オートファジーを知ると空腹を楽しめるようになる?

オートファジーは細胞内でタンパク質をアミノ酸に分解し、新しいタンパク質を合成する材料にしてくれます。脳(神経)細胞は一生ものですが、この仕組みが細胞内のゴミを取り常に新鮮な状態にしてくれます。全ての細胞で基底レベルのオートファジーが機能していますが、食べ過ぎているとこの仕組みがうまく働かなくなるかもしれません。

神経細胞

細胞が自分を食べる オートファジーの謎を読みました。

水島先生はとても面白く書かれていて、後半一部むつかしいところもありましたが、楽しめる本です。2011年の本なので、この続きが読みたいと思います。

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レクタングル大

ヒトは1日70gのタンパク質を食べ、200gのタンパク質を合成している

この本は、初めになかなか興味深い話から始まります。

ヒトは、1日食べた以上のタンパク質を合成しているのだそうです。

ヒトは食べて出して生きている存在ですから、食べたもので体を作っています。そうすると、食べる量と作る量がバランスしているのかと、普通、思います。

食べる量は、だいたい1日「体重1kgあたり約1g」食べているそうです。体重70kgの人はだいたい70g食べています。

では、1日体の中では、どのくらいタンパク質が合成されているのか?

食べたタンパク質を腸で分解・吸収して、それをもとに作るわけであるから、単純に一日七〇gとなるであろうか?答えは否である。

二〇〇g程度と見積もられている。しかし七〇gの食事由来のタンパク質から得られるアミノ酸をつなぎ直すだけでは、七〇gのタンパク質しか作ることができないはずである。

二〇〇gもの体のタンパク質の材料をいったいどのように調達しているのであろうか。

食べた以上のタンパク質を合成している。その材料はどこから持ってくるのでしょうか?

脳(神経)細胞は一生ものだが古くならないのかな

脳(神経)細胞は、一生ものなのだそうです。細胞の中のものは古くなって使えなくなったりしないのでしょうか?

普段、細胞が再生するところを見るのは、たとえば、ちょっと包丁で切ってしまい、その傷がなおるところくらいでしょうか。

それで、細胞は数日で再生するものだと何となく思っています。細胞は壊れても新しいのが数日経てばできるのだと。

細胞の寿命はそれぞれ違う

ところが、この本に載せられていた表を見て驚きました。脳(神経)細胞は一生ものなのです。つまり、基本、再生しない。

指につけてしまった傷と同じように考えてはいけないのです。

このことは、若い人にはあまりピンと来ないかもしれませんが、私のように50代後半になると、脳(神経)細胞を長持ちさせなければと切実に思います。記憶力の減退など日常的に感じるからです。

体を構成する細胞の寿命
白血球 3~5日
腸の上皮細胞 3~5日
血小板 10~14日
皮膚 1ヶ月
赤血球 4ヶ月
1年半
2~10年
脳(神経) ほぼ一生

同じ細胞で一生過ごす。私と同じ年齢の脳(神経)細胞は、どうやって生きているのだろう?と思いました。

細胞内の掃除

一生ものの脳(神経)細胞は、他の細胞と変わりません。材料は、普段私たちが食べる肉や魚と同じようなものからできています。

当然、古くなって行きます。脳(神経)細胞が仮に80年生き続けたとして、生まれてから死ぬまで同じ材料で維持できるわけがありません。

細胞を構成する材料は新しくしなければなりません。

私たちの細胞はまさしく「生(なま)もの」であって、使っているタンパク質や細胞小器官は徐々に悪くなってくる。(中略)

このようなものをそのままにしておけば、細胞の中はあっというまに使えないものだらけになってしまう。それでは、細胞としてまともに生きていくことができなくなる。

そのためにも、細胞内を常に新鮮な状態に保つべく、ゴミがでればそれを処理したり、あるいはゴミとなる前に取り替えたりする必要がある。

この問題は寿命の長い細胞でより深刻である。(中略)

神経細胞の寿命は大変長く、ほぼ一生のつきあいとなる。一生使い続けないといけない細胞では、常にゴミがたまらないように監視する必要がある。(中略)

細胞は見事にこれをやってのけているのである。

細胞内の掃除をするのは、リソソームという細胞小器官です。

リソソーム

リソソームは下の細胞の図にある紫色の円形のものです。

細胞

リソソームは何でも分解する

リソソームの内部には約七〇種類もの分解酵素があり、ここに運ばれてきたものはなんでも分解される。内部は酸性であり、細胞の種類によって異なるが、pHは通常4~5程度に保たれている。

ここで働く分解酵素の多くは、このような酸性環境でもっとも効率よく機能できるようになっている。

リソソームは、私たちの体でたとえると胃や腸に相当する。胃や腸がタンパク質、脂肪、炭水化物などなんでも消化するのと同様に、リソソームもこれらを分解できる。

しかし、細胞質にはタンパク質が最も豊富に存在するために、結果的にほとんどの分解対象はタンパク質ということになる。それに比べれば少量ではあるが、グリコーゲンのような炭水化物や、核酸(特にRNA)、脂肪もリソソームに運ばれてくるので、これらをもちゃんと分解できる能力を持っている。

