ATP合成酵素は1分間に24000回転しながらATPをつくる

ATPは、水素イオン(H+)の濃度差とATP合成酵素があれば、人工的に作ることができます。ATP合成酵素は8種類22個のサブユニットからなり、高性能エンジンのように1分間に24000回転しながら、ATPを作ります。

ATP

生命を支えるATPエネルギーを読みました。この本は読むのに時間がかかりますが、とても面白いです。教科書では味わえないワクワクする感じがしますよ。

高校で生物を選択した人なら、ATPのことは何となく覚えていると思います。生物が使うエネルギーです。ATPはリサイクルされて使われるという記事で、だいたいのことを説明しました。

生物が使うエネルギーATPは、主にブドウ糖から作られます。ヒトの場合、体内には40~50グラム程度しか存在せず、1日1500回くらいリサイクルされ、自分の体重くらいのATPを1日に使っています。そして、ATPが一番使われるのは、筋肉ではなく、細胞内外と細胞内小器官へのイオンの出入りです。70%くらい使われます。
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ATPをつくる経路を覚えていますか?

ATPをつくる場所はミトコンドリアですが、どんなふうにできるんだっけ・・・・と考え始めると、どんどん記憶があやしくなってきます。

えーと、ブドウ糖が解糖系で分解されて、それがミトコンドリアのTCA回路でさらに分解されて、たしか電子伝達系でATPができるんだよなと思い出します。

私は電子伝達系の名前はなんとなく覚えていましたが、どんな働きをしてどのようにATPができるかなんてすっからかんに忘れていました。

教科書で習うと、ATPが作られるまで(うんざりして)覚えきれないほど長い道のりがあります。こんなに何段階もの反応経路を経てやっと作られるのかと思いました。

ところで、こんな話が本に書かれていましたが、どう思いますか?

人工的にATPを合成する

簡単な構造でATPを合成することができるというのです。(細胞)膜で仕切られた環境と、細菌由来のタンパク質、バクテリオロドプシンとウシのATP合成酵素と水素イオン(H+)があると、ADPをATPにすることができる実験です。

エフレイム・ラッカー(コーネル大学)は、好塩菌に由来するバクテリオロドプシンと、ウシに由来するミトコンドリアのATP合成酵素を入れた膜小胞を人工的につくりました。

光を当てると、バクテリオロドプシンが水素イオンを膜小胞の内側へ輸送し、これがウシのATP合成酵素の中を通って小胞の外へと流れて、小胞の外側でADPとリン酸からATPができたのです。

1970年代半ばの実験です。光を使う人工的なATP合成装置を細菌とウシのタンパク質からつくったといえます。

好塩菌(こうえんきん)は増殖するために特定のNaCl濃度が必要な細菌です。(出典)文中にあるように、バクテリオロドプシンは、光が当たると、外から水素イオン(H+)を小胞内に取り込む働きをします。

水素イオン(H+)の濃度差とATP合成酵素があればできる

すると、細胞膜に見たてた膜小胞の内部に、水素イオン(H+)―プロトンともいいますが―がたまって、膜の内部と外部で濃度差ができます。濃度差を解消しようと水素イオン(H+)がATP合成酵素を通過するときに、ADPとリン酸がATPに変換されるのです。

ATP人工

つまり、もっと簡単にまとめると、水素イオン(H+)とATP合成酵素があれば、ADPとリン酸がATPに変換されるのです。

このATP合成酵素が面白いのです。

ATP合成酵素はSFに出てきそうなくらい変わっている

ATP合成酵素の画を描き写しました。

ATP合成酵素は、細胞膜から外に出たF1(エフ・ワン)と細胞膜に入っているFo(エフ・オー)部分に分けられます。これらは全てタンパク質です。

8種類22個のサブユニットから構成される

さらに、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)、ε(イプシロン)とa、b、cと8種類のサブユニットによって構成されます。

