卵黄を濃縮させる方法

卵黄をビタミンやタンパク質など変質させずに濃縮させる方法です。塩を使って卵黄に含まれる水分を抜いていき、生乾きのからすみ、固ねりの羊羹くらいの硬さにまでします。

これは川島四郎先生が大戦中、栄養食と航空ビタミン食を作るときのベースになりました。

たまご

川島四郎先生の食糧発明物語―復刊・食糧研究余話を読みました。アマゾンではすごい値段がついていますので、読みたい方は、図書館で探してみてください。

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卵黄を濃縮して栄養食に使う

カラカラに乾からびた携帯口糧や乾燥野菜ばかり食べていたのでは当然としてビタミン欠乏症は発生する。

もちろんビスケットにも圧搾口糧の中にもビタミンを加える企てはやってみたが、酸化や変質が早くきて長く効果も持続しないし、効果の保持のみ重点を置いて作り上げるとまずくて口にはいらなかったり、連食すると何かしら身体に変調がきて害があったりする。

なかなかうまくいかない。

結局携帯口糧の中にビタミン類を直接加混することは無理だとわかったので、別個に添えることにして制定したのが『栄養食』であり『航空ビタミン食』であった。

携帯口糧なんて初めて見ました。漢字を見れば意味はだいたいわかりますね。

ウイキペディアによれば、軍事行動中に各兵員に配給される糧食、いわゆるレーションのことです。軽くて保存性がよいこと、栄養価が高いことが求められていたのでしょう。

乾燥させれば軽くなりますが、その一方でビタミンが不足しがちになる。それを何とか解決しようと考えられたのが濃縮卵黄でした。

これは卵黄の栄養分を摂るための食糧というよりも、ビタミンを長期保存するための材料として卵黄が使われているようです。栄養食として作ろうとしているのは、現代のビタミンサプリメントのようなものです。

卵黄の栄養成分

卵黄の栄養成分を調べてみました。水分は約50%あります。炭水化物はほとんどなく、たんぱく質に対して2倍の脂質が含まれています。

ビタミンA、ビタミンDはまあまあ多いです。

ビタミンAはレチノール活性当量を見ます。ビタミンAは過剰摂取に注意するという記事に1日の必要量その他書きました。

ビタミンDは、ビタミンDの過剰摂取はいけないが高摂取は望ましいとかという記事に1日の必要量など書きました。

ビタミンB1は、ビタミンB1は糖からエネルギーを作るのに関わるという記事に1日の必要量についてなど書きました。

ビタミンB2は、ビタミンB2は脂質代謝に重要という記事に1日の必要量についてなど書きました。

なお、ビタミンCは含まれていません。

これらのビタミンは、全て、特に卵黄に多く含まれているというわけではありませんでした。もちろん、濃縮すれば100g中ほぼ50gを占める水分が抜けていけば、成分が多少濃くなっていきます。

卵黄/生100gの栄養成分
日本食品標準成分表2015年版(七訂)
成分名 単位
水分 48.2 g
たんぱく質 16.5 g
脂質 33.5 g
炭水化物 0.1 g
レチノール活性当量 480 μg
ビタミンD 5.9 μg
ビタミンB1 0.21 mg
ビタミンB2 0.52 mg
ビタミンC 0 mg

ビタミンA,B1,B2,C,D等を補給する

卵黄は、『栄養食』の基材となり、これなしでは各種ビタミン補給はむずかしかったということのようです。

これはビタミンAB1B2CD等を含有するビタミン補給食で、しかもたばこの紙箱くらいの小さい小箱の中に詰めた食物で、右(引用者注:上記の)の各種のビタミン類を一挙に摂ろうとするのである。

これに着想してやっとでき上がるまでに半年を要し、五〇名を使って軍内でも珍しい大掛かりの実験演習(「実兵50人を以ってせる軍用糧食の栄養、人体実験の研究」東明社刊)をやったりして決定するまでに一年半はかかったが、これによって携帯口糧が栄養的に万全のものとなり、確かに日本の携帯口糧史に一紀元を画するものであった。

