ビタミンB1は糖からエネルギーを作るのに関わる

この記事では、ビタミンB1について、ビタミンB1とはどのようなものか。不足するとどうなるか。脚気とはどんな病気なのか。過剰摂取はあるか。多く含まれている食品にはどんなものがあるか。一日の摂取量などについて調べてみました。

ビタミンB1はブドウ糖の代謝に関わり、欠乏するとエネルギーを作れなくなることでほぼ説明できそうです。

ビタミンB1とは

ビタミンB1は、糖からエネルギーを得る過程で働いています。たいていの生物は、糖を分解して生きていくためのエネルギーを得ています。ビタミンB1が足りないと、そのエネルギーが作れなくなってしまいます。

ビタミンB1は、チアミン、サイアミン(thiamin, thiamine)とも呼ばれる水溶性ビタミンです。

ブドウ糖は、解糖系でピルビン酸まで分解され、さらにアセチルCoAとなり、その先のTCA回路に入ってエネルギーであるATPを合成するために使われます。

ビタミンB1は、ピルビン酸がアセチルCoAに変換される時に必要なものです。

欠乏するとどうなるか

上で説明したように、ビタミンB1が欠乏すると、単純にエネルギーが作られにくくなってしまいます。

ご飯を食べるとデンプンが消化されてブドウ糖になります。そのブドウ糖からエネルギーを作るのですが、ビタミンB1が欠乏していると、ご飯をたくさん食べても、その働きが途中でストップしてしまうのです。

つまり、エネルギー(ATP)が足りない。

脚気になる

子どもの頃病院に行くと、必ずヒザをゴムの小さいハンマー(のようなもの)でコンと打たれて足が反射的に上がるかどうか調べられたものです。脚気の検査といわれました。面白くて、小学生の時、一時流行りました。

しかし、脚気とは、どんな症状が出る病気なのか知りませんでした。

図解入門よくわかる栄養学の基本としくみに実に分かりやすい説明がありました。このシリーズはよい本が多いです。

図解入門よくわかる栄養学の基本としくみ
ビタミンについて簡単にまとめて話してくれといわれた時に使った『図解入門よくわかる栄養学の基本としくみ』をご紹介します。むずかし過ぎず、かんたん過ぎない。やたらと構造式が出てこない本です。

ビタミンB1の慢性的な不足が続くと、神経症状と筋肉、とくに心筋の異常(心不全)による症状が現れてきます。これらの症状をさして、脚気といいます。(中略)

神経細胞は、エネルギー源として糖(グルコース)しか使えません。そのため、ビタミンB1の欠乏によって糖代謝に障害が起こると、すぐに機能異常が現れてきます。

ビタミンB1欠乏による神経症状はウェルニッケ・コルサコフ症候群と呼ばれ、特徴のある症状を示します。軽い錯乱状態から、昏睡状態に至るまでの症状があります。

心臓や筋肉はATPを大量に必要とする臓器です。ビタミンB1欠乏によるATP欠乏状態は多くの臓器で起こりますが、心臓はとくに強い症状が現れます。

心臓が悪くなると、動悸(どうき)や下腿(かたい)の浮腫に続いて、呼吸困難などの心不全の症状が出てきます。死亡例もまれではありません。

実に分かりやすいです。

神経細胞は糖しかエネルギー源として使えないので、すぐにエネルギー不足になってしまう。子どもの頃、ヒザをコンと打たれていたのは、神経反射を調べていたのですね。

心臓は死ぬまで休めない臓器ですから、大量のエネルギーを必要とします。エネルギーが作れなければ、動きが悪くなり、血液の流れが悪くなれば、足の浮腫(むくみ)も起きてきます。

脚気の初期症状は、食欲低下、倦怠感、足のだるさ、知覚マヒ、動悸だそうです。

心臓の動きが本格的に悪くなれば死んでしまう・・・。

ところで、ビタミンB1が欠乏していて、ピルビン酸がアセチルCoAに変換されないと、ピルビン酸は乳酸に変わります。これが急にたくさんたまるととてもよくないようです。

