ニシンの塩水漬けとシュールストレミング

ニシンは脂肪が多く、乾燥させて干物にしようとしても簡単に腐ってしまいました。そのため、塩漬けされるようになりました。スウェーデンでは日照に恵まれないので塩は貴重でした。

塩を節約するため、塩水に漬けて密閉する保存方法が考えられました。それは発酵して、強烈なにおいのするシュールストレミングができるきっかけになりました。

ニシン

ニシンの歴史 (「食」の図書館)を読みました。原書房の「食」の図書館シリーズはとても面白い本が多いです。

ニシンは乾燥させにくい

ニシンは脂肪が多い魚です。

ニシンは乾燥に向かない魚だ脂肪が多いので外気で乾燥させる程度では、内臓を抜いてもすぐに腐敗臭を放ち始める。

魚は腐りやすいものですが、特に脂肪が多いとすぐにおかしなにおいがしてきます。

塩漬けにする

そのため保存するには塩漬けされる必要がありました。

塩に漬けると浸透圧によりニシンの水分は外に引き出されて脱水される。十分な塩をくわえることでニシンは乾燥し、腐敗の原因である細菌の活動を抑えられるのである。

腐敗しないレベルまで脱水させるためには、一般に塩分濃度を20パーセントにする必要がある。内臓を抜いたニシンが100キロであれば、その保存には20キロの塩が必要になるということだ。

この通り、塩がかなりの量必要になります。100キロで20キロの感覚が分からない方は、ニシン100gに塩20gが必要だと考えてみてください。料理を少しでもする方なら、塩20gの多さがお分かりになると思います。

また、一度塩漬けにするとその後食べる時にも手間がかかります。塩辛くて食べられません。

塩で水分を抜いて乾燥させていることからわかるように、塩漬けニシンは固く、非常に噛み応えがあった。食べるときにはひと晩湯につけるかゆでて戻さなければならない。

どちらの場合も何度か水を替えるのだが、それでもとても塩辛く、固いことが多かった。

そのため、次に考え出されたのは、塩水漬けという方法でした。

塩水漬け

14世紀にはオランダ人漁師のウィレム・ブーケルスが、ニシンの内臓を抜いてから保存する、ハーリングカーケンという革新的な技術を編み出した。

ブーケルスはまず、獲ったばかりの新鮮なニシンを海上で開いて鰓(えら)と内臓を取り除いた。そしてニシンに塩をふりながら木樽に詰めていき、最後に高濃度の塩水で樽を満たしてフタを閉めた。(中略)

最初から塩水に漬けこむのでニシンを乾燥させる手間が不要になる。調理前の塩抜きも長時間水に浸したり湯で煮立てたりする必要がない。

そしてなにより、その場で加工することでほとんどニシンを傷ませずに保存できるようになったのだ。

いま、塩水に漬けておくなんてあたりまえにやる機会がありますから、画期的といわれてもイマイチな気がしないでもありません。

最初に塩を振りながら詰めていって最後に濃い塩水を入れるのは、身を空気(酸素)に触れさせないためです。

実際、他国からこの方法をブーケルスのオリジナルだと認めない主張があったようです。

ブーケルスがニシンの内臓を抜いて塩水に浸ける保存方法を編み出したことは記録に残っているし、彼はニシン業界に大変革をもたらした人物ともされているのだが、フランス、ノルウェー、アイスランドなどこれまでニシン漁を行ってきた国々は、このニシンの保存方法は自国で生み出されたものだと主張している。

フランスとイングランドの11世紀から12世紀の文書には、漁師たちがニシンの内臓を取り、それを塩分の濃い海水に漬けて保存したと書かれている。

しかし、この保存方法が、かの有名な、シュールストレミングを生み出しました。

シュールストレミング

シュールストレミングは、農大の小泉先生の本を読むと強烈にくさい物の代表としてよく出てきます。私は食べたことはもちろんないです。正直、食べたいと思いません。

つくり方

シュールストレミングをどのようにつくるのか書かれていました。

遅くとも16世紀には作られていたシュールストレミングは、まずバルトニシンの内臓と頭を取り、24時間ほど濃い塩水に漬けたのち、今度は薄い塩水に漬けて1か月ほどおく。

