ほうれん草のシュウ酸とごまのシュウ酸は違うよ

ごまの表皮にあるシュウ酸カルシウムが結石の原因にならないかと気になって調べました。しかし、難溶性で胃液の中でもほとんど溶けません。シュウ酸が腸から吸収されることはほとんどありません。

ほうれん草は水溶性のシュウ酸ナトリウムやシュウ酸カリウムが含まれていて、胃から腸に行く間にシュウ酸と金属イオンに分かれて、シュウ酸は腸から吸収されます。

また、お茶にも水溶性のシュウ酸がたくさん含まれています。茶葉を食べる方は、カルシウムを一緒に摂る工夫をした方がよいと思います。

ごま

ごまのシュウ酸カルシウムが気になった

少し前に、ごまにはカルシウムがとても多かったという記事を書きました。

ごまにはカルシウムがとても多かった
ごまはたんぱく質と脂質が多い食品です。ミネラルではカルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅が多いですが、カルシウムがずば抜けて多いです。カルシウムは表皮にとても多く、むいてしまうと激減します。そのため、食べるならむきごまでなくすりごまが...

たとえば、いりごま100gにはカルシウムが1200mgも含まれています。しかし、それは表皮にあり、大半がシュウ酸と結合してシュウ酸カルシウムになっていて、ごまに含まれているカルシウムのうち体内で使えるのは半分くらいになります。

シュウ酸カルシウム?

シュウ酸はほうれん草にたくさん含まれていて、結石の原因になることがよく知られています。

ごまにはシュウ酸が多いから注意するような話は聞いたことはありませんが、念のために調べてみることにしました。

シュウ酸は毒になる

こわくない 有機化合物超入門~口紅からダイオキシンまで身近なものから理解する~にはこのように書かれていました。

シュウ酸は単なる「アク」か結石のもとになるものだと思っていたのですが、もっと威力があり、体に毒になるものでした。

結晶になるものと、水溶性のものがあります。

灰汁抜きで除かれる化合物の中には、シュウ酸やその塩もあります。

サトイモ科には有毒植物が多いことをお話ししましたが、そのひとつであるクワズイモは、シュウ酸カルシウム(Ca(COO)2)の結晶を大量に含んでおり、口にすると、口の中に水泡が出来たり、舌や咽頭に浮腫が生じたり、唾液の分泌亢進が起きたりして、しゃべるのが困難になるような症状が24~48時間続きます。

そして、舌の浮腫がひどければ呼吸困難におちいることもあるといいます。

その他のサトイモ科の植物、たとえばカラスビシャクやミズバショウ、ザゼンソウ、クワズイモなどにもシュウ酸カルシウムの結晶を大量に含みます。

一方、サトイモ科以外の植物では、タデ科のオオイタドリやスイバなどにシュウ酸(HOOC-COOH)が水溶性のナトリウムまたはカリウム塩のかたちで多量にふくまれています。

そのためスイバの野菜スープを大量に摂取し、嘔吐、下痢、意識障害をきたし死亡した例があります。

これは水に可溶性のシュウ酸のナトリウムまたはカリウム塩が血液中のカルシウムイオンと結合し、不溶性のシュウ酸カルシウムを生成するためにおこる中毒です。

この中毒の際の剖検によれば、腎皮質や肝臓の毛細血管、肺、心臓にシュウ酸カルシウムの結晶が認められたといいます。

これは、大量の水溶性シュウ酸カルシウムの摂取によって低カルシウム血症となり、さらに、臓器内でシュウ酸カルシウムの結晶が沈着して障害を引き起こしたのです。

まずは、シュウ酸カルシウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウムがどんな物質なのか構造式を見てみましょう。隣に示性式も書きました。

シュウ酸

シュウ酸カルシウムは難溶性でシュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウムは水溶性

シュウ酸カルシウムは難溶性で、水にほとんど溶けません。水への溶解度は0.00067 g/100 ml (20 ℃)です。(出典

一方、シュウ酸ナトリウムの水への溶解度は、3.41g/100 ml (20 ℃)です。(出典)また、シュウ酸カリウムの水への溶解度は、36.4g/100 ml (20 ℃)です。(出典

水に溶けたらシュウ酸に戻る

水に溶ける/溶けないは重要なことです。

シュウ酸カルシウムは、難溶性でほとんど水に溶けません。そのままです。

しかし、シュウ酸ナトリウムとシュウ酸カリウムは、シュウ酸と金属の塩ですが、水に溶けたら、シュウ酸と金属イオンに分かれます。シュウ酸は水に溶けて腸から吸収されます。

これが体の中に入ると、カルシウムと結合して結晶となり体に害を与えます。結石も同じ仕組みです。

しかし・・・、重要なことを忘れていました。ごまを食べると、シュウ酸カルシウムを含んだ表皮が胃の中を通過するのでした。胃の中には塩酸があり、強酸です。シュウ酸カルシウムくらいは溶かしてしまうのではないかと思います。

シュウ酸カルシウムは胃でも溶けにくい

シュウ酸カルシウムを含むごまを食べたらどうなるのか、時間がかかりましたが、なんとか文献を探すことができました。

ごま中のカルシウム,シュウ酸及びシュウ酸カルシウム結晶の分離抽出に書かれていました。

一方胃液のpHは約2と考えられるが,pH2におけるシュウ酸カルシウムの溶解度を計算すると約2×10-3Mとなり,これは簡単に溶解し難い値である.

植物性食品を摂取した場合,その中に含まれているシュ酸カルシウム結晶は胃液中では溶解が不完全若しくは溶解速度が極めて遅いと考えられる.

従って,シュウ酸カルシウムとして含まれているごまの場合もカルシウムは完全には消化吸収されない可能性も大きいと思われる.

