この記事ではビタミンB5と呼ばれていたパントテン酸について、特徴と作用、欠乏するとどうなるか。過剰摂取の心配はあるか。パントテン酸が多い食品と1日の摂取量について調べてみました。
鳥のレバーにパントテン酸が多いのですよ。
パントテン酸の特徴
パントテン酸はビタミンB5ですが、パントテン酸と呼ばれます。ギリシア語で「どこにでもある」という意味で、食品に広く含まれています。
補酵素A、CoAの構成成分です。CoAは、糖、脂質、アミノ酸の代謝に深く関係しています。
CoAの一部である
パントテン酸が補酵素A(CoA)の一部を構成しているところを見ていただきましょう。
どうでしょう?下図の補酵素Aの垂直部分がパントテン酸からできています。構造式は覚える必要はありません。ただ、パントテン酸がCoAの一部になっているんだなと見てわかっていただければよいのです。
パントテン酸は、細胞中では補酵素A(コエンザイムA、CoA)、アシルCoA、アシルキャリアたんぱく質(ACP)、4́-ホスホパンテテインとして存在します。
ここでは一番重要なCoAだけを見ていただきました。残りは説明しません。みなCoAの場合と一緒で、パントテン酸がそれぞれの一部を構成しています。
これらは消化管でパントテン酸にまで消化されたのち、体内に取り込まれます。
パントテン酸の作用
TCA回路に入るアセチルCoAになる
糖代謝では、CoAとピルビン酸からアセチルCoAができ、これがTCA回路に入ります。
TCA回路は、中学校の理科や高校の生物でも習いました。ミトコンドリアの中で行われる反応の回路です。生きていくエネルギー、ATP(アデノシン三リン酸)をたくさんつくるのに欠かせない回路です。
その最初の反応に必要なのが、アセチルCoAという物質です。
CoAは運び屋
CoAとアセチルCoAを見比べてみましょう。下図の青い破線で囲まれた部分が違っています。CoAは見るのが嫌になるような構造式なのに、違いは、わずかな部分しかないです。
青い破線で囲まれた部分は、アセチル基というのですが、もともとはお酢(酢酸)です。
CH3COOHからのOHとCoAのSHのHが反応して水(H2O)になって外れたのです。
アセチルCoAはTCA回路に入りますが、実は、CoAは運び屋で、アセチル基を回路の中で渡すと、自分は一切反応を受けずに、また戻ってくるのです。
また、脂肪代謝では、脂肪酸がβ酸化によって炭素数2個ずつ短く切られ、またCoAが活躍してアセチルCoAができます。これがTCA回路に入ります。
β酸化については別なところで記事を書きました。脂肪はエネルギーになるためにβ酸化されアセチルCoAまで分解される
細胞の中で脂肪酸をつくるときにもアセチルCoAは関係します。
コレステロールなどをつくる
パントテン酸は、コレステロール、アセチルコリン、ステロイドホルモンの合成にも関わっています。
コレステロールの合成について以前、記事を書きました。ご興味があれば、コレステロールの生合成はアセチルCoAからスタートするをお読みください。
欠乏するとどうなる?
パントテン酸の欠乏について図解入門よくわかる栄養学の基本としくみに書かれていました。
パントテン酸は広く動物性食品に含まれているため、欠乏は非常にまれです。欠乏すると、エネルギー代謝と脂質合成がに障害が起こります。
症状には、足の異常感覚、うつ状態、疲労感、不眠などがあります。
パントテン酸が欠乏すると、補酵素A(CoA)が作られなくなり、アセチルCoAが足りなくなるので、つまり、TCA回路の手前で反応が進みにくくなります。
TCA回路は、酸素呼吸をする生物にとって生きるエネルギーをつくるために必要なものなので、ごく単純に考えてもエネルギーが不足します。
また、体内で脂肪酸を作る時は、アセチルCoAが炭素を2個ずつつなげて脂肪酸の鎖をつくっていくのですが、それもできなくなります。
過剰摂取するとどうなる?