細胞の中にある胃や腸にかわるリソソームは、もちろん、細胞内にむき出しになっているわけではありません。脂質二重膜で囲まれています。

リソソームは脂質二重膜で囲まれている

脂質二重膜は、比較的水に溶けやすい部分を外側に、水に溶けにくい部分を内側にして整然と並んでいます。

この二重膜は、油に溶けやすい脂質は通しやすいのですが、脂質以外はこの膜を簡単に通り抜けることはできません。そのため、リソソームにものを送り込む仕組みが必要になります。

リソソームでは、細胞外にあるものを取り込んで消化する働きがありますが、オートファジーでは関係がないのでふれません。

オートファジーは、細胞内のものをリソソームで分解する働きです。

マクロオートファジーの仕組み

実際にどんなふうに働くのか見てみましょう。下図は、本に出ていたマクロオートファジーの図を書き写したものです。

マクロオートファジー

オートファジーにはいくつか種類がありますが、通常、オートファジーといえば、マクロオートファジーのことを指すそうです。

これは細胞の中で起こることです。細胞の中に隔離膜ができて始まります。気をつけないと、それぞれが細胞に見えてしまいますが、細胞の中のことなので、お間違いなく。

細胞質の一部が隔離膜によって取り込まれ、オートファゴソームが形成される。

オートファゴソームには細胞質のタンパク質やミトコンドリアなどの小器官が取り込まれる。

オートファゴソームは、多種類の分解酵素を含んだリソソームと融合してオートリソソームとなる。

オートリソソームの中では、取り込んだ細胞質に由来する成分が分解される。アミノ酸などの分解産物は再びサイトゾルに戻って利用される。

オートリソソームの中で分解されたアミノ酸は、再び細胞の中にもどって新しいタンパク質の材料として使われます。

オートファジーは栄養飢餓のときに活性化される

オートファジーは栄養飢餓の時に活性化されます。オートファジーを起こせないと細胞が早く死んでしまいます。

このとき起こるオートファジーは、細胞が自分のタンパク質を分解してでも、そのときにひつようなアミノ酸を得るために大切だと考えられています。

心臓もオートファジーを起こす

1日食べないと、ずっと動きっぱなしの心臓もオートファジーを起こすというから驚いてしまいます。

肝臓はタンパク質の合成と分解が盛んな臓器であり、筋肉はタンパク質の貯蔵庫であるので、これらの臓器でオートファジーが盛んであるとしてもそれはむしろ当然と言える。

しかし、オートファジーはこれらに限らず、体中で起こっている。

たとえば、心臓は絶えず血液を送るという大事な仕事を任されているにもかかわらず、たった一日の絶食でオートファジーを起こす。

二日間の絶食でさらにエスカレートする。そんなに簡単に自分を分解してしまって大丈夫かと心配になるほどである。

また脾臓の外分泌細胞や腎臓などでも飢餓でオートファジーが活発化する。オートファジーはまさに全身の反応であった。

これを読んで、断食を思い出す方は多いのではないかと思います。食べないとタンパク質が分解されてアミノ酸になって新しくタンパク質が合成される。

断食にはそんな意味があったのかと私も思いました。大人になると日常的に空腹を感じる機会は、自分で意識して作らない限り、ほとんどありません。

私の場合、自転車が趣味なので、長い距離を食べないでゆっくり走ると本当の空腹を味わえます。定期的に長距離を走った方が体のためにいいなと思いました。

そして、私の減退した記憶力も・・・と思ったのですが。

栄養飢餓でも脳(神経)細胞はオートファジーがほとんど活性化されない

ところが、脳(神経)細胞は違っていました。生存するために一番重要な脳(神経)細胞は、最後まで守られる存在のようです。

そのなかで、飢餓だからといってオートファジーがほとんど活発化しない臓器があった。それは脳(神経細胞)である。

神経細胞は私たちが最も守らなければならない細胞である。いくら栄養がないからといって、神経細胞を食べていては本末転倒かもしれない。

その点では、飢餓のときに神経でオートファジーが過剰には起こらないことは合目的的であると言えよう。

脳(神経)細胞のオートファジー

しかし、脳(神経)細胞は一生ものであり、いつもオートファジーのような仕組みが働いていなければ、タンパク質は古くなり、ゴミが増えるに決まっています。

どうなっているんだろうと読み進めると、飢餓時のオートファジーより目立たない、低い程度のオートファジーが起きていることが分かりました。

基底レベルのオートファジー

目立たない、低いレベルのオートファジーは基底レベルのオートファジーと呼ばれています。

神経細胞ではあまりオートファジーは起こっていない。しかしそれは絶食時に特に活性化されないというだけであって、目立たない程度にはいつもオートファジーが起こっているのである。

