中国は濃縮トマト出荷量が世界一

中国は1990年代初めから新疆ウイグル自治区で濃縮トマトを製造し始めましたが、その後わずか20年で、濃縮トマト輸出量が世界第一位になりました。

これは、この地区で生産される濃縮トマトのコストパフォーマンスのよさから、イタリア企業が工場やノウハウなどの協力をしたことが大きいです。

トマト

トマト缶の黒い真実 (ヒストリカル・スタディーズ) を読みました。腰巻きになかなか感情をあおるコピーが入っています。約350ページの本、読むのに2日かかりました。

普段、食品の問題について本を読むことはあまりないのですが、この本は無視できませんでした。いつもカレーを作る時、ホールトマト缶を使っているからです。生トマトでもよいのですが、ホールトマトの方が味が濃いのです。

読んでみると、すべてがこの本のタイトルにある通りの「黒い真実」話ではありませんでしたが、もちろん「黒い真実」も書かれています。

この記事では、私が読み始めに一番驚いたこと、なぜ、中国が濃縮トマト出荷量で世界一になったのかについて紹介します。とても面白い本でした。

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中国がトマトの一大生産地になっていた

本の書き出しは、中国の新疆ウイグル自治区のトマト畑での収穫風景から始まります。ここには中国最大の、そして世界第二位のトマト加工会社中糧屯河糖業があると書かれていました。

同社は、世界中の大手食品メーカーに濃縮トマトを供給している。クラフト・ハインツ、ユニリーバ、ネスレ、キャンベル・スープ、カゴメ、デルモンテ、ペプシコ、マコーミックといった有名メーカーは、いずれも中糧屯河の取引相手だ。(中略)

同社は、年間一八〇万トンのトマトを使って、全国生産量の三分の一に当たる二五万トンの濃縮トマトを生産している。

中国でトマトの栽培が盛んだという話はいままで聞いたことがありませんでした。取引先はだれでも知っている大きなメーカーばかりです。

しかも、新疆ウイグル自治区とは砂漠のようなイメージを持っていたのです。グーグルマップで改めて調べてみました。

中華人民共和国

やはり、砂漠が多い地域です。

日本では、1990年代に永田農法のトマトがとても話題になりました。やせた土壌をつくり、雨を避けるため温室栽培をして、できるだけ水をやらないで高糖度のトマトを栽培する方法でした。

それを考えると、新疆ウイグル自治区では高品質のトマトが栽培できるかもしれません。

以前、輸入野菜を買ってますか?という記事を書いたことがあります。その時に、日本の中国からの野菜の輸入額は、1995年と最近を比較すると2倍以上になっていることを知りました。

何となく買うのをためらう輸入野菜。実際のところどんな基準でどんな検査をされているんだろう?とある本を読んだことをきっかけに調べてみました。輸...

