この記事では、ビオチンの特徴、ビオチンの作用、欠乏するとどうなるのか。また、過剰摂取による障害があるのか。多く含む食品。1日の摂取量について調べてみました。
ビオチンの特徴
ビオチンはビタミンHとも呼ばれています。最初は酵母などの微生物の成長因子として見つかりました。腸内細菌叢でもつくられるため、欠乏症が起きることはまれです。
ビオチンの作用
ビオチンの構造式は下図の通りです。右端にカルボキシル基(COOH)がついています。
ビオチンの作用について図解入門よくわかる栄養学の基本としくみにこのように書かれていました。
カルボキシル基を持つビオチンは、カルボキシル基を受け渡す酵素(カルボキシダーゼ)の補酵素として働いています。
たとえば、糖の代謝ではピルビン酸カルボキシラーゼとアセチルCoAカルボキシラーゼの補酵素として働き、それぞれ糖新生(アミノ酸、脂肪、乳酸などからグルコースを作る経路)、脂肪酸合成(体内で糖などから脂肪を合成する経路)に関与しています。
このため、ビオチンには高血糖を改善する作用も報告されています。
また、ビオチンにはヒスチジンの尿からの排泄を促進する作用があります。ヒスチジンはヒスタミンの原料となる物質で、ヒスタミンはアトピー性皮膚炎の原因ともなる物質です。
そのため、ビオチンが不足するとヒスタミンが増えて、脂漏性皮膚炎を起こします。逆に、こうした作用を期待して、ビオチンはアトピー性皮膚炎の薬として使われています。
欠乏するとどうなる?
ビオチンは腸内でも作られるため、欠乏症はまれです。ただ、抗生物質を長期間飲んでいる方は注意が必要です。
日本人の食事摂取基準(2015年版)にはこのように書かれていました。
ビオチン欠乏症は、リウマチ、シェーグレン症候群、クローン病などの免疫不全症だけではなく、1 型及び 2 型の糖尿病にも関与している。
ビオチンが欠乏すると、乾いた鱗状の皮膚炎、萎縮性舌炎、食欲不振、むかつき、吐き気、憂鬱感、顔面蒼白、性感異常、前胸部の痛みなどが惹起される。
過剰摂取するとどうなる?
日本人の食事摂取基準(2015年版)によると過剰摂取による障害はなさそうです。
通常の食品で可食部 100 g 当たりのビオチン含量が数十μg を超える食品は、肝臓を除き存在せず、通常の食品を摂取している人で、過剰摂取による健康障害が発現したという報告は見当たらない。
ビオチン関連代謝異常症の患者において、1 日当たり 200 mg という大量のビオチンが経口投与されているが、健康障害などの報告はない。
ビオチンを多く含む食品
なま(生)と乾燥物だけにしぼって成分量の多い順番に書きます。加工品は除いています。
現実的に一度に100g食べるものは、肝臓(レバー)と落花生、蕎麦、卵黄くらいでしょうか。
食品名 | 成分量 100gあたりμg |
パン酵母乾燥 | 310.0 |
まいたけ/乾 | 243.0 |
にわとり/肝臓/生 | 232.0 |
ぶた/じん臓/生 | 100.0 |
らっかせい/乾大粒種 | 92.0 |
うし/じん臓/生 | 90.0 |
インスタントコーヒー | 88.0 |
しろきくらげ/乾 | 87.0 |
ぶた/肝臓/生 | 80.0 |
うし/肝臓/生 | 76.0 |
あおのり/素干し | 71.0 |
鶏卵/卵黄/生 | 65.0 |
せん茶/茶 | 52.0 |
とうがらし/粉 | 49.0 |
けし/乾 | 47.0 |
米ぬか | 38.0 |
そば粉/表層粉 | 38.0 |
乾しいたけ | 37.0 |
えごま/乾 | 35.0 |
黒砂糖 | 34.0 |
1日の摂取量
1日の摂取量について、目安量しか設定されていません。
目安量は、特定の集団において不足状態を示す人がほとんどいない量。疫学的な観察研究に由来しているが、人で介入試験ができない等、十分な科学的根拠がないため推定平均必要量、推奨量が示せない栄養素で設定されます。
性 別 | 男 性 | 女 性 |
年齢等 | 目安量 | 目安量 |
0~ 5(月) | 4 | 4 |
6~11(月) | 10 | 10 |
1~ 2(歳) | 20 | 20 |
3~ 5(歳) | 20 | 20 |
6~ 7(歳) | 25 | 25 |
8~ 9(歳) | 30 | 30 |
10~11(歳) | 35 | 35 |
12~14(歳) | 50 | 50 |
15~17(歳) | 50 | 50 |
18~29(歳) | 50 | 50 |
30~49(歳) | 50 | 50 |
50~69(歳) | 50 | 50 |
70 以上(歳) | 50 | 50 |
妊婦 | 50 | |
授乳婦 | 50 |
まとめ
栄養学を拓いた巨人たちにはこのように書かれていました。
発見者ギョールギーは、ハンガリー生まれの医師であり生化学者でした。ビタミンB6を発見し、さらにビオチンを発見します。
ギョールギーはさらに1931年、米国に移ると、ラットに大量の卵白を与えると発病する「卵白障害症候群」に対して有効な「抗卵白障害因子」を発見した。
「ビオチン」と命名されたこの物質は、卵黄、肝臓、酵母に存在するビタミンB複合体であった。
ビオチンは1931年に発見されていますが、どの本を読んでもそれほど内容が厚くありません。食品だけでなく、腸内細菌がつくることができるので、欠乏することがほとんどないのかもしれません。