乳酸アシドーシス

乳酸は「酸」がついている通り酸性です。体液が正常よりも酸性に傾いた状態をアシドーシスといいます。

急性のビタミンB1欠乏症では、脚気の症状が強くなり、心不全や脳症で死に至ることがあります。

平成6年にわが国で、ビタミンB1に関する大きな医療事故が起こりました。高カロリー輪液を行った際に、ビタミンB1等のビタミン類が投与されていなかったために、多くの患者が亡くなったのです。

ブドウ糖の多い高カロリー輪液でビタミンB1の補給を怠ると、代謝されなかったピルビン酸が乳酸となって体内にたまり、重症のアシドーシスが起こって、脳症や心臓病を悪化させてしまうのです。

これが脂肪の原因となりました。

普通に生活していて、脚気になった人の話は聞いたことがありません。しかし、現在でもアルコールと少しのおつまみだけで野菜を食べないアルコール中毒の人や、インスタントラーメンだけで生活している人などの中になる人がいるようです。

過剰摂取するとどうなるか

ビタミンB1は水溶性で、毎日尿から排泄されます。食事から摂る場合は、過剰症は見られません。

逆に、夏は汗をたくさんかくのでビタミンB1が余計に出ていってしまいます。夏バテ対策にはビタミンB1の補給を忘れないようにしましょう。

ただし、日本人の食事摂取基準(2015年版)水溶性ビタミンによると、こんなことが書かれていました。

ビタミン B1 過剰症では、頭痛、いらだち、不眠、速脈、脆弱化、接触皮膚炎、かゆみなどの症状が現れる。

参照元を見ると「Mills CA. Thiamine over dosage and toxicity. J Am Med Assoc 1941; 116 : 2101」とあり、過剰投与と毒性ということなので、通常の食事では関係ないでしょう。

B1がたくさん含まれている食品

ビタミンB1がたくさん含まれている食品について調べました。50位までの表です。

酵母米ぬかに多い

パン酵母とありますが、日本食品標準成分表2015年版(七訂)にはビール酵母は収められていません。ビール酵母にも同じようにB1が多く含まれています。ビール酵母は、ドラッグストアで粉状のものは案外安く買うことができます。米ぬかに多いので、ぬか漬けはよいですね。

ぶた肉に多い

表を見て目立つのはぶた肉です。ヒレ、ももなど部位が多いのでいくつも登場しますが、成分量を見ても多いのは間違いありません。そして、100g食べるのは普通のことです。

ビタミンB1 : 食品100gあたりの含有量
順位食品名成分量
1パン酵母/乾燥8.81mg
2米ぬか3.12mg
3パン酵母圧搾2.21mg
4ぶた/ヒレ赤肉焼き2.09mg
5小麦はいが1.82mg
6ひまわり/フライ味付け1.72mg
7けし/乾1.61mg
8即席中華めん/油揚げ味付け1.46mg
9ぶた/ヒレ/赤肉生1.32mg
10ごま/むき1.25mg
11まいたけ/乾1.24mg
12ぶた/ヒレ/赤肉生1.22mg
13あまのり/ほしのり1.21mg
14ぶた/もも/皮下脂肪なし焼き1.19mg
15ぶた/ヒレ赤肉とんかつ1.09mg
16ぶた/もも/赤肉生1.01mg
17ぶた/もも/皮下脂肪なし生0.98mg
18チアシード/乾0.97mg
19ぶた/ロース/赤肉生0.96mg
19ぶた/もも/赤肉生0.96mg
21ごま/乾0.95mg
22ぶた/ひき肉/焼き0.94mg
22ぶた/もも/皮下脂肪なし生0.94mg
24ぶた/生ハム/促成0.92mg
24あおのり/素干し0.92mg
26すっぽん/肉生0.91mg
27ぶた/もも/脂身つき生0.90mg
27ぶた/そともも/赤肉生0.90mg
27ぶた/ボンレスハム0.90mg
27ぶた/ロース/脂身つき焼き0.90mg
27ぶた/生ハム/長期熟成0.90mg
27ぶた/もも/脂身つき生0.90mg
33パセリ/乾0.89mg
34ブラジルナッツ/フライ味付け0.88mg
34だいず/全粒/米国産/黄大豆/乾0.88mg
36ぶた/ロースハム/焼き0.86mg
36ぶた/ロース/皮下脂肪なし生0.86mg
38ぶた/そともも/皮下脂肪なし生0.85mg
38ぶた/焼き豚0.85mg
38らっかせい/乾小粒種0.85mg
41ぶた/そともも/赤肉生0.84mg
41だいず/全粒/中国産/黄大豆/乾0.84mg
43ぶた/かた/赤肉生0.82mg
43ぶた/かたロース/赤肉生0.82mg
43ぶた/もも/皮下脂肪なしゆで0.82mg
46ぶた/そともも/皮下脂肪なし生0.81mg
47ぶた/ロース/赤肉生0.80mg
47りしりこんぶ/素干し0.80mg
49ぶた/そともも/脂身つき生0.79mg
50たらこ/焼き0.77mg
50だいず/全粒/ブラジル産/黄大豆/乾0.77mg
50ぶた/ロース/脂身つき生0.77mg
※日本食品標準成分表2015年版(七訂)