真夏に密閉した樽にニシンを貯蔵するのが昔ながらのやり方だが、現代では缶詰にするのが一般的だ。空気のない状態に置かれたニシンは醗酵をはじめ、そしてこの醗酵が、ニシンの保存処理の最終段階だ。

最初に濃い塩水に漬けるのは、浸透圧の差でニシンの身から水分を引っ張り出すためです。その後薄い塩水に漬けて1か月ほど置くのは、もちろんフタを締めてです。

缶詰は普通は加熱殺菌されるのですが、シュールストレミングはもちろんされないのですね。念のため、ウイキペディでも調べてみました。

19世紀に缶詰が実用化されて以降、缶の中で発酵を継続させる形式のシュールストレミングが出現してきた。缶詰は7月に製造され、9月に食べ頃となる。

通常、缶詰は保存食として製造されるため、内容物は滅菌される。

しかしシュールストレミングは、日本の漬け物のように発酵状態を保ったまま缶詰にされ、缶の中で発酵が進行する。

密封状態で発酵させるため、発生したガス(二酸化炭素など)圧によって丸く膨らむ。こうした状態の缶はスウェーデン各地のスーパーマーケットでよく見られる。

殺菌を行わないことから日本では缶詰の定義から外れ、JAS法などに基づき「缶詰」と標記できない。出典

缶詰にするには殺菌することが条件ではないかと思ったので調べたのです。なるほど、日本では缶詰として扱えないものです。

しかし、缶詰めにできるなら、ニシンの身に塩水を入れて加熱すれば、普通の缶詰になると思います。しかし、そうしないのは、シュールストレミングを好む人が結構いるのでしょう。

昔は日本でシュールストレミングなんて入手不可能だったと思いますが、ネット時代になると少ない需要に応える人が出てきます。

おすすめしないけれど買える

ためしに検索してみたらアマゾンで買えるみたいです。300gで¥5,940でした。とても高いし、開けたら大変なことになるだろうと思います。 あくまでもご参考まで。

とてつもなくクサイ

どのくらいクサいのか、この本にもかなり長く書かれていました。

スウェーデンのマーケットでシュールストレミングの缶詰を目にしたら、強烈に記憶に残ることだろう。醗酵によって生じたガスでフタ部分が膨張し、ボールのように丸くなっている。

缶を開ける瞬間もまた、忘れられない――そして忘れてしまいたい――記憶になるはずだ。醗酵したニシンが放つ酸っぱいにおいは腐った卵や腐敗しかけた肉のようで、さらに強烈はチーズ臭も混じっている。

においのあまりの強烈さに、シュールストレミングの缶は一部公共の場に持ち込むことが禁じられているほどだ。

航空会社は機内への持ち込みを禁じているが、これは、気圧が低下する高高度では缶がさらに膨張して爆発しかねず、乗客が負傷する危険があるためだとしている(当然、悪臭も放つ)。

気圧差は、普段は意識しませんが、登山をする方ならご存知でしょう。標高の高い山に行くと、お菓子の袋はパンパンに膨らんでいます。

飛行機も気圧調整するとはいえ、平地よりはだいぶ気圧が下がるので膨らんだ缶詰が爆発すると大変なことになります・・・。

食べ方

そんなくさい物をどのように食べるのでしょう。まずは、缶を開けた画像を探してきました。こんな風にニシンが入っていて、この液体からも強烈なにおいがするそうです。

シュールストレミング

シュールストレミングを上手に味わうためには、家の外で缶を開け、間違ってもキッチンににおいが残らないようにすることがポイントだ。

缶を開けたら液体を捨てよう。なかのニシンを冷たい流水で洗い、清潔なふきんでニシンの水気を取る。ニシンを皿に並べ、きざんんだ赤タマネギをニシン全体に散らす(タマネギのにおいが悪臭をいくらか隠し、風味をおだやかにしてくれる)。

