キノコは地中に菌糸を張り巡らし、土壌を柔らかくして植物が根を下ろしやすくします。また、毒物を分解し、汚染した土壌を浄化する働きもあります。貪欲にいろいろなものを食べてくれるのです。キノコって栽培しやすいのかなと思いました。
キノコの歴史 (「食」の図書館)を読みました。
キノコは従属栄養生物
菌類と聞くと、まず、乳酸菌などよく聞く細菌を思い出します。
しかし、乳酸菌は、菌類ではなく、細菌です。細胞核を持たず、ミトコンドリアもありません。
菌類とは真菌を指します。キノコは真菌類です。細胞核やミトコンドリアなどの細胞小器官を持ち、ヒトの細胞と近いです。
キノコは、じめじめした場所に、一気に、ニョキニョキ生える印象があります。そのため植物のように光合成して自分で栄養を作るのかなと思われますが、自分で栄養を作ることはできません。
キノコは子実体(しじったい)、胞子果(ほうしか)のこと
キノコは菌類に属する。パンやビールを醗酵させる酵母菌や、パンを腐敗させたり風呂を汚したりするカビも、同じく菌類の仲間だ。(中略)
菌類は葉緑体をもたない(中略)。したがって、キノコを含む菌類は光合成をおこなえない。別の言い方をすると、菌類は従属栄養生物であり、栄養素の供給を他の生物の作った有機物に依存している。
動物の食事パターンとは逆に、菌類は細胞の外に酵素(細胞外酵素)を分泌し、細胞外で養分を消化したのち、それを細胞表面から摂取する(そのため菌類には、共生体や枯れ木の分解者としての役割がある)。(中略)
専門用語では子実体(しじったい)または胞子果(ほうしか)と呼ばれるキノコは、胞子を作る。
キノコには導管がなく、子実体は菌糸体(きんしたい)から成長する(菌糸体とは、円筒状の細胞が糸状に連なった、菌糸と呼ばれる細胞列の集まり)。
菌糸体はふつう、腐った木の根を取り囲む落ち葉の下や、森の土のなかに形成される。
菌糸が栄養分を分解吸収し、それをエネルギー源としてキノコを発生させる。
貪欲な食欲をもつキノコ
これを読むと、キノコの菌糸が土の中の広大な範囲に張り巡らされていることと、種類にもよるでしょうが、キノコの貪欲なまでの食欲に驚かされます。
菌糸体が張り巡らされている
森や菌糸体に関する調査によって、キノコと森の関係はますます強化されることいなった。調査員のマイロン・スミス、ジェームズ・アンダーソン、ヨーハン・ブルーンが1992年ネイチャー誌に発表した論文によると、彼らはミシガン州で30エーカー(約12ヘクタール)をこえるナラタケの菌糸体(Armillaria bulbosa)を発見したという。
調べてみると、この菌糸体は1500~1万年前から成長し続けていることがわかった。この事例から、菌糸体がいかに広範囲に成長可能なのかをうかがい知ることができる。
かりに1平方インチ(約6.5平方センチ)の菌糸体に含まれる菌糸をまっすぐにつなげてみると、その長さは約12.8キロにもなるという。
このような巨大な菌糸体は、荒れた土地を生きた土に変える。ミシガン州のこのキノコは、要するに森の林床であり、雨が降ると無数のナラタケがそこから生まれる。
腐性菌であるナラタケは、虫に食い荒らされ、倒れ、枯れたり死につつある木々に寄生して育つのである。
いままで全く知りませんでした。土地に菌糸体が張り巡らされているなんて。土壌菌は、何となくバラバラにたくさん棲んでいるのかと思っていました。
ギヤボックスの油や重油も分解する
多くのキノコがもつ分解機能を考えると、さらに特筆すべき点は、キノコがもつ生物的環境浄化(バイオレメディエーション)である。
環境を浄化し、毒物を除去し、汚染した物質を食べられるものに変えることが期待できるのである。(中略)
キノコ類が持つ回復機能は、将来に希望をもたらしてくれる。キノコは環境汚染物質を分解する力を秘めているからである。
食べられる”白色腐朽菌”(たとえばヒラタケ)は、車のギアボックスのオイルのような基質の上でも育つことができる。
このタイプのキノコは、オイル中の水素炭素結合を切断するのに役立つ。2007年、貨物船Cosco Busan号がサンフランシスコ湾に5万8000ガロンのバンカー重油をばらまく事故があった。
ニュースによると「スタメッツ氏が提供したヒラタケの菌糸体が、ゴールデンゲート州立公園に新設された施設で回収された重油を処理するのに役だった」という。
ギアボックスのオイルや重油まで分解して、自分の栄養にすることができるというのがすごいですね。
ためしに「ヒラタケ+バイオレメディエーション」で検索してみると、東京農業大学の教員によるミニ講義が出てきました。
ダイオキシンや農薬を分解
このページもかなり面白くて、江口文陽先生の講義(30分)が見られる動画へのリンクもついています。
土壌回復のためにシダ類と菌類を空中散布するなんて方法があるのです。
1990年の雲仙・普賢岳の噴火後には、火砕流跡地の土壌回復を促すために、一般的なシダ類といっしょに菌根菌のコツブタケも空中散布されました。またきのこが地中に菌糸を伸ばすことで土壌は軟らかくなります。
軟らかくなった土壌は雨水をろ過し、木々は根を深く伸ばすことができ、山崩れを防いでくれます。(中略)
シイタケやマイタケ、ヒラタケなどはダイオキシンや農薬を分解するため、汚染された環境を元に戻す「バイオレメディエーション」に利用されています。
