食物繊維は、消化されにくいことで満腹感をもたらし食べすぎを抑えてくれます。また、便の量を増やします。そして、腸内細菌のエサになり、腸内細菌の10%を占めるビフィズス菌を増やしてくれます。特に水溶性食物繊維は、血糖値上昇を抑え、血中のLDLコレステロール量を減らす働きもあります。
食物繊維の効果
食物繊維は、昔は便秘症の人が気にして摂るものだと思っていました。食物繊維の役割はその程度しか期待されていなかったように思います。しかし、今はだいぶ違いますね。
食物繊維の栄養・生理機能に関する研究を読むと、食物繊維の効果がわかりやすく図示されていました。それをまず文字だけですが、書いておきます。ほとんど「なるほどね」と思えることばかりです。
口腔
- よくかむ
- 唾液の分泌を活発にする
- 満腹感をもたらす
- 食べる量を減らす(過食を抑える)
胃
- 食物が胃にとどまる時間を長くする
- 消化管ホルモンの分泌を促進する
- 満腹感を持続する
小腸
- 蠕動運動を活発にする
- 食物が小腸にとどまる時間を長くする
- 消化酵素や消化管ホルモン分泌を促進する
- 腸管を丈夫にする
- 栄養が吸収される部位を広くする
- 免疫機能を維持する
- 細菌の侵入を防ぐ
大腸
- 大腸通過時間を長くする
- 腸内細菌による短鎖脂肪酸の産生を促す
- 腸内を酸性に保つ
- 腸管を丈夫にする
- 腸内細菌のバランスを改善
- ミネラル(Mg,Ca,Feなど)の吸収を促進
(もともとの出典はこちらだそうです:Modification of Intestinal Absorption by Dietary Fiber and Fiber Components)
腸内細菌に関係する話は今の時代は大切です
腸内環境が免疫と関係していることは今は常識となりました。食物繊維はヒトは消化できませんが、腸内細菌が分解して栄養にできます。「大腸」について特に重要だと思われるところにラインマーカーを引いておきました。
腸内細菌による短鎖脂肪酸の産生を促す
食物繊維は腸内細菌に分解され、短鎖脂肪酸ができます。短鎖脂肪酸は大腸上皮細胞のエネルギー源となります。短鎖脂肪酸は大腸上皮細胞が増殖するための栄養だったを読んでいただくと、短鎖脂肪酸についてもわかります。
腸内細菌のバランスを改善
食物繊維が腸内細菌に分解されるのは、腸内細菌がエサとするためです。腸内細菌のうち乳酸菌の割合は0.1%くらいで、ビフィズス菌が10%くらいを占めているそうです。食物繊維を食べてビフィズス菌が増えます。詳しくは、お腹のビフィズス菌を増やす方法を読んでみて下さい。
不溶性食物繊維と水溶性食物繊維で働きに違いがある
ところで、食物繊維には、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維があるのですが、水に溶けない、もしくは、水に溶けるで働き(効果)に違いがあります。
繊維質と食物繊維にはこのように書かれています。
不溶性食物繊維
まず、不溶性食物繊維からです。便量の増加。これは時々経験します。
不溶性と水溶性で異なる生理作用もある.不溶性食物繊維は保水性が良く,便量の増加や腸の蠕動運動の促進,脂肪や胆汁酸,発がん物質等の吸着・排出作用がある.
私は10年以上玄米を食べています。玄米には不溶性食物繊維が含まれています。たまに、浮気して白米を買ってきてしばらく食べることがあります。白米を食べている間、あまり気がつかないのですが、玄米に戻すとすごくたくさん出るようになります。
水溶性食物繊維
水溶性食物繊維では、血糖値の急な上昇を抑える働きと、コレステロールの産生を減らす働きが特徴です。
水溶性食物繊維は,糖の消化吸収を緩慢にして血糖値の急な上昇を抑える糖尿病予防効果,胆汁酸の再吸収を抑えてコレステロールの産生を減らす脂質異常症の抑制効果が期待できる.また,水分を吸収してゲル化するため,胃腸粘膜の保護や空腹感の抑制効果がある.
