袋飯はセロファンの袋に生米とごはんに必要な水を入れ、ぐらぐら沸いたお湯の中に入れてごはんを炊く方法です。もともとは陸軍の兵隊さんのために考えられた方法でした。よく考えられています。
川島四郎先生の食糧発明物語―復刊・食糧研究余話を読みました。読みたい方は、図書館で探してください。探して読む価値はあります。
1984年に復刊された本です。元本は戦後間もないころ出版されたそうです。
とても面白いごはんの炊き方が書かれていました。
今はレトルトの白ごはんがあり、レンジでもお湯の中でも数分でごはんが食べられます。しかし、少し高いので毎日食べるものでなく、たいていの家庭では非常用として保存していると思います。
川島先生の袋飯、そのアイディアの原形ではないかと思います。
自分で特に鍋を使ってごはんを炊いている人なら、膝を打って「なるほど!」と思うでしょう。
私は、若い頃、山小屋にアルバイトに行っていました。山小屋では宿泊するお客さんのために100~200人分のごはんを一度に炊きます。
標高が高いところでは、水は90℃くらいで沸騰してしまいます。普通に炊くと温度が低くてごはんに芯が残ってしまいます。そのため、大きな圧力鍋を使って炊いています。
しかし、この本に書かれている方法を使うと、時間は余分にかかるかもしれないですが、圧力鍋を使わなくてもうまく炊けそうだなと思います。
特に、小規模の山小屋で真夏以外のストーブを使う季節なら、その上に大鍋を置いてお湯を沸かしておけば、楽においしく便利にごはんが炊けるだろうなと思いました。
セロファンの袋の中に米と水を入れ沸かしたお湯の中に入れる
ごはんを炊くと聞くと、普通、鍋で人数分炊くと思います。
しかし、川島先生は、一人分の米を必要な分量の水と一緒にセロファンの袋に入れ、それを人数分、ぐらぐら沸いたお湯の中に入れて炊くことを考えました。
今までにたくさんの考案や工夫をやってみたが、ちょっとした思いつきで案外効果の大きいことになったものにセロファンの袋飯がある。
もともとは軍用にと思って考案したものだが、後には民間で広く活用された。
これはセロファンの袋の中に生の米と、それが飯になるのに必要な分量の水を入れて、ちょうど熱のあるときに用いられる氷嚢に米と水を入れたような工合に口をくくって、そのまま沸いている熱湯の中にほうり込むのである。
すると、セロファンの袋の中で水が熱せられて、米が煮えて軟らかくなる。そうしてフンワリとした、じつによい飯ができる。これが袋飯の原理である。
氷嚢でもできるが、これはそうたくさんないから、セロファンの袋なり、または筒型のセロファンの両端をしばって飯を炊くのである。
セロファンは熱湯に融けないから大丈夫。
セロファンって分かりますか
セロファンって最近、あまり見なくなりました。私が子供の頃はお菓子の包み紙代わりによく使われていました。
工作にも使った覚えがあります。そうそう、あまり使わなくなりましたが、セロファンテープもありました。
セロファンは、ウイキペディアによると、木材を粉砕して作るパルプや木綿、麻などの植物性繊維からも得られるセルロースを加工して作られる、透明な膜状の物質である、とありました。(出典)
セロファンを使う意味は、防水性があり、熱伝導性がよいことです。セロファン自体とても薄いですから、沸いたお湯に浸けられるとすぐに中身の温度が上がります。
焦げない、失敗しない、温め直すことができる
直火にかけるのでなく、ぐらぐら沸いたお湯に入れてごはんを炊くとたくさんのメリットがあります。本当に驚くほどです。
これには次にあげるような数々の特長がある。
その一つは絶対焦げつくことがないことである。何しろグラグラ沸いている湯の中を泳いでいるのだから、焦げつこうにも焦げられない。だから火加減はちっとも心配がいらない。
どんどん火の手をあげて湯がたぎっていればいい。燃料は強烈な熱の出る石炭でもよし薪でもよく藁でもいい。とにかく湯が沸いていればよく、火の手が強くても焦げる心配は絶対にない。
その二は生煮えということがない。もしも袋を湯の中からあげてみて生煮えであったら、もういっぺんほうり込んでおけばいいのである。
普通の釜で炊いた飯がもし生煮えの時には、これをよい出来栄えに直そうとしても容易なことではなく、上から水を少したして炊いてみてもなかなかしんに熱が通らず、強く炊けば焦げてしまうし、なんともいたし方のないものである。
しかるにこの袋飯は湯からあげてみて生煮えなら、何度でも湯の中にほうり込んでおけばいいのである。
第三は、冷えても凍っても、再び温め直すことが容易にできる。
できたのを持って歩く間に冷えてしまう。極寒だと長くほうっておくと凍ってしまう。この場合は、もういっぺん沸かした湯の中にほうり込んでおきさえすれば、適当に熱が回って、また元通り、軟かい、温かい飯になる。
ごはんをガス(直火)で炊いたことがある方なら、「すごいな」と思ったでしょう?
