点滴灌漑は露地栽培でも収穫量が増えるらしい

砂漠の国、イスラエル生まれの農業技術に点滴灌漑があります。これは、地面にチューブを這わして作物に水を点滴して与える技術です。雨がたくさん降る日本の露地栽培で使っても収穫量が増えるのだそうです。露地栽培って、普通に畑で野菜を作る栽培方法のことです。

灌漑

(※点滴灌漑で使える画像がなかったのでこの画像はスプリンクラーです)

日本を救う未来の農業 (ちくま新書)を読みました。

書かれたのは、拓殖大学国際学部の竹下正哲先生です。かなり変わった経歴をお持ちの方のようです。紹介記事を2つメモしておきましょう。

まず、拓殖大学国際学部の教員紹介から。

竹下 正哲 教授 | 教員紹介 | 国際学部 | 拓殖大学
拓殖大学国際学部の公式サイトです。国際学科の学科紹介をはじめ、6つのコース制、教員、学生生活、就職・キャリア、社会貢献・研究情報などがご覧になれます。専門分野を学べるコース制と豊富な留学制度を用意し、時代が求める国際人の育成に取り組んでいます。

そして、八王子のタウンニュースの記事です。

竹下 正哲(まさのり)さん | 拓殖大学教授で筑摩書房から新書「日本を救う未来の農業」を上梓した | 八王子 | タウンニュース
危機にこそ希望はある ○…出版のきっかけは「日本の農業は壊滅するかもしれない」という危機感だ。「オランダのトマトは同じ面積で日本の8倍採れます。当然価格も安くなる」。すで...

竹下正哲先生は、点滴灌漑を八王子の露地栽培で実験して、作物の収穫量が増えることを確かめました。

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点滴灌漑は砂漠の国イスラエルで生まれた

点滴灌漑(drip irrigation)は、砂漠の国イスラエル生まれの農業技術です。私がそれを知ったのは、2000年頃のこと。糸川英夫さんの本を読んでからです。

灌漑(かんがい)は、ウイキペディアによれば、「農地に外部から人工的に水を供給すること」と書かれています。ことばのイメージとしては、水路を引いたり規模の大きなもののように感じます。

水をポタポタと根に点滴する

しかし、点滴灌漑は、作物の間にチューブをはわせて水を流し、根に水をぽたぽた点滴して与える技術です。水が足りない国ならではの技術です。大きな水路をつくるわけではありません。

点滴灌漑がどのようなものなのか。これは見た方が早いです。

グーグルで画像検索した結果をdrip irrigationにリンクしておきます。

そして、砂漠の水は少し塩分が入るらしいのですが、根の周囲の土が乾かないように点滴し続けることで、塩が地表に浮いてくることを防げます。

さらに、薄い塩水を点滴することで、作物はその浸透圧に負けないように自分の体の中に糖やアミノ酸をたくさん作ります。それが味のよい高品質の作物ができる条件にもなっていました。

また、点滴チューブに水だけでなく肥料を溶かして作物に与えていました。こうすると、肥料にムダがなく最小限の量で間に合います。肥料のやり過ぎは病気の原因になるので、この方法なら病気が減ります。

点滴灌漑に興味を持って調べて行くにつれ、人間の知恵とはなんてすごいのだろうと感激したものです。

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日本ではハウス栽培以外関係ないだろうと思った

しかし、日本は雨が多い国です。点滴灌漑の技術はハウス栽培以外関係ないだろうと思っていました。たまに日照り続きで水不足になることはあっても、干ばつなんて考えられません。

わざわざ点滴チューブを揃えなくても、雨が降りさえすればよいのです。

実際、私が調べた頃、海外での点滴灌漑は、グラスハウスの中で温湿度とCO2濃度を管理されて行われている画像をよく見ました。

ただ、点滴灌漑の一つの魅力は、作物に少しずつ肥料を与えられることです。しかも、コンピュータ制御もできます。肥料を計画的に少しずつ与えると生育にどんな影響があるのか興味がありました。

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点滴灌漑で収量が増える

この本を読むと、露地栽培(ハウス栽培ではありません)で、点滴灌漑を使うと収穫量が増えたと書かれていました。ピーマンとトウモロコシの栽培実験が行われています。

ここから先は、本に倣い、点滴灌漑をドリップ灌漑に書き替えます。

実際、私は2015年から、「日本の露地において、ドリップ・ファーティゲイションを導入することで、本当に収量が上がるのか?」というテーマで産学連携の実験を繰り返している。

