きのこは水分が90%程度ありますが、全体の3%程度がたんぱく質で、同じ重さなら牛乳と同じくらいの割合です。大豆や肉とは比べものになりませんが、森の中で野生のものを採って来ると考えると、非常時に食べるには案外頼りになるものだと思います。
きのこの栄養
代表的なきのこの栄養は以下の通りです。
水分が90%程度ある
どのきのこも水分が90%程度あります。つまり、ほとんどが水分です。それでも残りの成分であのような形を保っているのですから、すごいなと思います。
タンパク質は2~3%
きのこってタンパク質が意外とあるんだなと思いました。
炭水化物の50%程度は食物繊維
キノコは食物繊維が多いといわれます。炭水化物の半分程度は食物繊維です。
エネルギー | 水分 | たんぱく質 | 脂質 | 炭水化物 | |
えのきたけ/生 | 22kcal | 88.6g | 2.7g | 0.2g | 7.6g |
ぶなしめじ/生 | 18kcal | 90.8g | 2.7g | 0.6g | 5.0g |
なめこ/生 | 15kcal | 92.1g | 1.8g | 0.2g | 5.4g |
エリンギ/生 | 19kcal | 90.2g | 2.8g | 0.4g | 6.0g |
まいたけ/生 | 15kcal | 92.7g | 2.0g | 0.5g | 4.4g |
マッシュルーム/生 | 11kcal | 93.9g | 2.9g | 0.3g | 2.1g |
まつたけ/生 | 23kcal | 88.3g | 2.0g | 0.6g | 8.2g |
生しいたけ/原木栽培 | 23kcal | 88.3g | 3.1g | 0.4g | 7.6g |
※日本食品標準成分表2015年版(七訂) |
他の食品と比較してみる
きのこだけでは、栄養成分が多いのか少ないのか分からないので、普段食べているような食品を並べてみました。きのこは上の表で生を選択したので、穀物はゆでて水分を含ませた状態のものを選びました。
きのこは野菜に近くて少したんぱく質が多い
穀物、野菜、肉、牛乳を調べました。栄養成分としては、野菜に近くて野菜よりもたんぱく質が少し多いのが特徴でしょうか。牛乳なみにあります。
エネルギー | 水分 | たんぱく質 | 脂質 | 炭水化物 | |
めし/ 玄米 | 165kcal | 60g | 2.8g | 1g | 35.6g |
めし/精白米/ うるち米 | 168kcal | 60g | 2.5g | 0.3g | 37.1g |
だいず/全粒/国産/ 黄大豆/ゆで | 176kcal | 65.4g | 14.8g | 9.8g | 8.4g |
じゃがいも/ 塊茎生 | 76kcal | 79.8g | 1.6g | 0.1g | 17.6g |
キャベツ/ 結球葉生 | 23kcal | 92.7g | 1.3g | 0.2g | 5.2g |
こまつな/ 葉生 | 14kcal | 94.1g | 1.5g | 0.2g | 2.4g |
和牛肉/サーロイン/ 脂身つき生 | 498kcal | 40g | 11.7g | 47.5g | 0.3g |
ぶた/ロース/ 脂身つき生 | 263kcal | 60.4g | 19.3g | 19.2g | 0.2g |
若鶏肉/もも/ 皮なし生 | 127kcal | 76.1g | 19g | 5g | 0g |
普通牛乳 | 67kcal | 87.4g | 3.3g | 3.8g | 4.8g |
※日本食品標準成分表2015年版(七訂) |
きのこは栄養豊富だと書いてあったが?