中国は農業も拡大中

日本は工業化を進める時に、農業をおざなりにしてしまいましたが、中国は農業生産量も拡大しているのです。

中国経済において農業が機能していないと考えるのは大きな間違いだ。中国は、小麦、コメ、ジャガイモで世界第一位、トウモロコシ、加工用トマトで世界第二位の生産国だ。

特に穀類は、過去一五年間で生産量が四〇パーセントも増加している。あまり知られていないが、濃縮リンゴ果汁、香草、乾燥キノコ、ハチミツの世界一の輸出国でもある。

中国の農産物加工は過去三〇年間で、地元生産者による少量販売から、大手企業の独占による大規模生産・販売へと大きく変化した。

いまや中国は電子製品と並んで、多くの食品を低価格で海外に輸出している。中国の食品は世界中で消費されているのだ。

濃縮トマト

ところで、生産されたトマトは、濃縮トマトに加工され輸出されます。

濃縮トマトは輸送に適している

濃縮トマトとは、生トマトから種と皮を取り除き、加熱して粉砕し、水分を蒸発させて濃縮したものです。水分を抜くと重量が軽くなります。

さらに、濃縮トマトは無菌容器に詰められます。すでに加熱されているので保存性がよくなります。輸送に適しているのです。

濃縮トマトには基準があります。

生トマトに含まれる固形分はおよそ五パーセントから六パーセントで、水分はおよそ九四パーセントから九五パーセントだ。

二倍濃縮トマトでは固形分の割合は二八パーセント以上、三倍濃縮トマトなら三六パーセント以上とされる。

近代的で効率的な加工工場で一キロの二倍濃縮トマトを生産するには、およそ六キロのトマトが必要だ。工場の設備が古ければもっとたくさんいるだろう。一キロの三倍濃縮トマトを生産するには、七キロから八キロのトマトが必要だ。

なぜ新疆ウイグル自治区でトマトが栽培されるようになったのか

海外にトマトを輸出するなら、港の近くで栽培した方が輸送コストが節約できます。なぜ、中国の西の辺鄙なところでわざわざ栽培したのでしょう?

それは新疆生産建設兵団が関係しています。

新疆生産建設兵団は、中国西部の新疆ウイグル自治区に駐屯する組織で、この地域の経済開発と防衛に携わっている。

中央政府と新疆ウイグル自治区の両方の指揮下にあるが、地域の行政は兵団が行っている。超巨大な組織で、総人員は二六〇万人以上。パリ市の人口より多いので、もはやひとつの都市と言えるだろう。

ウイキペディアにも新疆生産建設兵団の記事がありました。1949年に中華人民共和国に統一され、1955年に新疆ウイグル自治区が設置されたとあります。

「経済開発と防衛に携わっている」と書かれていますが、経済開発はたとえば、こんな感じで行われます。

たとえば、自分たちが所有する鉱山から石炭を発掘すると、それを原料にして自分たちで製鉄用コークスを生産する。

畑で栽培された綿花は、自分たちで収穫し、兵団が経営する紡績工場で綿糸や綿織物にされる。飼育された家畜は、兵団の食肉工場で解体され、兵団の食品工場で加工される。

このように原料を得ると自分たちで加工するのが当たり前なので、トマトも同じように濃縮トマトに加工されます。

新疆生産建設兵団が経営する企業、1994年に「カルキス」を立ち上げたリウ・イ将官はこのように語っています。

「わたしが加工トマトを始めたころは、中国の加工トマト産業は世界でまったく知られていなかった。

当時、有名だったのは、イタリア、南フランス、スペイン、ポルトガル、アメリカのカリフォルニア、トルコの一部、チュニジアだ。中国はまだまだだった。

私は市場を調査し、兵団の上層部に”中国を世界的な加工用トマトの生産国にしましょう”と提案したんだ。(中略)

それまで、新疆では小麦と綿花を主に栽培していたのだが、連作障害が起きていた。(中略)綿花の代わりに育てられて、利益が得られる作物について調べたら、トマトが一番よかったんだ。兵団には広大な領土がある。土地も資金も豊富にあった。いくらでも使い放題だ。

地元の新疆ウイグル自治区政府もトマト栽培を歓迎してくれた」

1994年にカルキスを立ち上げ、1996年に加工トマト産業に乗り出すと、すぐに他国と取引するようになったそうです。

わずかな期間で濃縮トマト輸出量が世界一に

中国の濃縮トマトはわずかな期間で世界一になります。こんな風に書かれていました。

中国の加工トマト産業は、三つの段階を経て成長しました。

第一段階は一九九〇年から一九九三年まで。中国の加工トマト産業の黎明期(れいめいき)です。

当時、年間およそ四〇万トンの加工用トマトが栽培されていました。イタリア人も中国人も新疆ウイグル自治区の気候がトマトの栽培に向いているとわかると、工場をどんどん増やしました。