これを「基底レベル」のオートファジーと呼んでいる。

これは神経細胞に限ったことではなく、すべての細胞でこの基底レベルのオートファジーは起こっていると考えられる。

しかし栄養状態の影響を受けにくい神経細胞では、基底レベルのオートファジーの重要性が相対的に高いというわけである。

飢餓状態で活性化されるオートファジーより、基底レベルのオートファジーは目立たない程度のものです。これが、どれほど重要か分かる話が書かれていました。

神経系の細胞でオートファジーができないように操作したマウスを使って行われた実験がありました。

神経細胞にゴミがたまると運動障害が起きる

読んでいくと何となく老化現象を思い出します。しかし、最後まで読むと、基底レベルのオートファジーがとても重要であると分かります。

神経系でオートファジーを欠損したマウスは正常に生まれて、その後もほぼ順調に育つ。

しかし、生後四週を過ぎる頃から徐々に運動機能に異常が出てくる。たとえば、歩き方が明らかにぎこちなくなる。(中略)

このような神経の機能異常がどうして起こっているかは、病理組織学的な解析から概ね察しが付いている。

脳や脊髄などの神経細胞の標本を作って、詳しい顕微鏡検査をすると、これらの細胞の中に多数の「凝集体」がたまっていることがわかった。

凝集体とは、普段は細胞内に溶けているタンパク質が変性してしまい、もはや溶けた状態を保てずに細胞の中で小さな固まりを作ってしまったものである。(中略)

つまり、オートファジーが起こらないと細胞内にゴミの固まりが蓄積してしまうということになる。

なんとこのような凝集体は、生まれたばかりのマウスの一部の神経細胞でも観察された。神経細胞が誕生してからまだわずか二週間であるにもかかわらず、その間のオートファジーをさぼるだけでゴミがたまってしまうのである。

ゴミがたまるだけではない。明らかに一部の神経細胞は変性して死んでしまう。

オートファジーと健康

空腹が健康によいことはよく知られています。オートファジーのことを知ると、空腹の時間を長くしたり、たまに断食をすると、脳(神経)細胞はともかくとして、他の臓器には確実によい影響がありそうです。

食べすぎは、細胞の中を見れば、過度の栄養が入って来ることになり、基底レベルのオートファジーが働いても追いつかないくらいゴミがたまる可能性はありそうです。

過度の食事がさまざまな悪い効果を及ぼすことはよく知られた事実であるが、オートファジーを不活性化することで新陳代謝を抑制していることもその一因である可能性もある。

少なくとも細胞レベルで見た場合、過剰な栄養は新鮮さを損なうと言えるであろう。

本当に飢餓に見舞われるとどうなるか

ヒトはどれだけ飢餓に耐えられるか?というタイトルのコラムがありました。

飢餓のオートファジーが働くのは最初の数日間だそうです。再びタンパク質の分解が始まるのは、脂肪の蓄えがなくなってからだそうです。これは相当時間がかかるでしょうね。

脂肪がなくなった後のタンパク質の分解は、死に直結していると書かれていました。

1日、2日の飢餓であればオートファジーが活性化されて、それに適応しようとするが、さらに続くとどうなるか。

普通の体重のヒトでも約2ヶ月は水だけで生きられるらしい。体重が100kgを超えるようなヒトであれば、7~8ヶ月は全く食べなくても健康を維持できるという報告がある。

その間オートファジーがずっと活性化状態にあるとは考えにくい。

事実、ヒトでの絶食開始後の経時変化をみると、タンパク質は最初の数日間で急速に分解されるが、その後あまり分解されなくなる。

タンパク質に関しては代謝をストップさせ、じっと飢餓を凌ぐ体制に入る。

この間、脂肪は分解され続け、主なエネルギー源となる。動物の冬眠も同じような状況になると考えられ、そこではオートファジーを含めたタンパク質の分解はあまり活躍する場面ではないのであろう。

絶食がさらに続いて脂肪の蓄えも尽きてしまうと、ふたたびタンパク質が急速に分解され始め、それはまさに死に直結する。

つまりオートファジーが重要なのはおそらく最初の数日間であろうと推測される。

その時期は、グリコーゲンや脂肪の利用によるエネルギー調達も問題なく行われているので、タンパク質分解の役割はおそらく単なるエネルギー調達というより、アミノ酸にしかできないこと、すなわち飢餓適応に必要なタンパク質を合成することにあるのであろう。

まとめ

全ての細胞で基底レベルのオートファジーが行われていて、いつも細胞内のゴミを掃除し、古くなったタンパク質を分解して再生されています。

飢餓時にはその働きが強くなり、飢餓時に必要なタンパク質が合成されます。飢餓時にオートファジーが活性化されることは、断食が健康に役立つことと関係があるでしょう。

普段、本当に空腹になるまで食事をしないとか、空腹の時間を長くすると体のためによいだろうと思います。

腹六分くらいが健康のためによいことはよく知られていますが、オートファジーはそれを説明してくれる一つの話になります。体ってすごいですね。

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