キノコの歴史 (「食」の図書館) を読みました。原書房のこのシリーズは、なかなか面白いです。
ところで、この本には、きのこが栄養豊富だと書かれているのです。
キノコの栄養特性に関する研究は、あらゆる分野で科学への関心が高まった19世紀に始まった。
1880年ごろにはベルギー当局が、貧困層のタンパク摂取量を増やすため、キノコの栽培を推奨している。1861年には、イギリスの菌類学の父とされるマイルズ・ジョゼフ・バークリー牧師が、多少の驚きを示しつつこう記している。
東欧には黒パンとキノコ(乾燥キノコか酢漬けのキノコ)で食事をまかなっている人が多い、と。
キノコは、種、生育環境、基質[キノコの生えている土台]に応じて、その栄養素含有量が大きく変わる。たとえば、木に生えているキノコは、地面に生えているキノコよりもミネラルの含有量が少ない。
1986年のチェルノブイリ原発事故の放射性降下物を調査している研究者によれば、キノコは周辺の重金属や放射線も吸収するという。
だが一般的にいえば、キノコは、タンパク質、カリウム、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、パントテン酸塩(ビタミンB5)、ビタミンDの前駆物質(エルゴステロール)、セレン、銅の豊富な供給源となる。
また、免疫機能において重要な役割をはたす多糖も多く含んでいる。キノコがもつ医学的効用とは、大部分はこの多糖によるものだ。
一方、栄養面においていちばんの鍵となるのは、アミノ酸含有量である。タンパク質はアミノ酸が多数むすびついたものだが、キノコのタンパク質含有率は、生の状態で重さの1~4パーセント、乾燥時で重さの10~45パーセントにおよぶ。
キノコ狩りでとりわけ人気の高いアンズタケ(Canthalleras cibarius)にいたっては、11~24パーセントのタンパク質を含む。
そのうえキノコには、すべての必須アミノ酸がそろっている。ただし、リジン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンなど、キノコだけでは十分な量を摂取できないアミノ酸もある。
そのため、タンパク質を不足なく摂取するためには、ほかの食べ物で補う必要がある。
また、キノコの生体利用効率(摂取した生体が実際に利用できる物質の割合)は3分の2程度である。キノコの細胞壁がキチンでできており、人間には消化できないからだ。
その結果、栄養学的に見てキノコは、野菜と豆のあいだ、肉と牛乳のあいだあたりに位置する。
ちなみに、平均的なベークドポテトのタンパク質含有量は約3.9パーセントである。
古代の年代記によれば、戦争や飢饉の際も、栄養豊富なキノコを食べていれば生き延びることができたという。
このキノコには、生のキノコだけでなく乾燥キノコも含まれる。いずれにせよ、キノコが平時・戦時いずれの時代も人間の重要な栄養源になっていたことはまちがいない。(中略)
最近でも、栄養源をキノコに頼っている例には事欠かない。K・ウィルソンが難民の食料事情を紹介した1989年の記事によれば、モザンビークからマラウィへ逃れた難民は、1980年の飢饉をキノコで乗り越えたという。
実際、1999年にP・アボットがマラウィでおこなった実験により、キノコが人間の生存に役立つことが証明されている。
4人家族を対象にした2週間におよぶ実験の結果、乾燥葉物野菜もしくは野生の食用キノコ、あるいはその両方を毎日1.3キログラム食べていれば、家族全員が健康を保つのに十分な栄養を摂取できることがわかったのだ。
キノコは水だけでできているわけではないのである。
アンズタケ
アンズタケはウイキペディアに記事がありました。日本ではポピュラーではありませんが、世界中でよく食べられているきのこだそうです。
アンズのような香りとコショウのようなピリッとした味で、鶏卵、カレー、鶏肉、豚肉、仔牛肉などと良く合い、ピザのトッピングやシチュー、マリネ、フライ、クレープの具などに用いられる。伝統的には鹿肉と合わせて食べられる。(出典)
では詳細に見ていきましょう。普段よく買うぶなしめじとまいたけについて調べてみました。
必須アミノ酸
必須アミノ酸は、青いマーカーで塗っておきました。確かに9種類すべてあります。ただし、たんぱく質量がもともと少ないですから、量的には少ないです。
ぶなしめじ/生 | まいたけ/生 | |
カリウム | 380mg | 230mg |
銅 | 0.06mg | 0.22mg |
マンガン | 0.12mg | 0.04mg |
ヨウ素 | 2μg | 0μg |
