なぜビタミンEはα-トコフェロールだけが有効なのか

ビタミンEは8種類あるのですが、体の中では、肝臓で、α-トコフェロールだけが優先的に脂肪やコレステロールを運ぶアポタンパク質に結合して他の細胞に運ばれます。他のビタミンEは、細胞内で解毒酵素とβ酸化によって水に溶けやすくされ、尿から体外へ排出される仕組みがあります。

アーモンド

ビタミンEは8種類ある

なぜ、ビタミンEはα-トコフェロールだけを考えるのか?日本人の食事摂取基準(2015 年版)にはこのように書かれています。

血液及び組織中に存在するビタミンEの大部分がα-トコフェロール

ビタミンEには8種類ありますが、体の中にあるのは大部分がα-トコフェロールです。

ビタミン E には、4 種のトコフェロールと 4 種のトコトリエノールの合計 8 種類の同族体が知られており、クロマノール環のメチル基の数により、α-、β-、γ-及びδ-体に区別されている。

血液及び組織中に存在するビタミン E 同族体の大部分がα-トコフェロールである。このことより、α-トコフェロールのみを指標にビタミン E の食事摂取基準を策定し、α-トコフェロールとして表すことにした。

構造を見比べてみよう

トコフェロールの構造式を調べてみました。構造はほとんど同じですが、下図の構造式で、二重結合が3個ある一番下の環についている半直線の本数が違っています。

一番下の環は、クロマノール環といいます。

半直線は、CH3(メチル基)です。C(炭素)とH(水素)は構造式では通常省略されます。半直線の数が違うとは、メチル基の数が違っているということです。

クロマノール環のメチル基の数が違う

α-トコフェロールは、メチル基が3個。β-トコフェロールとγ-トコフェロールは2個ですが、位置が違っています。δ(デルタ)-トコフェロールは1個です。

4つのトコフェロール

トコトリエノール

この記事では触れませんが、トコトリエノールの構造式も1つ書いておきます。2つ環の後ろにある炭素と水素からできた鎖に炭素の二重結合が3ヶ所あります。それがトコフェロールとの違いです。

トコロリエノールにもα、β、γ、δがありますが、ぞれぞれの違いはトコフェロールと同じです。

α-トコトリエノール

二重結合が3個ありますが、全体の形はトコフェロールによく似ています。

ビタミンEの代謝

ビタミンEが体の中に入ってきてどうなるのか?

ゴマリグナンは生体内のビタミン E,K および C 濃度をそれらの代謝を調節して上昇させるに詳しく書かれていました。

ビタミンEを理解するにはとても大切なことだと思います。特に次の2つ。

  • α-トコフェロールは、油やコレステロールを血液に乗せて運ぶリポタンパク質に結合して運ばれる。
  • α-トコフェロール以外のビタミンEは肝臓内で変化し、尿中に排泄される。

α-トコフェロールは、油やコレステロールと一緒に運搬される

α-トコフェロールが優先的に選別されるのは、α-トコフェロール輸送タンパク質(αTTP)のためです。

経口摂取したビタミン E は,腸管内で他の食事性脂質と胆汁酸ミセルを形成し,小腸上皮細胞に吸収される.

そして,小腸で再合成されたトリアシルグリセロールとともにビタミン E はキロミクロンに結合してリンパ管に放出され,血液循環を経ていったん肝臓へと運ばれる.

肝臓に運ばれたビタミン E は,肝臓特異的に発現している α-トコフェロール輸送タンパク質(αTTP)によって選別される.

肝臓中の αTTP は通常は細胞質に存在しており,ビタミン E と結合すると細胞膜に移動することによって,ビタミン E を細胞膜へと輸送する.

肝臓中の αTTP はビタミンE の中でもα-トコフェロールとの親和性が最も高いため,α-トコフェロールは選択的に細胞膜に運ばれる.肝臓中で細胞膜に運ばれたα-トコフェロールはその後超低密度リポタンパク質(VLDL )に結合し,リンパ管を経て血流を循環しながら,リポタンパク質代謝に依存して肝外組織に取り込まれる.

一方,α-トコフェロール以外のビタミンEの大部分は肝臓内で水酸化され,さらにβ酸化されて側鎖の短くなったカルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)になり,尿中に排泄される.