玄米と白米のB1

白米ばかり食べると脚気になることは、江戸時代から知られています。脚気とビタミンB1の発見の歴史は別の記事にしますが、白米と玄米を炊いたごはんのビタミンB1を比較してみましょう。

ぬかにビタミンB1がたくさん含まれていますから、白米にはほとんど含まれていません。

100gあたりのビタミンB1(出典
玄米0.16mg
発芽玄米0.13mg
精白米0.02mg

食品に含まれるビタミンB1の量を調べましたが、1日どのくらい摂っていればよいのでしょう?

ビタミンB1の1日あたり摂取量は?

日本人の食事摂取基準(2015 年版)から調べました。

推定平均必要量が一番数値が低いです。これはこのような考え方で求められていました。

水溶性ビタミンは、必要量を満たすまではほとんど尿中に排泄されず、必要量を超えると、急激に尿中排泄量が増大する、という考え方に基づき、これらの変曲点を必要量と捉える方法である。

推奨量は、それよりも少し多くしています。

ビタミンらしく微量で働きます。一番多くても1.5mg/日です。豚肉を150g食べるとお釣りが来そうですね。

ビタミン B1 の食事摂取基準(mg/日)
性 別男 性女 性
年齢等推定平均
必要量
推奨量目安量推定平均
必要量
推奨量目安量
0~ 5(月)0.10.1
6~11(月)0.20.2
1~ 2(歳)0.40.50.40.5
3~ 5(歳)0.60.70.60.7
6~ 7(歳)0.70.80.70.8
8~ 9(歳)0.81.00.80.9
10~11(歳)1.01.20.91.1
12~14(歳)1.21.41.11.3
15~17(歳)1.31.51.01.2
18~29(歳)1.21.40.91.1
30~49(歳)1.21.40.91.1
50~69(歳)1.11.30.91.0
70 以上(歳)1.01.20.80.9
妊婦(付加量)+0.2+0.2
授乳婦(付加量)+0.2+0.2
特記事項:推定平均必要量は、ビタミン B1 の欠乏症である脚気を予防するに足る最
小必要量からではなく、尿中にビタミン B1 の排泄量が増大し始める摂取量(体内飽
和量)から算定。

まとめ

ビタミンB1には思い出があります。数年前、頼まれてアメリカのメーカーのビタミンBコンプレックスのサプリメントを1ヶ月毎日飲んでました。カプセルがでかいので飲みにくかったです。

おしっこが真っ黄色になり、アリナミンのにおいがします。アリナミンはビタミンB1だったんだと思い出しました。そのサプリメントもB1が主体でした。(アリナミンはもう何年も飲んだことがないですが、効きましたね)

おしっこの色とにおいは変化しましたが、このサプリメントで疲れにくくなったということもなく、それ以来、ビタミンB1の印象が「大したことない」になっていました。

しかし、今回調べてみて、一番のエネルギー源となる糖代謝の、TCA回路の入口に関わることが分かりました。とても大切なビタミンでした。

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