天然塩なら血圧を上げないとかミネラルが豊富というのは幻想かも

塩をとった方がよいのか減らした方がよいのか。塩と高血圧の関係について改めて調べてみました。また、昔からミネラル豊富な天然塩なら血圧が上がらないと聞いていたので、どのくらいミネラルが含まれているのか調べてみると、1日のミネラルの必要量にはまったく届かない量しか含まれていないことがわかりました。

塩

私は自転車が趣味なのですが、たまに長い距離を走ることがあります。あるときから、くたびれてくるとコンビニで味噌汁を買って飲むようになりました。甘いジュースを飲むよりずっと疲れがとれて元気になることが分かったからです。

特に寒い日には、塩分が入ったものを飲む方が体が温まるような気がします。熱いコーヒーよりもずっと効果的です。

塩は大事だなと時々思わされます。

しかし、年齢が上がってくると血圧にも注意する必要が出てきて、たまに医者にかかると減塩のことをいわれます。

しかし、塩気の足りない薄い味噌汁や、味つけの極端に薄いものを食べると味気なくてがっかりします。昔と違っていまはミネラルが入った天然塩が普通に買える時代なので、それほど気にしなくてよいのではないかとたまに思うことがあるのですが・・・。

塩をとるべきかとらざるべきか

川島四郎先生とサトウサンペイさんの食べ物さん、ありがとうにはこのように書かれていました。

食べ物さん,ありがとう
食べ物さん,ありがとうは、全部で3冊あります。その中の最初の本です。時々読み返すと、都度新しい発見があり、そこから調べものが始まります。手放せない本です。

サンペイ ところで水と並んで大事な塩分については、いろいろな情報がとびかっていて、何を信じてよいのかよく分かりません。先生はどのようにお考えですか。

先生 今、日本では、塩分が目の敵にされているようなところがありますね。塩分をとりすぎると、高血圧や心臓病によくないことは確かですが、これはあくまでもとりすぎの問題です。

そのことを、説明する方にも手落ちがあり、聞くほうにも早のみこみがあって、やたらと塩分の摂取をこわがっているところがあります。

サンペイ 減らせば減らすほどよい、という風潮がありますね。

先生 困ったことです。塩分は、細胞を正常に保つために欠かせません。細胞の膜の内部にはカリウム、膜の外側にはナトリウムが塩の形で含まれているのですが、両者のバランスが保たれているときはじめて、細胞は生き生きと機能することができます。

ですから、カリウムの摂取量に見合うだけの塩分をとらないと、細胞が正常な状態でいられなくなってしまうのです。

なんでもかんでも塩分のとり方を控えめにしようとすると、かえって健康に害をおよぼすことがあります。

日本人は欧米人に比べて、野菜をたくさん食べるので、カリウムの摂取量が多いことを忘れてはなりません。

先生が話されている、「細胞の膜の内部にはカリウム、膜の外側にはナトリウムが塩の形で含まれているのですが」というくだりは、ナトリウムポンプのことです。

ナトリウムポンプという機能は、細胞内からナトリウムを細胞外にくみ出し、カリウムを細胞内にとり入れる働きです。

サンペイ 健康に及ぼす害といいますと・・・・。

先生 軽い脱塩状態を起こして、だるさを訴えることは、案外多いのです。ハイキングや遠足のときでも、行きははつらつとして、はしゃぎ回っている子どもが、帰りにはぐったりして、話しかけてもろくすっぽ返事をしないことがよくあります。

遠足やハイキングのときに持っていくのは、チョコレートやキャラメルなど、甘いものばかりですから、塩分の摂取不足になり、軽い脱塩状態になっているのです。(中略)

サンペイ 人間は一日にどれぐらい塩分をとればよいのでしょうか?