したがって,我々は日常的にα-トコフェロールと y-トコフェロールをほぼ同量摂取しているが,体内のビタミンEはα-トコフェロールの方が圧倒的に多い.

ビタミンEの体内での動きは、脂質と同じですね。

「肝臓中の αTTP はビタミンE の中でもα-トコフェロールとの親和性が最も高い」と書かれています。他のトコフェロールとも結合しないわけではないけれど、α-トコフェロールと一番結合しやすいと覚えておきましょう。

LDL(悪玉コレステロール)はコレステロールと油を運ぶもの

「超低密度リポタンパク質(VLDL )に結合」なんて聞いてもピンと来ないですが、血液検査で測定するLDLはご存知でしょう?悪玉コレステロールのことです。

油やコレステロールは水に溶けません。しかし、血液はほとんどが水分です。その中を運搬して細胞に届けるために、リポタンパク質という乗り物が必要になります。

VLDLがおもに中性脂肪(油のこと)を細胞に届けたあと、それがLDLになります。

LDLは悪玉コレステロールといわれていますが、リポタンパク質の一つです。コレステロールそのものではありません。

LDLは、主に、コレステロールを運んで届けるのが役割です。このあたりのことは、以下の記事に詳しく書きました。ぜひ、読んでみて下さい。

α-トコフェロールは、脂肪やコレステロールではありませんが、アポタンパク質に結合して一緒に運ばれ、肝臓からスタートして他の細胞に届けられるのです。

α-トコフェロール以外は、尿から排泄される

この論文では、γ-トコフェロールを例に、尿から排泄されるγ-CEHC(カルボキシエチルヒドロキシクロマン)まで書かれた図がありました。

酵素シトクロムP450によって(-OH)が1個つけられる

CYP4F2は、シップ4F2と読みます。シトクロムP450酵素の一つです。シトクロムP450は薬物代謝に関係していて、飲んだ薬を解毒して、水に溶けるようにして、おしっこから出すことができるようにヒドロキシ基(-OH)をつける働きをします。

CYP4F2を読むと、細胞内の小胞体に局在すると書かれていました。

ヒドロキシ基(-OH)がつくと、水に溶けやすくなります。

実際に、γ-トコフェロールの一番端にある、メチル基(CH3)にヒドロキシ基(-OH)が1個ついてCH2OHとなっています。

シトクロムP450について、以前、薬を飲んでいるときグレープフルーツを食べてはいけない理由を調べてみたという記事を書きました。

薬を飲んでいるときグレープフルーツを食べてはいけない理由を調べてみた
薬によっては、飲んでいるときにグレープフルーツを食べてはいけないものがあります。その理由は、グレープフルーツが薬を解毒・代謝するシトクロムP450を阻害するからです。薬の効き目が強くなって「効き過ぎる」可能性があるのです。弱くなるのではなく...

β酸化によって炭化水素鎖が短く切られる

図中、β酸化によってγ-トコフェロールの長さが短くなったのがおわかりになると思います。β酸化は、炭素と水素でできた鎖を、炭素2個分ずつ短くしていく反応です。

炭化水素鎖が長いと水に溶けにくいのですが、短くすることと、おまけにヒドロキシ基(-OH)がついているので、水に溶けやすくなります。

γ-トコフェロールがγ-CEHCになると、尿に溶かして体外に出ていくようになります。

 

γ-CEHC

まとめ

ビタミンEは脂質の代謝経路で肝臓まで来ますが、α-トコフェロールが優先的に肝臓の細胞にあるα-トコフェロール輸送タンパク質(αTTP)によって選別されます。

細胞膜に送られたα-トコフェロールは、リポタンパク質に結合して、脂質と同じように血液中を流れて他の細胞に送られていきます。

α-トコフェロール以外のビタミンEは、細胞内の小胞体にあるシトクロムP450という酵素の一つ、CYP4F2によって解毒作用として、ヒドロキシ基(-OH)をつけられ、さらに、β酸化を受けて短くなり、水に溶けやすくなり、尿から体外に出ていきます。

体の中で働くビタミンEとしてα-トコフェロールだけが考慮されるのは、この仕組みがあるためです。

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