生物が使うエネルギーATPは、主にブドウ糖から作られます。ヒトの場合、体内には40~50グラム程度しか存在せず、1日1500回くらいリサイクルされ、自分の体重くらいのATPを1日に使っています。そして、ATPが一番使われるのは、筋肉ではなく、細胞内外と細胞内小器官へのイオンの出入りです。70%くらい使われます。
生命を支えるATPエネルギーを読みました。
ATPとは
生物が使うエネルギーです。主に糖からミトコンドリアで作られます。アデノシン三リン酸のことです。下図に構造式を載せました。
筋肉の運動、脳の活動や神経の伝達を始め、生物がエネルギーを必要とするすべての時に使われます。
高エネルギー・リン酸結合
ATPがエネルギーとなるのは、高エネルギー・リン酸結合があるからです。
ATPではリン酸が3つ結合した構造をつくっています。
このうち2つ目と3つ目のリン酸基の間をつなぐリン酸結合が切断されると、ADPとリン酸になり、ATP1モル当たり7.3キロカロリーというエネルギーが放出されます。(エネルギー放出反応)
ATPの糖に結合した3つのリン酸基の間には反発があり、不安定な構造ですが、リン酸結合が切断されると、大きなエネルギーが放出され安定化するのです。
多量のエネルギーが放出されることから、この結合は「高エネルギー・リン酸結合」とよばれてきました。
ブドウ糖が燃焼するときに出す熱を小分けして保持する
ATPは主にブドウ糖(グルコース)を分解しながら、解糖系、TCA回路を経て電子伝達系でつくられます。
ATPのリン酸は高エネルギー・リン酸結合していてエネルギーを放出するのですが、もともとはブドウ糖に火をつけて燃焼させたときに発生するエネルギーを小分けにして保持しているということなのです。
何ともうまくできた体の仕組みです。
1モルのグルコース(180グラム)と酸素が直接反応した場合には、二酸化炭素と水になり686キロカロリーのエネルギーが熱(燃焼熱)として発生します。
1カロリーは「1グラムの水の温度を摂氏1度上げるのに必要な熱量」です。その68.6万倍という大きなエネルギーが一挙に発生したら、細胞の構造は破壊され、多くのタンパク質の立体構造が壊れ生物はとても生きられません。
こんな危機的な状況にならないように、生物は燃料であるグルコースを段階的に分解し、この過程でグルコースの化学エネルギーは小分けにされて、ATPに保持されます。
1モルのATPがADPに分解されるとき、7.3キロカロリーのエネルギーを出しますが、ブドウ糖を1モルを燃やすと一気に686キロカロリーの熱を出します。
7.3/686=約1/93になります。小分けに変換して安全に使う仕組みができています。
エネルギーの通貨
ATPはエネルギーの通貨と呼ばれますが、それは運動や体内での化学反応に必要とされるエネルギーを供給するからです。
ATPは生物がエネルギーを必要とするとき――たとえば、筋肉の運動、細胞内のオルガネラの移動、細胞内へのイオンや栄養物質の取り込み、ホルモンや酵素の分泌、脳の活動や神経の伝達など――に使われるようになり、エネルギーが必要な全ての過程に使われるといっても過言ではありません。
オルガネラとは、細胞内小器官のことです。
一番分かりやすいのは、運動です。走ったり、キーボードを叩いたり、声を出したり、呼吸をするにも筋肉を動かす必要があります。
何となくATPは運動に一番使われているのではないかと思っていましたが、実は、そうではありませんでした。
ATPが一番使われるのは細胞内外でのイオンの輸送
生物がつくるATPのほとんどは、すでに述べた筋肉やモータータンパク質をはたらかせるために、費やされているのでしょうか?
実はそうではないのです。ATPを最も多く消費している基本的なメカニズムは、膜を横切るイオン輸送です。
体内でつくられるATPの70パーセントにもおよぶ量が、イオンの細胞内への取り込み、細胞外への排出、オルガネラ内部への取り込みなどの輸送に使われています。
モータータンパク質とは、細胞内で細胞内小器官(オルガネラ)を移動させるために使われるタンパク質で、エネルギーはもちろんATPです。
しかし、ATPが一番使われるのは、細胞内外と細胞内小器官へのイオンの出入りとは考えてもみなかったことです。
ATPはリサイクルされる
ATPはADPに分解されますが、即座にまたATPに戻されます。
1日の必要量は約70キログラム
体内にあるATPの推定量は40~50gしかありませんが、1日の必要量は約70キログラムだそうですよ。
成人1人が1日に必要なATPの量は「65~70キログラム」といわれています。初めて聞くと、この数字に驚くでしょう。
しかしミスプリントではありません。自分の体重とほぼ同じ量のATPを1日に消費しているのです。
―とはいっても、体内にあるATPの推定量はいつの時点でもほぼ40~50グラムしかありません。
これは1分間で使い切ってしまう量で、1日に必要な量の1000分の1に過ぎません。
実は、ATP分子は細胞内でつくられると、1秒以内に消費(加水分解)され、アデノシン2リン酸(ADP)とリン酸になり、そのADPはすぐにATPにつくり直されるのです。
ATPはミトコンドリアで1日、1500回くらいリサイクルされているそうです。
まとめ
ブドウ糖からエネルギーを得るとき、燃やしてしまうように一気にエネルギーを取り出すと、細胞自体が持ちこたえられません。そのため、ATPに小分けして少しずつエネルギーを取り出し必要なところに送る仕組みができています。
ATPはどこでも使えるのでエネルギーの通貨とよばれています。
作られたATPが一番使われるのは、細胞内外と細胞内小器官へのイオンの出入りで、70%くらい使われます。
ATPは、体内に40~50グラム程度しかありませんが、1日1500回くらいリサイクルされ、体重70キロの人は、自分の体重くらいのATPを1日に使っています。