第二段階は一九九九年から二〇〇三年まで。加工トマト産業は急成長し、年間五〇〇万トンもの加工用トマトが栽培されました。

これらのトマトを加工することで、六〇万トン以上の濃縮トマトが生産されました。そして第三段階は二〇〇九年から二〇一一年まで。この時期、トマトの生産量は年間一〇〇〇万トンの大台に乗りました。すべてが加工用、そしてほぼすべてが輸出用です。

2016年、濃縮トマトの生産量ではアメリカのカリフォルニアがトップですが、中国が世界一の輸出国であることには変わりがないそうです。

トマト

イタリアの企業が協力してくれた

耕地面積が広大にあるとしても、新たに始めた濃縮トマト事業が20年程度で世界一の生産量になるのは並大抵なことではありません。新疆ウイグル自治区の濃縮トマトを支えたのは、イタリアの企業でした。

もちろん、出来上がってくる濃縮トマトが安く、品質がよかったから協力したのです。

リウ将官はこのように語っています。

中国にトマト加工設備を最初に設置したのは、イタリアの会社だったんだ。北イタリアのパルマの機械メーカーが工場を建設して、いろいろなことを教えてくれた。

機械の操作方法、さまざまな技術とノウハウ、人材育成のしかた・・・‥。何もかも向こうで手はずを整えてくれた。

工場設備のほとんどが、ロッシ&カテッリとインジェニェーレ・ロッシの製品だった。完成した工場で生産された濃縮トマトは、南イタリアのナポリの食品メーカー、ルッソとペッティが買いとってくれた。イタリアは工場を提供してくれたうえ、商品まで買ってくれたんだ。最初から全部ね。

コストパフォーマンスのよさ

リウ将官がイタリアに濃縮トマトを持っていった時、驚きを持って迎えられたようすが書かれていました。

アントニーノ・ルッソと初めて会ったのは、一九九九年か、二〇〇〇年だったかな。わたしが濃縮トマトの商品サンプルを持ってナポリを訪れたんだ。

そのサンプルを分析した結果を見て、ルッソはとても驚いていた。うちの商品のコストパフォーマンスの高さにびっくりし、信じられないという顔をしていたよ。

そして、もっと詳しいテストをしたいからコンテナ一台分送ってほしい、と頼まれたんだ。言われたとおりにすると、いきなり最初から五〇〇〇トンの濃縮トマトを発注してくれたよ。

この本で社名が出て来たカゴメは、サイトを調べて見ると原料の産地を広く公開していました。

日本のメーカーを信頼してます

カゴメは、トマトについて産地を公開しています。

中国における原料の調達についてご紹介します。

この本の最初に出て来たように、新疆ウイグル自治区、内蒙古自治区が生産拠点の一つになっていました。夏の日ざしが強いことと、昼夜の温度差があることがトマト栽培に向いているのだそうです。

カゴメは、中国内部(新疆ウイグル自治区、内蒙古自治区)にトマト畑と加工協力工場をもっています。

また、トマト果汁について全ロット検査をしています。

カゴメはすべてのタンクの果汁を分析し、安全を確認したものだけを購入します。万が一にも安全性に疑いのある果汁は購入しません。

まとめ

中国は1990年代初めから新疆ウイグル自治区で濃縮トマトを製造し始めました。その後わずか20年で、世界第一位の輸出量を生産するようになりました。

これは、この地区で生産される濃縮トマトのコストパフォーマンスのよさから、イタリア企業が工場やノウハウなどの協力をしたことが大きいです。

しかし、供給量が増えるにつれ中国企業は下請けにとどまらず、外国企業を買いとったり、品質を極端に下げてコストダウンし、低価格でないと参入できないアフリカ市場への競争に加わるようになっています。これが、「黒い真実」の部分です。

ただ、新疆ウイグル自治区が良質なトマト栽培に適した土地であったことは間違いないでしょう。

詳しくは、ぜひ、本を読んでみてください。面白い本です。

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