セレンは欠乏を考えなくてよいミネラル

セレンは栄養成分表に出てきますが、ほとんど馴染みのないミネラルです。かつお節に一番多く含まれているのですが、一般に食べられる魚に多く含まれていて、日本人は欠乏のことを考えなくてよいミネラルでした。

セレン

日本人の食事摂取基準(2020年版)(2)微量ミネラルにはこのように書かれています。

セレンは、セレノシステイン残基を有するたんぱく質(セレノプロテイン)として生理機能を発現し、抗酸化システムや甲状腺ホルモン代謝において重要である。

ゲノム解析の結果、ヒトには25 種類のセレノプロテインの存在が明らかにされている。代表的なものに、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)、ヨードチロニン脱ヨウ素酵素、セレノプロテイン P、チオレドキシンレダクターゼなどがある。

わかりにくいことばが出てきますが、簡単にいうと、セレンはたんぱく質に含まれて存在しています。特に酵素に含まれています。つまりセレンが足りなくなるとその酵素が働かなくなるということです。

参考まで、文中に出てきた分からない用語を調べました。(飛ばしても結構です)

セレノシステインは、アミノ酸の一種です。同じくアミノ酸のシステインに似た構造を持っていますが、システインの硫黄 (S) がセレン (Se) に置き換わっています。

グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX):活性酸素の分解に関係する酵素です。(参照:活性酸素と抗酸化物質の化学

ヨードチロニン脱ヨウ素酵素:甲状腺ホルモンのヨウ素原子を外すことで甲状腺ホルモンを活性型に変換する酵素です。(参照:甲状腺ホルモンによる血管修復のメカニズムを解明

セレノプロテイン P:分子中にセレノシステインを含むタンパク質。血清に含まれる。(参照:セレノプロテインP

チオレドキシンレダクターゼ:酸化型チオレドキシンを還元する酵素。活性酸素の消去に役立つ。(参照:酸化ストレスと健康

1日の摂取量

推定平均必要量と耐容上限量が設定されているので、欠乏症と過剰摂取の問題があるようです。

セレンの食事摂取基準(µg/日)
性 別男 性女 性
年齢等推定平均
必要量
推奨量目安量耐容
上限量
推定平均
必要量
推奨量目安量耐容
上限量
0~5(月)1515
6~11(月)1515
1~2(歳)10101001010100
3~5(歳)10151001010100
6~7(歳)15151501515150
8~9(歳)15202001520200
10~11(歳)20252502025250
12~14(歳)25303502530300
15~17(歳)30354002025350
18~29(歳)25304502025350
30~49(歳)25304502025350
50~64(歳)25304502025350
65~74(歳)25304502025350
75以上(歳)25304002025350
妊婦(付加量)+5+5
授乳婦(付加量)+15+20

日本人は心配ないようです

欠乏と過剰摂取のことを書いたので、先に書いておきます。日本人の食事摂取基準(2020年版)には、日本人が普通の食事をしている限り、欠乏症も過剰摂取の心配がないと書かれていました。

セレン含有量の高い食品は魚介類であり、植物性食品と畜産物のセレン含有量は、それぞれ土壌と飼料中のセレン含有量に依存して変動する。日本人は魚介類の摂取が多く、かつセレン含量の高い北米産の小麦と家畜飼料に由来する小麦製品や畜肉類を消費しているため、成人のセレンの摂取量は平均で約 100 µg/日に達すると推定されている。

サプリメントなど飲む必要はないということです。

欠乏するとどうなるか

セレンが欠乏すると克山病になることが知られています。

漢字なので日本の病気かと思いましたが、「けしゃんびょう」「こくさんびょう」「こくざんびょう」と読み、中国の地方病です。(参照:克山病

克山病Keshan Disease歴史的,病因論的考察によると、このように書かれています。

1935年,中国東北部(旧満州)の克山県付近で悪心,嘔吐,胸部不快感などを主症状とする疾患が多発した。原因が不明であったため,地名にちなんで克山病と命名され,国際的にもKeshan Diseaseとして知られている。(中略)

克山病の原因がSe欠乏ではないかと考える引き金となったのは,臨床面から動物のSe欠乏症として知られる白筋症(white muscle disease)と症状が似ていることからである。克山病流行地区で生産された穀物,野菜などの食品中のSe含有量が低く,住民の頭髪及び血中のSe含有量も低いことが明らかにされた。

毛髪中Se濃度が0.2ppm以上の場合では発病せず,0.17ppm程度で発病が危惧され,0.12ppm以下では発病すること,同様に血中Se濃度は0.04ppm以上での発病はなく,0.032ppmで発病の危惧が生じ,0.025~0 .01ppm以下で発病する。

摂り過ぎるとどうなるか

摂りすぎると中毒症状が出ます。日本人の食事摂取基準(2020年版)からです。ちなみに上の表にある耐容上限量は、かなり余裕を持って(低めに)設定されていることがわかります。

慢性セレン中毒で最も高頻度の症状は、毛髪と爪の脆弱化・脱落である。その他の症状には、胃腸障害、皮疹、呼気にんにく臭、神経系異常がある。

誤飲や自殺目的でグラム単位のセレンを摂取した場合の急性中毒症状は、重症の胃腸障害、神経障害、呼吸不全症候群、心筋梗塞、腎不全などである。

セレンを多く含む食品

かつお節から始まるので、本当に一般的な食品のオンパレードです。魚を食べていると不足することなどないとわかります。

セレンが多い食品100gあたり
順位食品名成分量
1かつお節320µg
2からし/粉290µg
3ぶた/じん臓/生240µg
3かつお類/加工品/裸節240µg
5うし/じん臓/生210µg
6あんこう/きも生200µg
7とびうお/焼き干し140µg
7魚醤油/いしる(いしり)140µg
9すけとうだら/たらこ/生130µg
10しろさけ/サケ節/削り節120µg
10みなみまぐろ/脂身生120µg
10とびうお/煮干し120µg
13まがれい/生110µg
13さば類/開き干し110µg
13くろまぐろ/赤身生110µg
16かつお/秋獲り生100µg
17ずわいがに/生97µg
17まがれい/焼き97µg
19ひまわり/フライ味付け95µg
20くろまぐろ/養殖/赤身電子レンジ調理94µg
20くろまぐろ/養殖/赤身焼き94µg
22くろまぐろ/養殖/赤身蒸し91µg
23くろまぐろ/養殖/赤身ソテー90µg
24くろまぐろ/養殖/赤身天ぷら88µg
24くろまぐろ/養殖/赤身水煮88µg
26からし/粒入りマスタード87µg
27まつたけ/生82µg
28ぶた/スモークレバー81µg
29くろまぐろ/養殖/赤身生79µg
30まあじ/皮つき/焼き78µg
30塩さば78µg
32まがれい/水煮77µg
33めばち/赤身生75µg
33あまだい/生75µg
35めばち/脂身生74µg
35だし類/顆粒和風だし74µg
35まぐろ類/きはだ/生74µg
38みなみまぐろ/赤身生73µg
38しめさば73µg
40まぐろ類/びんなが/生71µg
41まさば/生70µg
41からし/練りマスタード70µg
43ぶた/肝臓/生67µg
44まさば/水煮66µg
45あじ類/にしまあじ/焼き65µg
46さくらえび/生64µg
46まあじ/皮つき/水煮64µg
48かんぱち/背側生63µg
48マカロニ・スパゲッティ/乾63µg
50かき/養殖水煮62µg
※日本食品標準成分表2015年版(七訂)

NOTE

セレンは本当に馴染みのないミネラルですが、普段の食生活では、ほぼ考えなくてよいことがわかりました。

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