サトウキビはニューギニア原産。2500年前にインドで製糖が始まり、世界中に広がって行きました。砂糖はサトウキビを煮詰めて結晶を取り出し原料糖をつくります。そこから不純物を抜いて精製糖をつくります。てんさい糖は18世紀半ばにショ糖が分離され、18世紀末に製糖技術ができました。
砂糖の原産地はニューギニア
砂糖の歴史 (「食」の図書館)を読みました。このシリーズは翻訳本ですが、面白い本が多いです。アマゾンへのリンクは画像に貼っています。
砂糖は、ショ糖のことです。ショ糖はブドウ糖と果糖からできた二糖類です。ショ糖を漢字で書くと蔗糖です。
蔗糖はほとんどの植物に含まれるが、それを最も濃縮されたかたちで含んでいるのが、丈が高くて竹によく似た、イネ科のサトウキビ(学名 Saccharum)である。
サトウキビは南アジアか東南アジアが原産とされ、さまざまな種があり、亜種はさらにかなりの数に上る。
そのうち自然に繁殖するのはサッカラム・ロバスタム(学名 Saccharum robustum)とサッカラム・スポンタネウム(学名 Saccharum spontaneum)の2種のみで、どちらも含まれる砂糖の量は比較的少ない。
ロバスタム種はニューギニア原産で、そこから先住民が栽培品種化したクレオール種、サッカラム・オフィシナルム(学名 Saccharum officinarum)には、他の種よりも砂糖が多く含まれる。
この改良は大成功で、今からおよそ8000年前には、フィリピンやインドネシア、インド、東南アジア、中国にまで広まった。(中略)
人間は何千年ものあいだ、さまざまな種のサトウキビを栽培し、その甘い汁を採取してきたが、サトウキビ産業の中心となってきたのはオフィシナルム種であり、18世紀後半以降、他の種や亜種は品種改良用として使われるようになった。
甘味を強くする品種改良はできたのですが、まだわれわれが普段使っている砂糖になったわけではありません。
サトウキビの性質はこのように説明されていました。
人々は最初のうちは、切り取った茎を噛んだり吸ったりして、サトウキビの汁を飲んだ。しかし、サトウキビは一度切り取ってしまうと、短い時間でも保存したり蓄えたりすることが難しい。
切り取るとすぐに劣化し、茶色くドロドロになってしまうのだ。サトウキビから汁を搾り出すことはできるが、汁は空気に触れたとたんに醗酵しはじめる。
簡単にお酒がつくれそうですが、甘味を保存したいのです。
製糖はインドで始まった
サトウキビを栽培して製糖する。それはインドで最初に始まったようです。
歴史学者のほとんどは、約2500年前の東インドで始まったと考えている。そのおもな根拠となっているのは、インドの古い書物の多くでサトウキビとその甘い汁について言及されていることである。
紀元前400~200年の間に書かれたと推定される、パタンジャリによるサンスクリット文法の解説書『マハーバーシャに』には、ライスプディングやひき割り大麦、醗酵飲料――いずれもなんらかの種類の砂糖で甘味が加えられている――のレシピが記されている。
製糖はどのように行われていたのでしょう。
初期の砂糖は、石の車輪のついた圧搾機を家畜の力で動かし、サトウキビの茎を砕いたり、すりつぶしたりしてつくられた。この圧搾機は、当時、穀物の製粉につかわれていたものによく似ていた。
砕いて搾った汁は、煮詰めて凝縮させる。ここで残ったものが粗糖(そとう)で、甘味はあるものの、茶色い半固形で醗酵はしない。その後、不純物を濾過(ろか)して取り除く方法が考え出され、より白くて甘い結晶糖が出来上がった。
ここから先、普段わたしたちが使っている、上白糖、グラニュー糖、黒糖などと同じなのか違っていたのかこの本からはよく分かりませんでした。
しかし、そんなことは大して問題ではありません。製糖はどのように行われるのかを知った方がよいのです。
砂糖のつくりかた
それで、現在行われている一般的な製糖の説明を探しました。上野砂糖株式会社のお砂糖の製法がとても分かりやすかったので、引用させていただきます。
サトウキビからまず、原料糖つくられます。そして原料糖から精製糖がつくられます。精製糖が普段使っている上白糖やグラニュー糖です。
文中、甘蔗はサトウキビのことです。
原料糖の製造
原料糖の製造では、まず甘蔗の栽培地の近くにある製糖工場に搬入された甘蔗を小さく、切り砕いて、汁をしぼります。
この清浄汁を煮詰めて結晶をつくり、遠心分離機で蜜と結晶に振り分けます。取り出した結晶が「原料糖」です。
原料糖は、中間製品として製造されるので、そのままでは不純物も多く、衛生的ではないので精製が必要です。
煮詰めてできる結晶と蜜。結晶にショ糖がたくさん入っているようです。
精製糖の製造
精製糖の製造では、原料糖に蜜を混ぜ、加熱しながら攪拌し、結晶の表面に付着している不純物を蜜に溶かした後、遠心分離機で蜜と結晶に振り分けます。
さらに、この不純物を除いた液を活性炭や骨炭あるいはイオン交換樹脂などで、念入りに清浄すると糖液は無色透明になります。
この液を煮詰めて結晶を生じさせ、遠心分離機にかけ取り出したものがグラニュー糖や上白糖のような高品質の精製糖です。
残った蜜には、まだかなりのショ糖が残っているので、煮つめてさらに結晶を取り出す工程を繰り返し、三温糖を取り出します。そして、これ以上経済的に砂糖を取り出すことが困難になった蜜が最終糖蜜です。