先生 厚生省で決めている栄養所要量では、一〇グラム以下が好ましいとされています。激しいスポーツや労働をする人は、体の欲求に応じて、適量補うのがよいでしょう。

もちろん、腎臓病や高血圧、心臓病の人などは、医師の指示で減らさなければなりません。

サンペイ この記事に、欧米では一日の塩分摂取量の目標が三~五グラム以下になっている。なのに日本では一〇グラム以下なんていっている。まだまだとりすぎと書いていますが・・・・。

先生 日本人の食生活は、戦後だいぶ欧米化しましたが、まだ欧米人とまったく同じには考えられません。

第一に、日本人は欧米人に比べて、野菜をたくさん食べるのでカリウム摂取量が多い。これに見合うだけの塩分を補わなければなりません。

それから、欧米人は肉をたくさん食べます。肉には血が含まれているので、見えないところで、案外塩分をとっているものなのです。

サンペイ なるほど。欧米がこうだから、日本も、と見かけだけで云々するというのはおかしいですね。

この本が出版されたのは1986年でした。この当時は、塩を買いに行くと専売公社の食塩しか買えない時代です。

その後、専売公社の塩以外にも自由に買える時代が来ます。

塩化ナトリウム(塩)と天然塩(自然塩)の関係

専売公社の時代からある、ほぼ100%塩化ナトリウムの食塩と、にがりが混ざったいわゆる天然塩には、昔から都市伝説(?)のような話があります。

塩の専売は1997年まで

今、塩を買いに行くといろいろな種類の塩(天然塩)が買えます。しかし、昔は日本専売公社の塩しかありませんでした。純度が高くほとんど塩化ナトリウムのやつです。青い文字で「食塩」と書かれていました。

食卓塩、アジシオなんてのもありましたね。

いつから塩が自由に販売できるようになったのか調べてみました。旧・日本専売公社から日本たばこ産業になったのは、1985年(昭和60年)のこと。1988年からJTと呼ばれるようになりました。そして、塩専売制度が廃止されたのは1997年でした。(出典

20年前と思うとずいぶん前ですが、私にとっては、1997年とはかなり最近のことに思えます。その少し前でも、自然食品店で天然塩は買えましたが、種類は少なく、値段はなかなか高かった記憶があります。

天然塩(自然塩)は血圧を上げない?

なぜこんな話を調べたのかというと、血圧と塩の関係でよくこんな話を聞いていたのです。1990年代の初め頃だったかな。

  • 専売公社の塩は塩化ナトリウムなので使っていると血圧が上がるが、天然塩ならミネラルが入っているから血圧は上がらない。

しかし、それから20年後の今の時代、販売されているほとんどの塩が、にがり成分が調整されて入った天然塩です。うちでいま使っている塩は、市場でキロ130円くらい買ってくるオーストラリア産のにがり入りの塩です。

にがりとは主にマグネシウム、ナトリウム、カリウムからなり、製塩法によってはカルシウムが加わる場合があるようです。(出典

ところが、相変わらず血圧が上がるから塩分を控えるようにという指導は変わっていません。ということは、ミネラルが多少入っても関係がなかったということでしょうか。

塩と高血圧

塩の科学 (シリーズ・食品の科学)を読んで塩と高血圧の関係について調べてみました。

塩のとり過ぎで血圧が上がる場合

血液中のナトリウム濃度は腎臓の働きによりほぼ一定の142mEq/lに維持されている.しかし,腎臓のナトリウム排泄能が弱いと排泄能以上の塩を摂取した場合に血液中にナトリウム貯留(sodium retention)が起こり,ナトリウム濃度を一定にするために水分量が多くなり血液量が増えて心臓に対する負担が増加する.

その結果,血圧が上昇する.このような場合は高血圧症の原因が明確な腎性高血圧症であり,塩摂取量を控えれば血圧は下がる.

文中にでてくる数値については、この記事では意味がないので吟味しません。

ナトリウムが排泄しにくいと血液中に普段以上のナトリウムが存在するようになります。

それを薄めるために水分量が増えます。すると心臓が普段以上に頑張らねばならないので血圧が上がるという仕組みです。

エスキモーに高血圧症はない

私の書く記事にはたびたびエスキモーが登場しますが、(興味深いのです)塩についてもでてきました。

人間の生命を維持するために必要な最少量の塩は1日当たり1gといわれている.

エスキモーは食事や調理に塩を使わない無塩文化(no salt culture)を持つ民族といわれており,塩摂取量は食べ物に自然に含まれている塩に由来している.

この民族には高血圧症はなく,加齢に伴う血圧上昇もない.しかし,寿命は短く50歳以上のデータはない.塩の必要最少量はこのことに基づいている.

