (還元)

こうして、リポアミド-Eが再生し、最初の反応に戻ります。

NAD01

まとめ

ビタミンB1は、ピルビン酸からアセチル基を一番最初に運ぶ、運搬役でした。なるほど、ビタミンB1(チアミン)が欠乏すると、その運搬役となるチアミン二リン酸ができなくなってしまいます。

すると、ピルビン酸はアセチルCoAとなってクエン酸回路に入ることができなくなるのでした。

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