第4章で紹介しているが、これまでピーマン、トウモロコシで実験をしており、いずれもドリップ・ファーティゲイションにより収量が増加している。

ピーマンでは、従来の方法より最高で130%収量が増加し、トウモロコシでは260%増加した。とくにトウモロコシ(スイートコーン)では、1株から5本のトウモロコシを収穫することを目標にして頑張っており、すでに「1株4本取り」には成功している。

ドリップ・ファーティゲイション(drip fertigation)のfertigationは造語です。肥料は英語でfertilizerです。それにirrigation(灌漑)を合わせたことばです。英辞郎には、滴下施肥法と書かれていました。液肥を点滴して与える方法のことです。

ピーマンの栽培実験

実験は東京都八王子市で2016年に行われました。八王子周辺で従来から行われている方法でピーマンを栽培した場合と、ドリップ灌漑をして栽培した場合を比較する実験です。

この実験の結果が詳しく書かれている論文は、ドリップ灌漑およびドリップ・ファーティゲイションが露地ピーマンの収量に及ぼす影響です。

実験の条件、肥料の組成、施肥の方法など詳しく知りたい方は、こちらを読んだ方がよいです。

東京八王子あたりのピーマン栽培法としては、「固形肥料にて元肥、追肥を与え、灌漑設備は使用せず、雨のみに頼った手法が一般的」だと書かれていました。

固形肥料と書いてあると「?」と思いますが、普通の肥料のことです。ドリップ・ファーティゲーションの場合は、液体の肥料を使います。

下表のように、試験区は4区つくられ、④が八王子周辺で従来から行われている栽培方法。①がイスラエル方式の栽培方法です。

ドリップ灌漑実験(ピーマン)の4つの試験区の設定
液体肥料固形肥料
ドリップ灌漑あり
ドリップ灌漑+液体肥料
(ドリップ・
ファーティゲイション)

ドリップ灌漑+固形肥料
ドリップ灌漑なし
(雨のみ)

ドリップ灌漑なし+液体肥料

ドリップ灌漑なし+固形肥料
※日本を救う未来の農業 (ちくま新書)による

結果はこのように書かれています。ドリップ灌漑を使う方が収量が増加しました。

結果は、ドリップ灌漑を行った試験区が、雨だけの試験区よりも収量が大きくなった。肥料が液体か固体化にかかわらず、ドリップ灌漑をしたことで、収量が増加していた。もっとも収量が小さかった④区と②区を比較してみると、ドリップ灌漑によって1.33倍の収量増になっていた。

収量は、②のドリップ灌漑+固形肥料が、わずかながら①のドリップ灌漑+液体肥料を上回っていました。

トウモロコシの栽培実験

トウモロコシの実験は、2017年にやはり八王子市で行われました。トウモロコシは与える窒素肥料の量で成長が大きく変わってくることがわかっていたので、窒素の施肥量を変えて収量を増やす実験が行われました。

収量を増やすために考えられたのは、収穫する本数を増やすことです。しかし、これはトウモロコシ栽培ではタブーなことのようです。

この実験で特筆すべきことは、トウモロコシの1株4本取りを実現したことだ。

第2章で述べたように、日本ではトウモロコシの本数というものは、1株から1本だけしか収穫しないのが通例となっている。もし2本目、3本目がなろうとしても、1本目に栄養を集中させるために、あえて早い段階で2、3本目をもぎとってしまう。

実験区は4区あり、下表のように窒素の量が変えられています。C区はドリップ灌漑を行わない、従来からの栽培方法です。

ドリップ灌漑実験(トウモロコシ)の4つの試験区の設定
N1(窒素普通区)N2(窒素多区)N3(窒素超多区)C(対照区)
N300g/10a/日N500g/10a/日N700g/10a/日元肥30kg/10a+
追肥6kg/10a
※日本を救う未来の農業 (ちくま新書)による

結果は、もちろん、N3区が一番収量が多くなりました。

結果は、ドリップ灌漑を行った試験区(N1、N2、N3)と雨のみの試験区(C区)との間で収量に2.66倍もの大きな差が生じた。すなわち、ドリップ灌漑によって、雨だけの時と比べて収量が2.66倍も増加したことになる。

しかし、窒素量を増やせばそれに応じて収量が増えるのではないかという予想は外れました。

さらに、ドリップ灌漑を行うことで特有の効果がありました。

実際には、N1、N2、N3区の間に大きな差は見られなかった。つまり、窒素の量以上に、毎日定期的に水を与えるかどうかの違いが大きく影響しているようであった。(中略)