しきたり通りにするのなら、少量のゆでたジャガイモと、薄くぱりっとしたパンのトゥンブレッドにバターを塗ったものと一緒に食べる。

シュールストレミングは、もともと強烈なにおいの食べものにしようと思って作ったわけではありません。塩漬けに次ぐ保存食だったのです。

塩漬けにすると、食べられるようにするための準備に手間が結構かかる話は書きました。しかし、塩水漬けを考えたのはそれだけが原因ではなかったようです。

塩が貴重だった

ウイキペディアにはこのように書かれていました。

中世ヨーロッパでは肉の代わりに塩漬けの魚(タラ、ニシン)が盛んに流通していたが、保存には塩が必要だった。北欧に位置するスウェーデンではニシンは豊富に獲れたが、製塩に必要な日射も薪も乏しく、塩は貴重品だった。

それゆえに用いられた樽で薄い塩水に漬ける保存方法は、固形の塩と層状に詰め込む塩蔵保存に比べ、腐敗は防げても発酵は止められなかった。

しかし、塩を節約して(通常では耐え難いほどの臭気を発する水準まで極度に発酵するが)ニシンを保存できることは、14世紀頃にはすでに広まり、17世紀には王軍の主要な糧食とされるに至った。(出典

海水があれば製塩できます。日差しがあれば、の話ですが。そうでなければ、海水を火にかけて蒸発させなければいけません。

南の太陽がさんさんと照る国なら簡単ですが、北欧のスウェーデンではそれが望めません。

実際、こんなことがあったようです。ニシンの歴史 (「食」の図書館)からです。

中世のドイツとスウェーデンでは、塩を基盤とした双方向の交易がはじまった。ドイツには塩が大量にあり、一方スカンジナビア半島にはニシンが大量にあった。

ドイツ商人はリューベックの南にあるリューネブルクの塩水泉から造った塩をスコーネの漁師に売り、その塩を使った塩漬けニシンを彼らから買った。

このシンプルな取り引きを、両者はうまくやっていた。

リューネブルクの地図です。

Google マップ

スコーネの地図です。

Google マップ

この関係から、スウェーデンでは、製塩できないわけではありませんが、貴重だったことがわかります。つまり、塩水に漬けて保存するのは、塩を節約するためでもあったのです。

「くさや」ができた話と似ている

以前、くさやは干し魚に使う塩を倹約することから生まれたとかという記事で、くさやがなぜ作られるようになったのか調べました。

くさやは干し魚に使う塩を倹約する工夫から生まれた
初めてくさやを焼いているにおいを嗅いだ時は、何かの間違いかと思いました。くさやは、干物を作る時に塩をケチるために、海水に浸けて乾かすことを繰り返して塩分を濃くする工夫をしたことから生まれました。くさや汁がくさいのは短鎖脂肪酸によるものです。

くさやも塩を節約するため、魚を同じ塩水に浸けては干すうちに、あのような強烈なにおいの干物ができるようになったのです。

どうやら塩分濃度が低いと、分解が進むので強烈なにおいのものができるようです。

まとめ

ニシンは脂肪が多く、乾燥させて干物にしようとしても簡単に腐ってしまいました。そのため、塩漬けされるようになりました。

しかし、塩漬けにすると食べるまでに準備に手間がかかること、使う塩の量がニシンに対して20%程度必要になりました。

スウェーデンでは日照に恵まれないので塩は貴重でした。塩を節約するため、塩水に漬けて密閉する保存方法が考えられました。しかし、それは発酵して、強烈なにおいのシュールストレミングができるきっかけになりました。

同じように塩を節約して強烈なにおいがする保存食に、「くさや」もあります。

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