ごはんを炊くのに慣れるまで、生煮えだったり焦がしたり失敗するものです。焦がした場合より生煮えの方が、その後上手に仕上げるのがむずかしいです。
ところが、この方法は、常時100℃で加熱されていて、ごはんが炊けた後も温度は100℃のままです。焦げることがありません。
また、早めに取り出して生煮えならまた入れておけばよいのです。食べる人数が増えたら、その分を新たに入れればよいだけです。
冷えたものも温め直しは簡単です。これはレトルトごはんと同じです。
泥水を沸かしても使え容器いらずで腐りにくい
ここから先は、ほぼレトルトごはんの特徴と同じです。
第四には、袋の中身の水は清水たることを要するが、外部の沸かす水は泥水でも差し支えない。もともと味噌汁の中でこれを炊き、主食副食いっぺんに作るところがねらいであった。
第五は分配が非常に便利なことである。
弁当箱もいらない。風呂敷もいらない。新聞紙で包む必要もない。湯から引き上げたそのままで腰にぶらさげられる。
弁当箱に入れれば弁当箱の目方がかかる。そのうえ食ってしまえばそのからを持って歩かなければならないが、セロファンは軽い紙のようなものであるから目方はかからないし、後の始末も至極らくである。
第六には、腐る心配がはなはだ少ない。熱湯の中で炊きあげ、いわば熱気殺菌がしてあるわけであるから腐らない。
セロファンの筒は黴菌を通さないから、外側にいくらベタベタ腐敗菌を塗りつけても中には浸み込んでゆかない。
家庭で炊いた飯をおひつにうつしたり、しゃもじでかき回したりする間に、空気中や器具や容器についている細菌を入れまぜることになるから腐るので、炊きあげたそのままになっていれば、腐るおそれはずっと少ないのである。
第七には、これはいささか縁日の香具師の口上じみるが、寒さのおり、炊きたてのセロファン袋飯を懐中に入れておくと懐炉の代りになる。
これの実験のためにわざわざ樺太まで試験に行ったときのことだが、炊きたてのこのセロファン飯を懐中に入れておくと、腹は温かいし、そのうえいつ取り出してみても体温以下に下がっていない。
零下一六、七度の寒い樺太の雪の中でホカホカの飯がいつでも懐中から出して食べられるというところ、すばらしいものである。
こうした数々の特長があるので、あえて宣伝も何もしなかったが、非常な発展をして、あちこちで愛用された。
このアイディアがもともと陸軍の兵隊さんのためのものなので、泥水を沸かしてもセロファン袋の中身がきれいな水であればごはんが炊けるというのがすごいですね。
一人分ずつ分けられていると、食器も必要がありません。
まとめ
川島四郎先生の袋飯は、もちろんレトルトごはんのアイディアの原形だと思います。レトルトごはんは買ってくるものだと思っていると、何も発展しません。
違いは、生米を使っているところ。生米を使うなら、家庭でもキャンプでも非常時でも同じようにできるはずです。燃料もしくは熱源が必要になりますけれど。
そして家庭でやってみる場合、熱源を電子レンジに頼ると、これまた、電子レンジの説明書通りの生活になってしまいます。これはもったいない。
いまはセロファンや氷嚢(ひょうのう)に代わる容器がいろいろあります。ジップロックの袋は耐熱性能が弱いですが、ジップロックコンテナーのような容器タイプは、耐熱温度が140℃くらいなので、100℃なら平気です。
袋飯スタイルで、ぐらぐら沸かしたお湯の中で、何分くらいでおいしく食べられるようになるのか何回か経験してみると、屋外や非常時に応用が利く人になれると思います。
それにしても、よくこんなことを考えたられたと思います。