なぜまた蜜を足すのかと思ったのですが、結晶に残っている不純物を溶かすためでした。
骨炭とは、文字通り骨の炭。ウイキペディアに説明がありました。
動物の骨を800℃以上の温度で蒸し焼きにして、完全に有機物を炭化させて作った多孔質の黒い粒状の炭である。(出典)
グラニュー糖と上白糖の違い
不純物を取り除いた結晶からつくられるのが、グラニュー糖や上白糖です。
グラニュー糖と上白糖の違いは、ショ糖の純度です。グラニュー糖はほとんどショ糖。上白糖は、ショ糖を主成分とし、水分と転化糖(ブドウ糖と果糖の混合物)をそれぞれ1%程度含んだものです。
上白糖の方が甘さを感じます。
三温糖は残り物
ついでなので、三温糖についても書き残しておきましょう。三温糖は茶色なので、精製していない砂糖なのかと思っていましたが、不純物が入った蜜を何度も加熱して、残っているショ糖を取り出したものです。
茶色は加熱してメイラード反応が起きたためについた色です。精製しても色がついてしまった砂糖だと理解しておきましょう。
メイラード反応は料理の本によく出てきますが、いまAGEs(終末糖化産物)がよくないといわれるようになりつつあるので、とりあえず選択肢から外しておきます。
AGEsについて、以前、AGE終末糖化産物を増やさないようにするという記事を書いています。よかったら読んでみてください。
砂糖の栄養成分
上白糖、グラニュー糖が一般的な砂糖ですが、ミネラルを気にして黒砂糖を使う方もいらっしゃいます。黒砂糖は調味料としては少々使いにくいですが、これら3つの砂糖について栄養成分を比較してみました。
まず、黒砂糖について、どのようなものなのか書いておきます。
サトウキビの茎の絞り汁を加熱し、水分を蒸発させて濃縮したものを冷やし固めて作る。
酸性を中和し、不純物を沈殿させやすくするために、絞り汁に石灰を混入するが、糖分の分離精製はしていない。(出典)
砂糖のつくり方ではサトウキビの搾り汁を煮詰めて結晶と蜜に分けると書いてありましたが、黒砂糖は煮て水分を蒸発させたら、冷やして固めたものです。単に水分を(ある程度)抜いたものだと考えればよいと思います。
表中のTrは「痕跡」です。
黒砂糖 | 上白糖 | グラニュー糖 | |
エネルギー | 356kcal | 384kcal | 387kcal |
水分 | 4.4g | 0.7g | Tr |
たんぱく質 | 1.7g | (0) | (0) |
脂質 | Tr | (0) | (0) |
炭水化物 | 90.3g | 99.3g | 100g |
灰分 | 3.6g | 0 | 0 |
ナトリウム | 27mg | 1mg | Tr |
カリウム | 1100mg | 2mg | Tr |
カルシウム | 240mg | 1mg | Tr |
マグネシウム | 31mg | Tr | 0 |
リン | 31mg | Tr | (0) |
鉄 | 4.7mg | Tr | Tr |
亜鉛 | 0.5mg | 0 | Tr |
銅 | 0.24mg | 0.01mg | 0 |
マンガン | 0.93 | 0 | 0 |
ヨウ素 | 15μg | 0 | 0 |
セレン | 4μg | 0 | 0 |
クロム | 13μg | 0 | 0 |
モリブデン | 9μg | 0 | 0 |
レチノール | (0) | (0) | (0) |
β-カロテン当量 | 13μg | (0) | (0) |
レチノール活性当量 | 1μg | (0) | (0) |
ビタミンD | (0) | (0) | (0) |
α-トコフェロール | (0) | (0) | (0) |
ビタミンK | (0) | (0) | (0) |
ビタミンB1 | 0.05mg | (0) | (0) |
ビタミンB2 | 0.07mg | (0) | (0) |
ナイアシン | 0.8mg | (0) | (0) |
ナイアシン当量 | 0.9mg | (0) | (0) |
ビタミンB6 | 0.72mg | (0) | (0) |
ビタミンB12 | (0) | (0) | (0) |
葉酸 | 10μg | (0) | (0) |
パントテン酸 | 1.39mg | (0) | (0) |
ビオチン | 33.8μg | 0.1μg | 0.1μg |
ビタミンC | (0) | (0) | (0) |
食物繊維総量 | (0) | (0) | (0) |
※日本食品標準成分表2015年版(七訂)から引用 |
黒砂糖はミネラルが多いがミネラル源として現実的でない
比較してみると、グラニュー糖は、ほぼショ糖純度100%。上白糖は、水分が少しあり、ごくわずかミネラルがあります。
一方、黒砂糖は精製せずに水分だけ抜いたので、100gあたりミネラルが結構あります。カリウムがとても多いですね。
しかし、それぞれみな砂糖です。黒砂糖を一度に100g食べる人はいないでしょう。数グラム摂ると考えれば、黒砂糖はミネラル源として有望ではありません。
てんさい糖ってどんなもの
ところで、砂糖にはもう一つ、てんさい(サトウダイコン)を原料とするものがあります。少し高いですが、どこのスーパーでも買えます。
サトウキビから作る砂糖とどのような違いがあるのでしょう?