α、β、γ、δ、εはF1を構成し、αとβは3個ずつあります。

また、a、b、cはFoを構成し、bは2個、cは10個あります。

サブユニットは、α3β3γδεab2c10という書き方をするようです。

ATP合成酵素

ATP合成酵素は、このように、すごく変わった形をしているのですが、なんと回転するらしいです。そういわれれば、回転しそうな形に見えます。

ATP合成酵素は回転してATPをつくる

最初に説明を読んで下の図を見てください。cサブユニットとγサブユニットが回転します。

まず、水素イオンが、濃度の高い方からcサブユニットとaサブユニットのつくる通り道を通過します。

これにともなって、cサブユニットのつくっている円筒とγサブユニットが一緒に回転します。

回転にともない、3つのβに内側から接するγがそれぞれのβの触媒部位の立体構造を次々と変化させ、ATPを合成していきます。

直接の反応する場所はβサブユニット

γサブユニットが回転しながらβサブユニットの立体構造を変化させ、3個の触媒部位を使ってADPとリン酸を反応させると、とんでもなく速度があがるのです。

βサブユニットには1つずつ触媒部位があります。ATP合成酵素の膜から突きだした頭の部分はα3β3γという構造ですから、3つのβの数に対応して合計で3ヶ所の触媒部位があります。

3つのβのアミノ酸配列は全く同じですから、これらの触媒部位を構成するアミノ酸も全く同じです。(中略)

1ヶ所の触媒部位だけを使う反応の速度は極めて遅いものですが、3ヶ所の触媒部位が反応に加わった速度はなんと100万倍以上になります。

3ヶ所の触媒反応でそれぞれ独立して反応するのでしたが、速度は1ヶ所の反応の3倍程度にしかならないはずです。(中略)

次に、ATPの結合を見ても、3つの触媒部位でそれぞれ異なります。最初の1ヶ所にATPが結合すると、2ヶ所目には結合しやすくなり、3ヶ所目にはさらに結合しやすくなります。

つまり、3ヶ所の触媒部位は独立しているのではなく、協力してATPを結合したり、高速な反応をしているのです。

描かれていた画はこちら。これを見ると動きが分かります。cとγが回転します。

ATP合成酵素

回転速度は24000rpm

ATP合成酵素が回転しているなら、どのくらいの回転数なんだろうと思いましたが、ちゃんと書いてありました。すごい回転数です。細胞の中にあるミトコンドリアでの話ですからね。

もしエンジンだったら、焼き付いてしまうのではないかと心配になります。

回転速度は1分間に換算すると、2万4000回転ほどになります。自動車のエンジンは加速時に約2500回転ほどですから、その十数倍にもなります。

サブユニットの回転はレーシングカーのエンジンに匹敵します。

生きものらしく「さぼり」ながら回る

毎分24000回転していると、どう考えても消耗してしまうのではないかと思います。しかし、そこはよくできていました。

ちゃんとさぼりながら回るようになっていて、パワー全開とはならないのです。

ATP合成酵素は一斉に回転を始めるのではなく、ATPを加えてから加水分解による回転を観察すると、すでに回っているもの、しばらく経ってから回り出すものなど各分子はバラバラでした。

しかも、多くの分子は1秒間ほど回転し、停止し再び回り出します。酵素分子は停止と回転を勝手にくり返し、速度も分子によってばらつきがありました。

全ての分子が一斉に反応しているのではなく、一部は休んでいる。なぜ、このようなメカニズムなのでしょうか。

それぞれの分子の柔軟な挙動は、同じ酵素を長い時間にわたって使っていくのに適しています。

たくさん酵素分子をもっていて、一部を休ませながら使うのは生物として合理的です。

生きものは、省エネでさぼりながら生きていくのが本質ではないかと思うことが時々あるのですが、この話もそれを裏付けてくれる一つになりそうです。

まとめ

ブドウ糖を燃やせば、一瞬で熱としてブドウ糖のエネルギーが取り出せます。

しかし、体の仕組みは複雑で、ブドウ糖は、解糖系→TCA回路(クエン酸回路)→電子伝達系と来て、やっとATPがたくさんできます。

ところが、実際にATPを作る仕組みはとても単純で、水素イオン(H+)の濃度差とATP合成酵素があれば、人工的に作ることができます。

しかも、ATP合成酵素は、まるで機械のようにサブユニットが回転してATPを作っているのです。

ヒトの細胞1個には数千のミトコンドリアが存在し、(出典)さらにミトコンドリア1個の中にいくつATP合成酵素があるのか知りませんが、まるで高速エンジンのように1分間に24000回転しながらATPを作っています。

われわれが怒ったり笑ったり泣いたりしている間にも、ミトコンドリアでは24時間365日休みなくATPを作っています。

からだってすごいなと思います。

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