この『栄養食』の基材がこれから述べる濃縮卵黄であって、これあるゆえに製造上の長い懸案が急に解決したともいえるのである。

卵黄を濃縮すると、水分以外で脂質が一番多い成分になります。

卵黄膜が破れないようにして塩で卵黄から水分を引き出す

卵黄を濃縮させる方法の最大の特徴は、煮たり(茹でたり)焼いたりせず、卵黄が包まれた膜を利用して塩を使って中から水を引っ張り出すことです。

この方法がすごいなと思いました。

卵黄の水分を約50%から15~16%になるまで引き出します。ちなみに冬など乾燥していない季節、玄米の含有水分率は15%くらいになります。

玄米でも15%水分があるのかと考えると、水っぽい卵黄からかなり水分が抜けた状態だと感じられるでしょう。からすみの生乾き、固練りの羊羹と感触が紹介されています。

この濃縮卵黄は大阪栄養研究所の八崎治三郎氏と斎藤道雄氏の発明にかかるもので、その製造の要旨はこういう方法によるのである。

卵の殻を割ってソッと黄身を取り出す。手荒にすると卵黄膜が破れて黄身が流れてしまうから丁寧に取り出す。

薄箱に食塩を敷き、その食塩の上にこの黄身を膜を破らぬようにしてソッと載せる。

すると食塩の潮解性と浸透圧との関係で卵黄の水分(約五〇%ある)は膜を通して食塩の方に吸いとられ、ブヨブヨですぐにも破れてくづれる卵黄が、水分を次第にとられ、水分が一五ー一六%ぐらいになると昔の羊羹くらいの硬さになり、指でつまんで持ち上げることができ、ちょうど『からすみ』の生乾きのようになる。歯で噛み切っても固ねりの羊羹くらいの硬さの感じになる。

こうなった卵黄に各種のビタミン類を加混するのである。AとDは脂溶性で、卵黄の中に三六%前後も脂肪があってAとDはよく保溶する。

ことにレシチンが多く、このレシチンがAとDの酸化防止に極めて好条件となる。これを桐実大に丸めて糖衣を施すが、その下地にB1やB2を加えるし、糖衣の中にカルシウムも加えて全体のアルカリ度を手頃にする。

だいたいの製造はこういうのである。

塩で水分を抜いているとはいえ、煮たり焼いたりしていないので、生きている状態に近いです。そのため、脂溶性のビタミンAとDを卵黄に追加して溶かしても、当たり前ですが保存性がよくなります。

また、水分が抜けてからすみの生乾きや羊羹なみの硬さを持ちますから、整形しやすく加工も容易にできます。

濃厚食塩水と変性させない程度の加温

ここから先は、改良して特許にするための工夫です。

卵黄から水分を抜くので、塩は溶けていきます。ベタベタくっついて扱いにくい。それなら濃厚な食塩水を最初から使う方法もあります。さらに、たんぱく質を変性させない程度に加温して蒸発させると濃度が落ちないので、作業効率が落ちません。

卵黄の膜をこわさないように極めて自然のままで濃縮するのだから、元来保有しているビタミン類やその他の栄養分が生きている特長を持っていて、乾燥卵粉の加工とは栄養的に趣を異にするものである。

その後、私のとった特許はこれと同工異種であるが、次のような特許らしい面白い点がある。

それは前述のように固体の塩に水分を吸収させると塩がだんだん湿って溶けて仕事が面倒になるが、これを濃厚な食塩水に浸漬する方法も考えられる。

この方法は恩師の佐々木林治朗教授の特許になっている。この場合でも卵黄の水分が次々と食塩水に浸みていくのでだんだんに薄くなってゆき、能率が落ちる。私の特許はこれから先のことになる。

すなわち前記の濃厚食塩水を温めてその水分を蒸発させる考案である。

つまり卵黄から吸収した水分は濃厚食塩水を次第に薄くするから、それをゆるく温めて、卵黄から奪って吸いとった水分だけを徐々に蒸発させていつまでも食塩水を濃いままに保とうとするのである。

この温める温度が高いと卵黄は茹であがって茹卵になるから、蛋白も凝固せずまた含有有効成分も熱によって変化をしない程度の温度で温めて水分を蒸発させる。

これが私の特許に属するところである。

栄養食

ストライクアンドタクティカルマガジン増刊 日本の兵食史 2010年 01月号に濃縮した卵黄を使った栄養食と航空ビタミン食について書かれていました。こんな本があるんですね。図書館で、たまたま見つけました。

すごく面白いのですが、とても長いので、重要な部分以外は要約します。

過去に多くの犠牲を払った戦史を鑑み、ビタミンを兵士に不足なく供給することは絶対に必要なことであった。

また、この栄養食の開発に携わった川島四郎の東大農学部の恩師が、世界で初のビタミンであるアベリ酸(のちにオリザニンと改名したビタミンB1)を発見した鈴木梅太郎農学博士であったため、ビタミンの効能には強い関心をもっていたのだ。

脚気は、ビタミンB1(チアミン)の欠乏によって心不全と末梢神経障害をきたす疾患である。だが脚気以外にも生理作用を円滑に行うために必須な有機化合物が不足して発生する病気は多く、例えばビタミンCが不足して発症する壊血病(かいけつびょう)などもそうだ。