砂糖の歴史 (「食」の図書館)には、このように紹介されていました。
テンサイ(学名 Beta vulgaris)は地中海沿岸原産で、その根や葉は新石器時代からヨーロッパや中東で広く使われてきた。ギリシア人やローマ人はテンサイを庭に植えて育て、医師はさまざまな病気の治療薬として処方した。(中略)
テンサイは丈夫な作物である。サトウキビと違って温帯気候や亜寒帯気候で育つ。耐寒性があり、干ばつや洪水にも耐える。
生育期間が比較的短いため、二期作が可能である。
てんさいの根は、調理した時に出る汁が、シュガーシロップのようだと書かれた本もあったようです。とても古い時代から一般的な作物だったようですが、ショ糖をとるようになるのは、ずいぶん後のことです。
ビートルートのもうひとつの重要な特性を発見したのは、プロイセンの化学者アンドレアス・S・マルクグラーフだった。
1747年、マルクグラーフはベルリン科学アカデミーで、ビートルートから少量の蔗糖を抽出したことを報告する論文を発表した。
このときは微量だったのですが、マルクグラーフの死後、弟子のフランツ・カール・アシャールがてんさいの実験を引き継ぎました。
アシャールは1799年にマルクグラーフの方法を完成させると、テンサイから結晶化させた砂糖数ポンドをプロイセン王のフリードリヒ・ヴィルヘルム3世に献上した。(中略)
テンサイについて多くのことを解明したアシャールは、今日では商業ベースでテンサイ糖を抽出した最初の人とされている。
てんさい糖の栄養成分
日本ではてんさい糖は北海道でつくられています。ホクレンのサイトにてんさい糖8つの理由というページがあり、そこに成分分析表がありました。
オリゴ糖が5g
特徴は、てんさい糖の炭水化物97.5gのうち、5gがオリゴ糖だということです。オリゴ糖は、ビフィズス菌などの腸内善玉菌を増やす効果があることがよく知られています。
100gあたりの栄養成分 | ||
栄養成分 | てんさい糖 | 上白糖 |
エネルギー | 382kcal | 384kcal |
タンパク質 | 0.5g | 0g |
脂質 | 0g | 0g |
炭水化物 | 97.5g | 99.2g |
ナトリウム | 32~78mg | 1mg |
カルシウム | 0~2mg | 1mg |
カリウム | 6~55mg | 2mg |
マグネシウム | 0~0.2mg | 0 |
リン | 0~6mg | 0 |
鉄 | 0~0.2mg | 0 |
亜鉛 | 0~0.1mg | 0 |
銅 | 0 | 0 |
マンガン | 0 | ― |
セレン ヨウ素 クロム モリブデン | 0 | ― |
オリゴ糖 ラフィノース ケストース | 5g | 0 |
※ てんさい糖8つの理由 |
ミネラルについては多少ありますが、表の数字は、100gあたりの数字なので効果的ではありません。
まとめ
サトウキビからつくる砂糖の歴史は古く、約2500年前の東インドで始まったといわれています。製糖技術ができて、世界中に広がりました。
サトウキビはもともとニューギニア原産で、暑い地域でなければ栽培できません。
18世紀の半ばのドイツで、古代から広く栽培されていたてんさいからショ糖が分離され、18世紀の終わりにある程度の量を製糖できる技術がつくられました。温帯気候や亜寒帯気候でも砂糖をつくることが可能になりました。
日本ではてんさい糖は北海道でつくられています。