エスキモーは肉食で、基本的に生かゆでて食べます。食べ物と調理方法の違いか、もしくは、やはり塩をとらないことが血圧と関係があるのか・・・。分かりませんが、興味深いので書き残しておきます。

塩感受性と塩抵抗性がある

塩が高血圧症の原因になるのではないかという塩仮説は、1954年ダールの疫学調査によって立てられました。疫学調査は、地域をしぼって多人数について調べられます。1950年代の日本の東北地方で高血圧・脳卒中による死亡率が高かった時代のデータが含まれていました。

ところがその後、こんなことが分かりました。

ダールは自分が立てた塩仮説を証明するため,ラットに塩をたべさせて血圧を測定する実験を行った.その結果は思惑通りにならず,いくら塩を食べさせても血圧が上昇しない塩抵抗性(salt resistant)のラットがいることと,塩を食べさせると血圧上昇を示す塩感受性(salt sensitive)ラットがいることを発見した.

このことから高血圧の遺伝性が推定され,岡本らは高血圧ラットを交配させて塩摂取量に関係なく自然に高血圧になる自然発生症高血圧ラット(sponteneous highpertensive rat:SHR)を選抜したことから,高血圧の遺伝性が確定した.

さらに高血圧になった上で必ず脳卒中を起こす,脳卒中易発生自然発症高血圧ラットを選抜した.

これらのラットは塩負荷により症状の発症を促進させた.その後,川崎らは人間でも同じように塩感受性と塩抵抗性の現象があることを示した.

人間でも同じように塩感受性と塩抵抗性の現象があることが発表されたのは、1978年のことです。塩をとると血圧が上がる人と、塩をたくさんとっても血圧が上がらない人がいるということです。

その後多くの疫学調査が行われていますが、明確な結果はでていないようです。

つまり、塩をとりすぎると血圧が上がり、脳卒中を起こす人もいるが、一方では血圧が上がらない人もいるということです。その原因は、遺伝です。

天然塩(自然塩)からどのくらいミネラルが摂取できるか

天然塩からどのくらいミネラルが摂取できるのか、塩の科学には表が出ていました。本は2003年発行なので、摂取の目標となる数値や、実際に1日どれくらい摂取されているかの数値が今の基準とは変わっています。

それで、日本人の食事摂取基準(2015年版)から摂取基準となる、推定平均必要量、目安量、推奨量、目標量のいずれかより成人男女について数字の大きなものを載せました。また、1日摂取量は、平成27年国民健康・栄養調査結果の概要から20歳以上の平均値を載せてあります。

海水組成のままでつくった塩は、天然塩です。

比べてみてください。天然塩10gで間に合うミネラルは、ナトリウムとマグネシウムだけです。

天然塩がミネラル豊富というのは幻想だったかもしれません。もちろん、塩によってはミネラルを強化しているのがあるかもしれませんけれども。

塩からのミネラル摂取量
元素推定平均必要量
目安量
推奨量
目標量
(mg)
1日摂取量
(mg)
食塩10g中の量
1984年
(食塩)
海水100ml
中の量(mg)
海水組成のまま
でつくった塩
10gの量(mg)
カルシウム650~8005093mg40160
リン800~10009940.0020.008
カリウム2600~3000235613mg38152
ナトリウム60010,0003.98g1.05g3.93g
マグネシウム270~3702523mg135541
7~10.57.80.0017mg以下0.00050.002
亜鉛8~108.00.0012mg以下0.0010.004
0.7~1.01.160.0006mg以下0.00030.001
クロム0.010.0000050.00002
ヨード0.130.004mg以下0.0060.02
セレン0.025~0.0300.0000040.0002
マンガン3.5~4.00.00020.0008
モリブデン0.020~0.0300.000060.02

まとめ

塩をとると血圧が上がるか上がらないかは、遺伝が関係しているようです。上がる人もいるし関係がない人もいる。

しかし、日本人の食事摂取基準(2015年版)では、2010年版よりも塩の量を減らすように設定されています。高血圧の人が増えているのか、血管関係の病気になる人が増えているのだと思います。

自分が塩感受性かどうか知るためには、塩の科学にはこのように書かれていました。

家庭で塩調味料を一切使わないで1週間の食生活を送り,そのときの血圧値が最初のそれより10%以上低下しており,元の食生活に戻ったとき,血圧も元の値まで上昇すると,その人は塩感受性者であるといえる.

また、天然塩はミネラルが豊富で、血圧を上げないという話は、根拠があまりないようです。個人的に信じていたので少しガッカリしました。

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