ヒラタケばかりでなく、シイタケやマイタケも、ダイオキシンや農薬を分解するとは。分解するということは、エサにできるということです。
キノコはセルロース、リグニンを分解する
さらに、秋田県立大学のちょっといい科学の話キノコは森の掃除屋(リンク切れ)を読ませていただくと、キノコの基本的な性質が簡単に紹介されていました。
キノコはその名の示すように、木に生えるのが特徴で、倒伏した幹や落枝あるいは落葉など植物遺体を分解して二酸化炭素と水にかえる。
キノコはこの作用によって森林をきれいにしている。キノコが栄養源としているのは木の成分であるセルロースである。
セルロースは紙やパルプの製造の原料として使われている。また、マイタケ、シイタケ、ヒラタケなどは木材の他の成分であるリグニンも分解する。
リグニンはポリフェノールの一種であり、複雑な化学的構造を持っている。このリグニン分解能をもつキノコはダイオキシン、PCBその他の毒性の高い化合物も分解することができる。
この能力を利用して有毒の化合物で汚染された環境を修復すること(バイオレメディエーション)ができるかも知れない。
セルロースは、すごく単純化していうと、ブドウ糖が直線的につながったもの。植物細胞の細胞壁および植物繊維の主成分だと説明されています。
リグニンは有機化学のシンボル、ベンゼン環がたくさん出てくる巨大分子です。リグニンの方が大きく、複雑です。リグニンは木材中の20%~30%を占めると書かれていました。
貪欲なほどの食欲を持ち、ダイオキシンや農薬まで分解してしまうなら、これらのキノコは環境に対してかなり適応力があり、栽培しやすいのかなと思いました。
キノコの一般的な栽培方法
そこで、一般的な栽培方法を調べてみました。
岡山県農林水産部による「うすひらたけ栽培の手引き」が見つかりました。この品種は、菌を植えてから収穫までが27日かかりますが、これは短い栽培期間のようです。
一番簡単そうなビン栽培についてご紹介します。
1. 培地の調整
配合(体積比) スギのオガコ 8割 80L 米ぬか 2割 20L 水道水 水分 60%
- オガコ
スギのオガコは1年間野外で堆積・加水・切り返ししたものを用いる。- 栄養添加物
米ぬか、トウモロコシ粉など。(米ぬかの代わりに新鮮なふすまでも支障ない。)- 攪拌
オガコ、栄養添加物、水分を調合して均一になるよう攪拌する。
含水率は手で培地を握りしめて水がにじむ程度。(約60%)- ビン詰め
PP(ポリプロピレン製)ビン:850cc
540~550g/ビン程度詰める。
※中心に接種用の穴をあける。- 培地の殺菌
殺菌釜に培地を入れ、高圧殺菌法により、培地内温度を121度で約40分殺菌する。- 培地の冷却
殺菌の終了した培地が熱いうちに、冷却室に運ぶ。- 種菌の接種
無菌室内でオガコ種菌を一本当たり10ccずつ(15g程度)接種する。2. 培養・発生
- 培養
24~26℃の培養室で、うすひらたけの菌がビンにまん延するまで、約2週間から3週間培養し、菌糸体の増殖をはかる。菌糸が半分以上まん延したら、反転する。- 芽出し・育成・収穫
芽出しや育成条件等は次項の菌床ブロックと同じであるが、収穫は1回のみである。
培養する材料、スギコは(昔なら)製材所にもらいにいけば廃物なのでくれたでしょう。米ぬかも精米所でたくさん出ます。培養する材料はほとんどお金がかからないですね。
あとは、温湿度管理ができる、断熱材を使った倉庫のような建物が必要になると思います。
しいたけ栽培キットなんてあるんだ
私は数ヶ月ですが、山仕事をしたことがあり、その時に、ついでにしいたけの駒打ちの手伝いをしたことがあります。ナラの木に穴をあけてそこに種菌が入った駒を打ち込むのです。
しかし、今どき、八百屋さんに並んでいるキノコはたいてい、(多分、廃物の)オガクズで栽培されています。きのこ栽培を調べようと思ったら、すぐにしいたけ栽培キットがヒットしてきました。
シイタケ栽培キット 【もりのしいたけ農園】ベストセラー1位だそうです。レビューが130以上ついていました。1350円。
レビューを読むと、あっという間に50個くらい生えてくるとか。
NHK趣味の園芸、やさいの時間に手軽に自宅でキノコを育てるにはという記事がありました。
「菌床栽培」とは、オガクズに穀物の粉などを混ぜてブロック状にかためたものに、キノコの菌を植えつける栽培法です。
すでにキノコの菌が回った栽培キットからスタートすれば、浸水、保湿といった簡単な作業だけでキノコが収穫できます。
原木で育てた場合、収穫は翌年の秋以降ですが、菌床栽培は約1週間〜2か月間と短い期間で収穫が楽しめるのもうれしいところ。ただし、収穫は1〜3回で終了し、原木のように数年にわたっての栽培はできません。
なるほど。原木栽培は数年にわたって収穫できるんだ。菌床栽培は、栄養がすぐになくなってしまうのでしょう。
まとめ
キノコは菌類です。同じ菌でも乳酸菌など細菌とはちがいます。キノコは真核生物で、細胞核も細胞小器官も持ちます。もともとセルロースやリグニンを分解できますが、環境適応能力に優れ、毒物や農薬を分解できるものもいます。
そのため、汚染された環境を元に戻す「バイオレメディエーション」に利用されています。