上の文中にある濃度Mは、mol/Lという意味です。

胃液100mlに何グラム溶けるか?

ちょっと計算してみましょう。

まず、シュウ酸カルシウムの分子量を求めます。(COO)2Caについて計算していきます。C=14、O=16、Ca=40です。

(12+16×2)×2+40=128です。シュウ酸カルシウムの分子量は128です。これの2×10-3倍したものがpH2の胃液1L(1000ml)に溶けています。

128×2×10-3=0.256(g)です。

シュウ酸カリウムとシュウ酸ナトリウムの溶解度では100mlあたりで計算したので、それに合わせると、0.0256gしか溶けません。

なるほど。シュウ酸カルシウムは強酸の環境でも溶けにくいことが分かりました。

つまり、ごまに含まれるシュウ酸カルシウムは、結石の原因になると心配しなくてよいということが分かりました。

ほうれん草のシュウ酸は水溶性

ほうれん草のシュウ酸は、水溶性なのでしょう。信頼できるサイトを探すのに少し時間がかかりました。

尿路結石症診療ガイドライン 2013年版にはこのように書かれていました。

タデ科,カタバミ科,アカザ科(ホウレンソウなど)の植物には水溶性シュウ酸塩(シュウ酸水素ナトリウムなど)が,サトイモなどには不溶性シュウ酸塩(シュウ酸カルシウムなど)が含まれる。

やはり水溶性シュウ酸塩が含まれていました。また、日本植物生理学会のほうれん草のシュウ酸にもこのように書かれていました。

ホウレンソウ、イタドリ、カタバミなどのシュウ酸は水に溶けるカリウム塩やナトリウム塩の形で液胞という袋の中に閉じこめられています(葉や茎を囓ると酸っぱく感じます)が、ブドウ、ソラマメ、イチジクなど多くの植物では、不溶性のシュウ酸カルシウムの結晶となって液胞の中に含まれています。

シュウ酸カルシウムはいろいろな結晶の形を取ります。サトイモやその葉柄(ずいき)にはシュウ酸カルシウムが針状結晶となっていますので、サトイモの皮を剥くと手がかゆくなったり、生のずいきをふつうに煮たり茹でたりしただけでは、食べると舌や喉の奥が「チクチク」刺されたようなえぐ味を感ずるほどです。

これはシュウ酸カルシウムの細い結晶が刺さったためとされています。

ほうれん草のえぐみはシュウ酸ではない?

ほうれん草を食べるときは、ゆでて灰汁(あく)を抜いて、シュウ酸を減らしてから食べたり調理するという話をよく聞きます。

ホウレンソウのえぐ味はシュウ酸に由来するかを読むと、どうも、アクによるえぐみとシュウ酸とはそれほど関係がないようです。

ホウレンソウにはシュウ酸が1%程度含まれ,これがえぐ味との関係で論じられることが多い。

ホウレンソウを茄でる目的のひとつはえぐ味成分であるシュウ酸含量の低減化にあるとされるが,十分茄でて水にさらしても,シュウ酸は半分程度は葉中に残り,残ったシュウ酸の含量は他の葉菜類と比較しても著しく高い。

この程度のシュウ酸含量の低下でえぐ味が防げるのか疑問が残る。

シュウ酸の多い食品

日本食品標準成分表2015年版(七訂)から調べました。食品の中では、ほうれん草が多い。ピュアココアは加工品ですが載せました。ココアに多いということはチョコレートにも多いということです。

シュウ酸 : 含有量
食品名成分量
100gあたりg
ほうれんそう/葉生0.7
ピュアココア0.7
さといも/球茎生0.1
さつまいも/塊根皮つき生0.1
オクラ/果実生0.1

さらに、先ほどの尿路結石症診療ガイドライン 2013年版に表が出ていたので、転載します。こちらは海外のデータのようです。

野菜類100gあたりのシュウ酸含有量(mg)
種類含有量(mg)
ホウレンソウ、スイバ800
キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、レタス300
サツマイモ250
ナス200
ダイコン、コマツナ、カブ50

お茶に水溶性シュウ酸が多い

こちらのお茶の含有量は参考にした方がよいと思いました。もとの文献は、緑茶の蓚酸含量ならびに緑茶浸出液中の蓚酸です。

この数字はもちろん、乾燥茶葉100gあたりです。お湯を注いでお茶を飲む時には、シュウ酸の数字は低くなりますが、茶葉を食べたり、粉茶にして全部飲んでしまう方は注意が必要です。ちなみに私も出がらしの茶葉を食べることがたびたびあります。

お茶類100gあたりの
シュウ酸含有量(mg)
種類含有量(mg)
玉露1350
抹茶、煎茶1000
番茶670
ほうじ茶286

出がらしの茶葉を食べる時は、おひたしを食べる時のように、かつお節と醤油をかけるなど、カルシウムを同時に摂るようにしておけば、安心です。

まとめ

ごまのシュウ酸カルシウムが気になって調べましたが、難溶性でしかも塩酸である胃液の中でもほとんど溶けません。カルシウムとして使えませんが、シュウ酸が体に入ってくることもないので気にしなくて大丈夫です。

ほうれん草は水溶性のシュウ酸ナトリウムやシュウ酸カリウムが含まれていて、胃から腸に行く間にシュウ酸と金属イオンに分かれて、シュウ酸は腸から吸収されます。

さらにお茶にも水溶性のシュウ酸がたくさん含まれています。普通にお茶を飲んでいる分にはあまり心配はないと思いますが、栄養源として出がらしを食べたり、最初から茶葉を挽いて全部飲んでしまう方は、カルシウムを一緒に摂る工夫をした方がよいと思います。

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