その後の研究により様々な疾病とビタミンの因果関係が判明すると同時に、人体に必要なビタミンを抽出することも可能となった。

そこでそれらのビタミンを一度に摂取できる総合ビタミン剤の元祖のようなものを、日本陸軍では世界に先駆けて作ろうとしていたのだ。

そこで、役に立ったのが濃縮卵黄です。これにビタミンをプラスしていけば総合ビタミン剤のようなものができます。

卵黄にはもともと脂溶性のビタミンAとDを保存してくれるレシチンが多かったのですが、さらに工夫が加えられます。

基材となる卵黄には「レシチン」がもともと多いのだが、さらに大豆の「レシチン」も添加してやる。するとこのレシチンがAとDの酸化防止に極めて好条件となるのだ。

そして上で説明してきたように他のビタミンやカルシウムも加え完成されます。これは米軍をかなり驚かせたようです。

実際米軍は日本軍が携帯していた野戦口糧とこの「特殊栄養食」を捕獲し、調べてみたところ、その内容と完成度に非常に驚いたのだ。

後に進駐してきた米軍の武官は、真っ先に川島四郎のもとにやってきて、三度も研究資料を貸してほしいと頼みに来たそうである(その時、川島四郎氏は米軍になど協力するものかと二度断ったが、人類のために必ず役立てると説得されて、三度目に貸したと懐述している)。

実際アメリカはその研究成果を有効に活用し、軍やNASA、果ては民間でも様々なビタミン錠や栄養補助食品を作り出して、それらは世界に広く浸透したのは誰もが知るところである。

原料と製造方法

原料と製造方法について書かれていました。

原料および材料

  1. 濃縮卵黄
    新鮮鶏卵から分離した卵黄を特殊加工法により脱水濃縮したもの。
  2. ビタミンA剤
    理化学研究所製の無臭にして1g・80000国際単位を下らないもの。
  3. ビタミンB剤
    理化学研究所製吸着式無臭のもので、1g・70国際単位を下らない物及び1g・25国際単位を下らない品質を保有し、食欲が減退するような異臭のない「脱脂胚芽末」とする。
  4. ビタミンC剤
    1g・25国際単位を下らない精製純良抹茶(またはホウレン草末)とし、砂糖などの雑物の混在を認めないもの。
  5. 純食用大豆「レシチン」。
  6. 純良天然「バター」。
  7. 優良13%加糖全粉乳。
  8. 食用優良脱脂蛋白。
  9. 水飴。
  10. 砂糖(明治製糖MX印)。
  11. 食塩(三等塩)

さらに配合割合の表も載せられていました。

製品約100kgに対する原料配合割合の標準は次の通り
濃縮卵黄 19.200kg
ビタミンA剤 0.360kg
ビタミンB1剤 吸着式 2.400kg
胚芽末 4.800kg
ビタミンC剤 抹茶またはホウレン草 4.800kg
バター 0.480kg
レシチン 0.960kg
全粉乳 6.240kg
脱脂蛋白粉 2.400kg
全卵粉 7.200kg
接着剤 2.800kg
水飴 2.640kg
香料 微量
アラビヤゴム 微量
糖衣 49.200kg
合計 103.560kg

製造方法

1.原料処理

(イ)濃縮卵黄

新鮮な鶏卵を厳選し、清水で卵殻上に付着した不純物を完全に除去したものを、割卵器により黄身と卵白を分離する。この際卵黄の膜が破損したものは使用しない。

続いて分離した完全卵黄を容器に入れ、上下両面を食塩に接触させ、食塩の浸透圧により薬品を使用することなく、かつ加熱することもなく、含有水分17~20%に脱水濃縮したものを適温湿度において一定時間静置し、卵黄中の酵素作用により蛋白質成分を消化しやすい形態にさせる。

(ロ)ビタミン類

濃縮卵黄は、擂潰機により充分混捏して卵黄組織を破壊し、該成分「ビタミンA」と完全に有機的結合可能な状態にさせ、そこに「バター」と「レシチン」とを融合させた「ビタミンA」を添加し、均等に混和させる。

続いて粉末状の「ビタミンB1」を添加し、さらに粉乳、蛋白粉、接着剤および水飴を加えて混和する。前記の処理を終えた混合物は製粒機により粒状に加工し、これを低温乾燥したものを錠剤機により成型する。