日本人の食事摂取基準(2015年版)によれば、このように書かれていました。
通常の食品で可食部 100 g 当たりのパンテトン酸含量が 5 mg を超える食品は、肝臓を除き存在しない。
通常の食品を摂取している人で、過剰摂取による健康障害が発現したという報告は見当たらない。
パントテン酸が多い食品
肝臓や心臓、腎臓など、酵母、卵などに多く含まれています。きっとビール酵母にもたくさん入っていると思いますよ。
食品名 | 成分量 100gあたりmg |
にわとり/肝臓/生 | 10.10 |
乾しいたけ | 7.93 |
ぶた/肝臓/生 | 7.19 |
うし/肝臓/生 | 6.40 |
パン酵母乾燥 | 5.73 |
米ぬか | 4.43 |
にわとり/心臓/生 | 4.41 |
ぶた/じん臓/生 | 4.36 |
鶏卵/卵黄/生 | 4.33 |
挽きわり納豆 | 4.28 |
玉露/茶 | 4.10 |
うし/じん臓/生 | 4.08 |
抹茶 | 3.70 |
たらこ/生 | 3.68 |
まいたけ/乾 | 3.67 |
とうがらし/果実乾 | 3.61 |
糸引き納豆 | 3.60 |
せん茶/茶 | 3.10 |
にわとり/ささ身/生 | 3.08 |
うなぎ/きも生 | 2.95 |
腸内細菌もパントテン酸をつくる
腸内細菌によってもパントテン酸はつくられます。ネットを念入りに探して、大麦混食が農村婦人へのビタミンB6およびパンテトン酸供給に及ぼす影響という論文を見つけました。
この論文では、主婦たちが白米を摂取しているときと、2割大麦を混ぜて3週間食べた場合について、暗調応および尿中VB6分解物、パントテン酸などを測定した結果が書かれていました。
麦飯食べるとよいかも
暗調応は、暗所で微光を認める能力のことです。
大麦については以前、麦飯は食物繊維の量が玄米よりあるんじゃないかという記事を書きました。比較の表を載せてありますが、白米に比べると食物繊維がとても(すんごく)多いのです。
食物繊維は、腸内細菌のエサになります。その結果、大麦混食をすると白米食のときに比べ暗調応が改善され、尿中 ビタミンB6分解物の排泄は、白米を大麦におきかえたため ビタミンB6 の摂取量は減ったのに、かえって増えました。
尿中に分解物が増えたのは、体の中にそれだけ存在する、つまり、腸内細菌がビタミンB6をつくったということです。
また、パントテン酸についても、白米と比べると大麦はパントテン酸の含有量が少なかったのに、尿中に出てくるパントテン酸は白米に大麦を混ぜた方が増えていました。
こちらも尿中に増えるのは体内でそれだけ作られているということです。
1日の摂取量
目安量のみ定められていました。成人男性は、1日5mg。成人女性は、1日4~5mgです。
目安量とは、推定平均必要量・推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に、ある性・年齢階級に属する人々が、良好な栄養状態を維持するのに十分な量である、と説明されています。
上限量も定められていないので、欠乏や過剰について正確なデータが集まっていないのかもしれません。
性 別 | 男 性 | 女 性 |
年齢等 | 目安量 | 目安量 |
0~ 5(月) | 4 | 4 |
6~11(月) | 3 | 3 |
1~ 2(歳) | 3 | 3 |
3~ 5(歳) | 4 | 4 |
6~ 7(歳) | 5 | 5 |
8~ 9(歳) | 5 | 5 |
10~11(歳) | 6 | 6 |
12~14(歳) | 7 | 6 |
15~17(歳) | 7 | 5 |
18~29(歳) | 5 | 4 |
30~49(歳) | 5 | 4 |
50~69(歳) | 5 | 5 |
70 以上(歳) | 5 | 5 |
妊婦 | 5 | |
授乳婦 | 5 |
まとめ
パントテン酸がCoAの一部だなんて知りませんでした。調べてよかったなと思います。
解糖系からTCA回路、電子伝達系は細かく理解したいと思っています。
酸素呼吸をする細胞はまずCoAを持っているに決まっているので、パントテン酸が欠乏するのはよほど特別な場合だと思います。