ドリップ灌漑を行うことではっきりと現れた違いは、初期成長が旺盛となり、分(ぶん)けつと呼ばれる根元からの脇目が現れたことだ。

その数は平均1.5本で、その分けつに二つめ、三つめのトウモロコシが実る形になっていた。

どうやら窒素は単純に増やせばよいというわけではなさそうです。そして、ドリップ灌漑を行うことでトウモロコシの本数が増えやすくなることがわかりました。

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イスラエルの土地には栄養がない

私はずっと今まで砂漠の土は肥沃で、水さえあれば使えると思っていたのですが、逆でした。液肥を混ぜて点滴するドリップ・ファーティゲイションは、砂漠の農業では必須だったんですね。

暑い国の赤や黄色の土は農業にとって悪い土と分類される。(中略)

なぜ土が赤くなるかというと、大切な栄養分(窒素など)が抜けきってしまったためだ。(中略)暑さのために化学反応が早く、有機物(落ち葉やミミズの糞など)はあっという間に分解され、雨とともに流れ去ってしまうからだ。

後に残るのは、酸化鉄と酸化アルミニウムだけで、それらは自転車のサビと同じだ。(中略)

イスラエルの場合、粘土に加えて砂の成分が多いので、全体として赤というよりは白みがかった色をしているが、栄養分がまったく含まれていないという点では、赤い土と共通している。

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灌漑をするとなぜ塩類集積するのか

灌漑の話に塩類集積はつきものです。塩類集積とは、農地に塩が浮いてきてしまう問題です。なぜこんなことが起きるかというと、乾燥地では降雨量が少ないからです。

日本は雨が多い国なので塩類集積の話は聞きませんが、ハウス栽培の場合に問題になることがあるようです。

この本にはその理由がわかりやすく説明されていました。毛管現象がその原因です。

毛管現象とは直径1 mm よりも細いストローのようなもの(毛管)お水に刺すと、そのストローの中を勝手に水が逆流する不思議な現象のことをいう。

この毛管現象は、ストローのようなまっすぐな物だけでなく、そういった細かい隙間さえあれば、どんなところでも生じる。

例えばガーゼの中にも無数の毛管が存在しているので、ガーゼをひも状にしてコップの中のジュースに垂らせば、ジュースは重力に逆らってガーゼを逆流し始める。

これも毛管現象だ。ティッシュペーパーが水を吸い上げる原理も、万年筆やサインペンがきちんと書ける原理も、この毛管現象だ。

そして土もまた、ガーゼと同じように無数の毛管を持った構造をしている。だから地下に水が溜まっている場所(帯水層)があると、水は毛管現象によって土を逆流し、地上に出てこようとする。

ただ、砂漠地帯では、普通はそのような浅い場所に帯水層が存在していない。なぜなら、雨がほとんど降らないので、地下にたまるほどの水がそもそもないためだ。

しかし、灌漑をすると、話は変わってくる。灌漑によって大量の水をまくと、比較的浅いところ(地表下30 cm ほど)に帯水層ができてしまったりする。

すると、その帯水層の水は、土の毛管により、容易に逆流して、地表に湧き出てきてしまう。そのとき、砂漠地帯の日差しは強いので、水はあっという間に蒸発し、水に含まれていた塩分だけを残して蒸発してしまうと、後には真っ白な塩の山が残される。

それが塩類土壌の原理だ

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NOTE

イスラエルの農業には2000年頃から興味を持っていました。糸川英夫さんの本を読んだからです。その当時使えるようになったばかりのグーグルのおかげで、英語のサイトをピンポイントで探すことができ、ずいぶん読みました。

ただ、果たして日本でこのようなハイテク農業を行って効果があるのだろうかとずっと思っていました。何しろ、日本で水が不足することはまずありません。雨がよく降るのに定期的に水と液肥を与えることで収穫量が増えるのかどうか知りたいことでした。

もちろん、日本でもハウス栽培ならそれなりに効果があるだろうなと思います。

しかし、この本を読んで、露地栽培でも効果があることがわかりました。定期的に水をやることに意味があるようです。

また、砂漠の土は水がないだけで、栄養豊富なのかと思っていましたが、栄養がないことがわかりました。

そして、灌漑をすると塩が浮いてくるという話。これも「そうなる」と知ってはいましたが、なぜだろうと思っていました。以前読んだ本では、汗をかいてシャツに塩が浮いてくるのと同じ理屈だと書かれていて、わかるようなわからないような気がしていたのです。この本のおかげでよくわかりました。

時々、思い出したようにイスラエルの農業についての本を探します。この本は実際に実験をして効果を確かめている濃い本でした。

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