セレン | 3μg | 2μg |
ビタミンD | 0.6μg | 4.9μg |
ビタミンB1 | 0.16mg | 0.09mg |
ビタミンB2 | 0.16mg | 0.19mg |
ナイアシン当量 | 6.9mg | 5.4mg |
ビタミンB6 | 0.08mg | 0.06mg |
葉酸 | 28μg | 53μg |
パントテン酸 | 0.86mg | 0.56mg |
ビオチン | 9.9μg | 24μg |
イソロイシン | 81mg | 57mg |
ロイシン | 130mg | 66mg |
リシン | 120mg | 84mg |
メチオニン | 16mg | 13mg |
シスチン | 26mg | 20mg |
フェニルアラニン | 80mg | 60mg |
チロシン | 59mg | 57mg |
トレオニン | 97mg | 80mg |
トリプトファン | 19mg | 26mg |
バリン | 100mg | 84mg |
ヒスチジン | 48mg | 41mg |
アルギニン | 150mg | 85mg |
アラニン | 150mg | 100mg |
アスパラギン酸 | 140mg | 130mg |
グルタミン酸 | 340mg | 210mg |
グリシン | 94mg | 78mg |
プロリン | 83mg | 66mg |
セリン | 100mg | 81mg |
ヒドロキシプロリン | – | – |
※日本食品標準成分表2015年版(七訂) |
ビタミンB2
ビタミンB2について、働き、1日の必要量などを含めて、ビタミンB2は脂質代謝に重要という記事を書いています。
成人男性の推定平均必要量は、1.1~1.3mg/日、成人女性の推定平均必要量は0.9~1.0mg/日です。これも多いとはいえません。
ナイアシン
ナイアシンについて、働き、1日の必要量などナイアシンはニコチン酸とニコチンアミドという記事を書いています。
成人男性の推定平均必要量は、11~13mg/日、成人女性の推定平均必要量は8~10mg/日です。これはまあまああります。
パントテン酸
パントテン酸についてパントテン酸はCoAを構成する一部であったのかという記事に1日の必要量について書いています。
成人男性の推定平均必要量は、5mg/日、成人女性の推定平均必要量は4~5mg/日です。これは足りないですね。
ビタミンD
きのこの前駆物質エルゴステロール含有量について調べられなかったので、ビタミンDについて調べました。
ビタミンDについて、ビタミンDの過剰摂取はいけないが高摂取は望ましいとかという記事で、1日の必要量などについて書いています。
成人男性の目安量は、5.5μg/日、成人女性の目安量も5.5μg/日です。マイタケなら100g食べると1日分をまかなえます。
目安量はこのように説明されています。
推定平均必要量・推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に、ある性・年齢階級に属する人々が、良好な栄養状態を維持するのに十分な量である。(出典)
セレン
セレンの欠乏症など考えたことのある人はまずいないと思います。日本人の食事摂取基準(2015年版)によると、成人男性の推定平均必要量は、25μg/日、成人女性の推定平均必要量は、20μg/日ですから、豊富とはいえないでしょう。
銅
日本人の食事摂取基準(2015年版)によると、成人男性の推定平均必要量は、0.7mg/日、成人女性の推定平均必要量は、0.6mg/日ですから、こちらも豊富とはいえないでしょう。
多少例外はありますが、最初の三大栄養素の分析通り、きのこは栄養豊富だとは思えないですね。
採って来る野生の物の中では高栄養ということか?
きのこは栄養豊富だとはいえないのですが、森の中に勝手に生えて、それを採って来ると考えると、たんぱく質が牛乳を飲む程度にはあります。
飢饉や、戦争中などの非常時には食料不足になります。そんなときは、頼りになる食料だと考えればよいのかなと思いました。
きのこは雨が降ったあとに森に入ると、急に生えてくる印象があります。
まとめ
きのこは水分が90%程度あります。ほとんどが水分です。しかし、全体の3%程度がたんぱく質で、同じ重さなら牛乳と同じくらいの割合になります。
大豆や肉とは比べものになりませんが、森の中で野生のものを採って来ると考えると、そこそこたんぱく質があり、非常時に食べるには案外頼りになるものだと思います。
もちろん、きのこは光合成をするわけではありません。朽ちた木を分解してそこから得ているのです。