なぜ、血糖値の急な上昇を抑えるのか、そして、なぜコレステロールを減らすのか、詳しく知りたいですね。
先ほど紹介した、食物繊維の栄養・生理機能に関する研究には、血糖値上昇抑制効果について書かれていました。
血糖値上昇抑制効果
引用するには長すぎるので、箇条書きにしておきます。いくつかの実験によって下のような結果がわかって来ました。
糖が胃の中で滞留する
文中「コンニャク」がでてくるので、「あれっ、コンニャクって水に溶けるの?」と思うかもしれませんが、コンニャクマンナンと、普段、おでんや鍋物に入れるコンニャクは別ものです。コンニャクはアルカリで固めているので、その後、水にもお湯にも溶けることはありません。一方、コンニャクマンナンは、水溶性食物繊維です。
- 水溶性食物繊維の粘度が大きいほど血糖値上昇抑制効果が高いことがわかった。
- 種類が違う水溶性食物繊維で実験しても、粘度が大きいほど血糖値上昇抑制効果が高く、同一種類の水溶性食物繊維でも粘度が大きいほど血糖値上昇抑制効果が高かった。
- ヒトに強い血糖値上昇抑制効果を示したコンニャクマンナンを使った実験では、コンニャクマンナンによってグルコースの胃内滞留時間が明らかに延長され、血糖値の急激な上昇は抑制されたが、吸収されたグルコース量は、コンニャクマンナンの影響を受けなかった。
- 分泌されたインスリン量は、コンニャクマンナンによって有意に抑制された。(少なくなった)
- 水溶性食物繊維の血糖値上昇抑制効果は、「グルコースの胃内滞留時間の延長」のためか、「小腸での吸収阻害」のためか胃切除ラットで確かめられたが、「グルコースの胃内滞留時間の延長」によることがわかった。
- 水溶性/不溶性食物繊維は、あらかじめ長期にわたって摂取していても血糖値上昇抑制効果には影響がなかった。
水溶性の食物繊維は海藻、たとえば、コンブのようなネバネバを思い出すとわかりやすいです。
ネバネバした水溶性食物繊維が胃の中で糖分と混ざり、ネバネバが強いほど、胃の中で滞留してなかなか小腸に出ていきません。胃から出ていっても、小腸から吸収されるときに糖分がネバネバにジャマされて吸収されにくいのです。
生りんごとりんごジュースでは血糖値の上がり方が違う
食物繊維―基礎と応用に、もっと、実感できる説明が書かれていました。
同一の食品として生のりんご,そのピューレ(裏ごししたもの)あるいはりんごジュースを摂取し,満腹感,血糖および血漿インスリン濃度を検討した成績が報告されている。その際に,炭水化物(糖質)としては,全ての場合に60gを摂取させている。
満腹感は生のりんごを食べた時に顕著であった。血糖に関しては,生りんごでは15分後にわずかに上昇し,60分後に前値に復した後,2時間はほぼ同じ値を維持した。
これに対して,りんごジュースではそれより早く血糖は上昇し,60~180分の間では空腹時より低値を示している。この現象は,以下に述べるインスリン分泌による血糖低下作用によるものである。
すなわち,血漿インスリン濃度は,リンゴジュースの摂取により,他の場合と比較して約2倍の上昇が認められ,その結果として2時間ないし3時間にわたり血糖の低下を惹起している。
この現象には,食物繊維が大いに関与していることが示唆される。
こういう説明をされると「なるほどなあ」と思えます。
そして、普段から食物繊維を十分に摂っていても血糖値が上昇しにくくなることはないことは覚えておきましょう。
もち麦で血糖値が上がりにくくなる
さらに、大麦食品を用いた機能性の検証を読むと、水溶性食物繊維、β-グルカンが豊富な大麦の中でも、よりβ-グルカンが多いもち性の(いわゆるもち麦)「キラリモチ」という品種を使った実験について書かれていました。
健常人18人を被験者として検証をした.検証期間は4日間で調査日1日目は自由食とし,CGMは1日目夕方挿入し,その日の夕食は21時までに摂取することとし,それ以降は糖質を含まない水分以外の摂取を中止した.
調査日2日目は白米と副菜,3日目は麦ご飯と副菜を摂取し,副食は調査日2日とも同じ内容・量とした.また,提供食以外の摂取を禁止した.ただし,糖質を含まない水分の摂取は自由とした.
文中CGMは血糖値を測定する機器のことです。3日目に食べる麦ご飯は、「キラリモチ」米粒麦50%入りの麦ご飯です。白米だけと麦ごはんでどのくらい差が出るのかを調べる実験です。
「キラリモチ」米粒麦50%入りの麦ご飯を主食とした場合,平均6%の血糖低下が見られた.(中略)
最小血糖値は6%上昇させていた.(中略)
このことから健常者4人での中間評価においては,「キラリモチ」米粒麦50%入りの麦ご飯は白米に比べて食後高血糖を抑制するとともに最低血糖値をさせ,日内血糖変動を低下させることがわかった.
麦ご飯を食べるのはわずか1日のことですが、きちんと差が出るものですね。
血中コレステロールの正常化
穀類に含まれる食物繊維の特徴について には次のように書かれていました。いくつかの論文を読むと大麦に含まれるβ-グルカンが出てきます。
特に大麦のβ-グルカンがよいみたい
β-グルカンは水溶性食物繊維の一つです。50%大麦を配合したご飯はかなり麦が多いですね。
著者らは,β-グルカンを高含有する大麦を用いて,血清総コレステロール濃度が高い日本人被験者を対象に介入試験を行った。50%大麦を配合したパック麦ご飯を主食として,一日に 2 パック,12 週間毎日摂取する試験を行った(β-グルカン 3.5 g/パック)。
その結果,血清総,LDL-コレステロール濃度が有意に低下した。これらの研究から,日本人の食生活においても大麦の摂取が血中コレステロール濃度低下に有効であることが確認された。
このように実験ではLDLコレステロールが下がることがわかっているのですが、なぜ下がるのか知りたいところです。
胆汁酸がコレステロールからつくられることと、胆汁酸が十二指腸に排泄されまた再吸収される仕組みについては、コレステロールは胆汁酸(塩)として排出されるがほとんど回収されるという記事に書きました。
胆汁酸は、水溶性です。腸内でミセルの形成を促進し、脂肪を細かく乳化して吸収しやすくするものです。消化酵素ではなく、もちろん、消化酵素も含まれていません。
胆汁酸は糞便と混ざりますが、そのうち98~99%は回腸で回収されて肝臓に戻ります。そして、1%程度は大便から体外に出ていきます。
ほとんど回収されるされるはずの胆汁酸ですが、β-グルカンなどの水溶性食物繊維によって少し回収されにくくなるということのようです。
ただ、なぜ水溶性食物繊維によってLDLコレステロールが下がるのかはっきりとした理由はわかっていないようです。食物繊維―基礎と応用には2010年頃の解説が書かれていました。ご興味があれば、そちらを読んでみて下さい。
NOTE
この記事を書きながら印象に残ったのは、りんごの話です。生のりんごを食べるのとりんごジュースを飲むのでは、こと血糖値を上げる/上げないでだいぶ違いがあります。
今は血糖値を急激に上げないようにした方がよいといわれる時代なので、とても参考になりました。野菜ジュースを作っても、絞ってジュースだけを飲んではいけないですね。繊維も取らにゃあ。