2.乾燥および下地作業

成型したものを直ちに低温を保ったまま卵白「アルビユーメン」の溶液および粉末を使い、錠剤外面に防水性皮膜をコーティングし、中の水分、油脂分が糖衣層に浸出しないように加工すると共に糖衣との密着度を完全なものにする。

3.ビタミンC添加作業

下地作業を終えた錠剤を低温で乾燥し、これを回転釜に移して粉末状の抹茶を錠剤に振りかけ外層に抹茶末薄層を積層する。

4.糖衣作業

抹茶層処理が終了したら、引き続き釜を回転させつつ、これに粉糖および「アラビヤゴム」液に砂糖を溶解した液を少量注加し、加熱乾燥させる。この作業を反復し、糖衣層が所要の厚みに積層されたところで乾燥室に送り、乾燥室内で所要の硬度に乾燥させる。

5.乾燥および艶出し作業

糖化作業を終えたものは低温にて乾燥を行い、艶出しをする。

全操作を通し、加熱は30℃を超えないことに注意する。

航空ビタミン食

次に航空ビタミン食です。

航空ビタミン食

古来鶏卵が優れた滋養栄養物として珍重されてきたが、これを栄養化学的に考えれば、その組成上含水炭素を除くほか、脂肪、蛋白質は共に優良な質を具有しており、殊に卵黄の含燐蛋白質であるビテリンには生体を構成するのに必要なアミノ酸が充分豊富に含まれ、また鶏卵が孵化の際に、雛のヘモグロビンに化成されるヘマトゲンは鉄および燐を含み、消化良好にして栄養価が極めて高いものである。

その他鶏卵黄には人体の脳神経構成機能の保持に必要なレシチン、ケフアリンなどの燐脂体、あるいはビタミンCを除く各種ビタミン類も豊富に含有している。

ただし卵は傷みやすいので、新鮮度の保持という点を考えると問題があり、またこれを携帯する際に、そのままの状態では不便困難である。

出来れば新鮮な鶏卵黄をその内容の性質に変化をきたすことなく、単に水分を脱水除去することが出来れば、その利用上最も望ましい。

当時これについては食塩による無加熱脱水法が考案され、特に濃厚な状態においてビタミン類を多量に含むものを作り出す事に成功しており、応用できるようになっていた。

ビタミン食はこの脱水卵黄を粒状にして、ビタミンCを供給する意味で緑茶およびホウレン草末による薄層を掛け、表皮にはカルシウムを加えた糖衣を施したものである。

生卵黄の水分は4%まで脱水し、特に貯蔵中におけるビタミン類の変質に対して、製造操作間の合理的処理により貯蔵性が良くなった。また糖衣のカルシウムにより全体がアルカリ性になるように調整してある。

航空ビタミン食は18粒48gを一日一人の定量としてあるが、ビタミン含有量は次に示すとおり極めて著大なものである。

  • ビタミンA  19500国際単位
  • ビタミンB1  350国際単位
  • ビタミンC  250国際単位

これによりビタミンA、B1、Cの成人一日の要求量は充分に補給され、航空勤務者に対して戦力増強、疲労回復を計るのに好適なものとなり、特に視力の増強にも有利である。

いまはビタミンは、mgもしくはμgで表示します。ウイキペディアで調べてみると、国際単位についてこのように書かれていました。

国際単位(こくさいたんい、IU)は、薬理学で用いられる、生体に対する効力でその量を表す単位。物質により効力が異なるので1IUの量も物質により異なる。

ビタミンAなどの脂溶性ビタミンに対して用いられる。

1IUは、

ビタミンA レチノール 0.300μg
ビタミンC L-アスコルビン酸 50μg
ビタミンD コレカルシフェロール 0.025μg
ビタミンE dl-α-トコフェロール酢酸エステル 1mg
d-α-トコフェロール 0.667mg

と定められている。(出典

それぞれ計算してみましょう。

  • ビタミンA  19500国際単位 19500×0.300=5850μg
  • ビタミンB1  350国際単位   これはmgへ換算する基準がわかりませんでした。
  • ビタミンC  250国際単位   250×50=12500μg=12.5mg

まとめ

卵黄を濃縮する方法、お菓子、特に和菓子に使えそうですね。ひょっとするともうとっくに使われていて、私が知らないだけなのかもしれません。濃くて生っぽい風味が残り美味しそうです。

ところで、浸透圧の差で卵黄から水分を引き出すには、砂糖を使ってもできます。

しかし、ここで塩を使っているのは、雑菌対策も兼ねているのかなと思いました。ほぼ全ての細胞は糖を代謝してエネルギーをつくります。人に有害な雑菌にとっても砂糖はエネルギー源です。

しかし、塩なら雑菌が増えることはありません。

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